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アン・ラックマン


「あのー、誰かいませんかー!」


放置されてたから1時間ほど経った。パキラは手を水晶に付いたままの状態を維持することを余儀なくされた。流石に手足を伸ばしたい。


「はぁ、いくらなんでも遅すぎるだろ…」


もう何度目だろうか。辺りをぐるりと見渡して首の運動をする。腰も痛くなってきた。


見飽きるほど眺めた古ぼけた時計の針が午後2時を差し、ひとまず俺たちを殺したあの男と遭遇するルートは回避できた…と思う。忙しなく部屋の外では職員が廊下を行き交う音が途切れることなく続いている。ブーツで床を踏む音が甲高く聞こえたその時だった。


ん?


続いている(・・・・)?よな、それも。1時間も前から、ずっ(・・・・・・・・・・)()


まるで永遠にループしているかに聞こえる。念の為に首元の紐を引っ張り『セーブ』をする。


そして手を水晶から離してドアノブに手をかけ、扉を勢いよく開けた。広がる景色は入った時同様、何も変わらない。慌ただしく行き交う職員が目に入っただけだった。


「な、なんだよ…ビビったぜ…」


パキラがドアを閉めたその時だった。


「ーー水?」


パキラの首元に水滴が垂れたかと思うとそれまで付いていた部屋の灯りがふっと消えた。水晶の中の炎の揺らめきが闇の中で艶めかしく存在感を放っている。


「…気味わりぃな……」


なんだかパキラは居心地が悪くなり、水晶の部屋を後にしようとしたその時だった。

勢いよく部屋の隅にあった花瓶が床に倒れて、音を立てて割れた。内心ビクッと心臓が跳ね上がり、そんなくだらないことで驚いた自分に腹が立ち荒々しく扉を開ける。


目の前にいた職員はどこへ行った?


それがパキラがいの一番に抱いた感想であった。


どこまで行っても先の見えない闇の廊下。水晶の部屋の外を囲うようにして無数に取り付けられた蛇口が目に飛び込んできた。気味悪がっているとそれらはパキラの視線に反応したかのようにストッパーが突如緩み、尋常ではない量の放水が始まった。


慌ててパキラが扉を閉めるが少量の水は部屋に入り込み、くるぶしまでが完全に浸かってしまい靴下が濡れて非常に気持ち悪い。さらに暗闇と水のせいでどんどん気温が下がっていくような気がした。


「まあでも最悪これ引っ張ればーー、ぁ」


そうだ思い出した。

俺はこの異常空間を確認する前に既に紐を引いてセーブをしてしまっている。するとまた同じこれが繰り返されるわけで。


「もしかして俺今詰んだ?」


死ねない。死んでも意味が無い。それに気付くとじわりと嫌な汗が吹き出してくる。水・暗闇に重ねて輪をかけて最高に不快だ。

誰に話しかけるでもなくぽつりとパキラがクソ、と吐き捨てるとそれに反応するかのように水面に何か浮かび上がってきた。


「あ…あ……」


「今度は人形かよ…」


パキラはまるで喋っているかのように身体を軋ませ音を立てるブリキの人形をすくい上げた。


「…たな?」


「あん?」


お前、水晶から手を(・・・・・・・・・・)離したな(・・・・)ーー?」


「ああ、離したよ。こんな風に…なッ!」


思い切り部屋の壁に向かって投げると石の壁とぶつかり甲高い金属音が部屋に鳴り響いた。何事も無かったかのようにむくりと起き上がりパキラに話しかける。


「手馴れているな」


「…慣れるも何もお前みたいなやつについこの間会ってたからな」


「じゃあコレ見たことあるか?」


ブリキの人形は右手を突き出すと、その腕をてらてらとした表面の触手が絡みつき右肩から指先まで完全に覆い、小型の大砲のような形を形成する。


「…いや、ある意味二度と会いたくなかったよ…!」



ーーパキラが言い終わるが早いか奴が壁を蹴るその音はまるで2ラウンド目のゴングに聞こえた。






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