正義のミカタ
突然だがこの世界には「民衆の脅威」と成りうる存在にはランクが付けられている。
成人男性一人で対処できうる存在…Lv.1。
猟銃を持たせたハンター複数を投入すれば対処できる存在…Lv.2.。
一個師団を投入すれば対処できる存在…Lv.3。
国全体で対処しなければならない存在…Lv.4。
現時点で対処不可能な存在…Lv.5など。
そしてこのレベル5に対応出来るものを勇者と呼ぶ。
現状このレベル5が現れたことはまだ無いが、レベル3辺りに差し掛かると懸賞金も掛けられ始め問答無用で殺害することもやむを得ないとされている。
何故俺がこんな話をしたかと言うと今まさに俺がレベル3の存在として軍に俺への討伐命令がくだり、俺の首には鋭く光る剣の切っ先が突きつけられていたからだった。
「待て待て落ち着けよ王女さま。オレ、ニンゲン。バケモノチガウ。オーケー?」
「母体の子宮の赤ん坊を殺し、化けて1家全員を皆殺しにする人狼、『ウルフル』そっくりの毛むくじゃらの子供がここに暮らしているとの情報がありましてね」
「それで何で俺がその人狼って話になるんだよ!」
「簡単です。人狼『ウルフル』は生まれながらに人と違う身体的な特徴を持って生まれてくるとされています。そして貴方、毛むくじゃらの状態で生まれてきたと聞きました。疑いようも無いでしょう」
「というか、なんで勇式皇女殿下様がわざわざ出向いて来るんですか?そこら辺の下っ端でいいでしょう?」
勇式皇女殿下、それが彼女の名前だ。
勇者に比肩できる力があるにも関わらず、女という性別で勇者になれなかった女の子。それを国王は哀れみ自らの養子に迎え入れ、兼・懐刀としてその名前を轟かせている。
ゆえに「勇式」皇女殿下。
「…先日、父が殺されました」
「…!?」
つまり国王が死去したということになる。
「犯人はすぐに見つかりました。メイドの一人が人狼だったのです。ですが奴は死ぬ寸前にこう残しました。「灰の森」に俺の弟がいる…とね」
「それであの村人どもが俺を告発した、と」
「…貴女にはなんの恨みもありませんが、せめて楽に殺してあげましょう」
「…フフ」
「何を笑っているんですか」
俺はなんだかおかしくなってしまって腹を抱えて笑いだしてしまった。
「いやあ…なんだかすげー馬鹿馬鹿しくてな」
「…それは私の父に対する侮辱と受け取りますよ」
「その王様を殺した人狼って奴の言葉のどこにそんな根拠があるんだ?何で王女様は1から10まで全部言うことを信じたんだ?」
「黙りなさい」
「それに俺たち家族は化け物扱いされてここに逃げ込んでひっそり暮らしているんだ…事情も知らないくせにそんな奴らの言うことをお前は間に受けて俺を殺しに来た」
「黙れ」
「要するにお前は自分を悲劇のヒロインに見立ててかりそめの正義に酔ってるただのクソガキだ。俺って性格悪いからさ、そういう自己陶酔してる正義のヒーローみてると、なんつーか」
皇女がすらりと剣を抜いた。そして俺の首を目掛けて振り下ろす。
「反吐が出るぜ、クソ女」
風を斬る音と共に、銀閃が凪いだ。