記録「英雄ラギエル・ポートの一生」
俺はアメリカのテキサスのちぃせえ街で生まれた。
若いウチは悪いこと全部やった。
20になってからはオヤジの家業を継ごうかとも思ったが俺には小さい頃からの夢があった。
無辜の人々を守護する英雄に。
肉体を虐め、鍛え抜き、俺は軍隊に入った。
そこまでは、良かった。
初めての殺しは忘れもしねえベトナム戦争。
俺は森の中でヤツらのゲリラ部隊に襲われ無我夢中で発砲して右腹部と目から脳天を銃で撃ち抜いて殺した。いや、死んでいたって方が正しいのかもしれない。その時向けられた本物の殺意にビビってライフルのトリガーを引いたら敵が死んでいた。結果論だ。
知ってるか?血って水ってより飛び散ったインクみてーに固まって飛び散るんだぜ?
敵は殺す。仲間も死んだ。殺して殺して俺は生き残り続けた。
英雄。悪いやつを倒して正義を執行する者。
当然俺もそう信じて疑わなかった。目の前で俺たちを睨みつけるこの浅黒い男もきっと我らが神の敵なのだろう。上官のその上の上官も俺の部下だって神の敵ならこの殺しは聖戦だと信じて疑わなかった。
勿論、俺も。
「神とは何だろうか」
その疑問が俺の頭に浮かんだのは地雷を埋めている時だった。スコップで地雷に土を被せている時にそれを教えて貰った。
「なあ知ってるかラギエル」
「…ふう、何がだよ」
ひと段落させた俺はマックに視線を向ける。
こいつはマック。俺と同期で何かと縁のある男。
「地雷ってよ人殺す為に作られてないんだって」
「は?じゃあ俺たちは何のためにこんな物騒なもん埋めてんだよ。燻製でも作る気か?」
「なんでもわざと威力低くしてよ、下半身吹き飛ばして敵の恐怖を煽るんだってよ。考えたやついい性格してるよなあ」
その一言で俺の中の何かが崩れた気がした。
俺たちが今まで戦ってきた者は、者たちは神の敵なのでは無いのか?何故わざわざそんな苦しませる必要があるのか?神が我ら、そんな。
その日の夜、マックは死んだ。
本当にあっけなく。普通に。ターン、と聞こえたかと思えば眉間に弾丸がめり込んだ。頭が後ろに跳ね上がって死んだ。硝煙の匂いと巻き上がる土煙を背にマックの形をした肉塊を後にした。
何故か涙は出なかった。瞼が開いたまま動かなくなった瞳孔を今でも思い出す。
不思議なことにそこからは今までの命のやり取りがまるで『作業』に変わった様だった。
ロックを外してトリガーを引いて殺す。大人だろうが老人だろうが子供だろうが赤子だろうが殺して肉塊に変えた。命の価値。殺した。生命の輝き。殺した。
俺たちは神の為に、平等な世界になる為に戦っている。平等な世界とはつまり分け隔てなく接する事だろう?俺は間違っていない。そう、俺は間違っていない。彼らは神のみもとに送られる。ちょっと早めに送ってやっただけだ。俺は悪くない。俺は間違っていない。
その日から何の前触れもなく泣くようになった。
仲間の銃弾が誤射で俺の右肩を吹き飛ばし、治療のため前線を退いていた間に戦争は終わった。メディアがどうとかあったがそこらの事情は一般下級兵の俺には関係ないことだ。
嫁もできたし子供も二人生まれた。
俺は家業を継ぐことにして逃げるように軍を辞めた。
幸せな家庭。何不自由無い生活。
ある日、幸せな家庭に一人の男が侵入した。
後で知ったが家族を殺されたベトナム人の少年だった。動機は当然復讐だ。
俺は涙を流さなかった。
その夜を、久しぶりの一人の夜を過ごした。
翌朝、俺は首を吊った。
目が覚めると俺は椅子にもたれていた。
唐突に一枚の紙を渡された。
「何が欲しい?」
『家族と合わせてくれ』
視界が暗転した。
俺はポポという国の娼婦の元に生を受けた。
この世界にはパークという特殊能力を持って産まれるらしい。俺には手に力を込めると任意の物体を一瞬で引き寄せる能力が与えられた。
どうやら俺は望まれない命だったらしい。俺はすぐに孤児院に出された。そこは暖かかった。優しい園長に楽しい仲間たち。俺が16になるまで第二の生はとても順調だった。楽しかった。前の記憶も押し込めていた。出さなかった。
ある日、用事のために少し空けていた園に戻ると人が居なかった。
中を探るとクローゼットの中から恐怖と苦悶の表情を浮かべた園の中でもまだ10歳にも満たない子供たちの塊がぼろぼろと雪崩落ちてきた。
「……」
しかし逆を返せば孤児院みんなが殺されていた訳では無いとラギエルは確信した。園長や10歳以上の年齢の子供たちの姿は無かったからだ。
それだけを希望に、すがりつくように俺はポポの国を探して回ることにした。誰も助けてくれる人間は居ない。
半月が経った。色々な情報を得た。
どうやらポポの前王が死去し、新たな王が台頭した。こいつがクソ野郎だった。どうも自分よりも頭のいい人物が気に入らないらしく国全体から知識人を集め、国家転覆罪などの適当な罪を吹っかけ処刑しているらしい。
とある娼館に辿り着いた。そこで園にいた女の子が変態共の捌け口に使われていると聞いたからだ。中に入ると誰も俺を追い返そうとしなかった。直後、脂ぎった太った親父に声を掛けられた。どうやら俺はここの従業員だと思われたらしい。生憎そっちの趣味は無いから断ると店のオーナーを呼びつけられた。
あろう事か奥から出てきたのは俺の事を捨てたあの母親だった。あのゴミを見るような目。シワこそ増えているが見間違えるものか、俺の母親だ。
半ば脅迫のような形で園の女の子を聞き出すことに成功した。彼女は現在刑務所の中に服役しているらしい。俺は娼館を飛び出した。
教えて貰った場所に着いたつもりだったがそこは刑務所と冠しておきながら処刑場のようでもあった。どこか懐かしい匂いを感じた。少し処刑の様子を眺めていた。ある者は首を締められそのまま放置したのか頭は黒く変色し、裸にされた女がムチで叩かれ肉が捲られていた。その様子を眺めていると男に声を掛けられた。
「お前、ガキのくせに死体に慣れているな。面白いもんを見せてやる。こっち来い」
「はあ」
向こうからしたら退屈しのぎだったのだろうが俺はハンマーで頭を殴られたような感覚に襲われた。
「こっちだ」
そこは狭い部屋だったがたくさんの子供たちが押し込められていた。
「…?」
一緒意味が分からなかった。頬がこけて茶色に変色した子供たちがお互いを食いあっていた。目が血走り、爪が剥げていた。むしり取られたように髪が禿げあがり腹はぼっこりと妊婦のように膨らんでいる。
互いの肉を裂いて爪に残った血と油を舐めとる。赤子を壁に打ち付け殺し、それを貪る者もいた。
何よりもそれが元孤児院の子供たちだったことだ。
……
俺は部屋の中の子供をパークを使って皆殺しにした。石やガラス片がひとつあれば瀕死の子供たちを殺すことなど造作もないことだった。
俺は泣かなかった。
その後そこにいた兵士を殺した。目に付いた者も殺した。娼館に戻り三人の変態オヤジどもを殺した。俺を産んだ母親を犯した後に顔を殴り殺した。動かなくなった後で俺はオレンジ色の作業服を着た男たちに捕まえられた。どうやら殺した中の一人が新政権の幹部だったらしい。そしてあのクソッタレな刑務所にぶち込まれた。
刑務所では不思議とパークの行使が出来なかった。牢屋の柱に触れると力が抜けてしまうのだ。
半年ほど過ごしていたのか。ある日突然出房を命じられ俺は幼稚園の一室のような部屋に通されガキ共の遊ぶような玩具を一つ選ぶように命じられた。
俺が選んだのは"水鉄砲"。
名を「即死級の愛憎」と言った。




