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ギルドカード


もはや遠い昔のように感じるギルド『腐った臓物亭』。扉を開け中に入ると真っ先に目に飛び込んできたのは全体的に「The・村人A」のような地味な服装に身を包んだ顔立ちの整った一人の少年と二人の美少女だった。贔屓目に見ても似つかわしいとはとても思えないそのギャップに、パキラの本能はこいつらの誰かが水晶を破壊したぶっ飛び野郎だと確信めいた物がそこにはあった。


黒髪を後ろで束ね、やけに露出度の高い受付嬢の頬を染めながら軽快なトークで話すその少年にパキラは歩みよる。


「話の途中で割り込んですいません、どうしても。どうしても早く冒険者登録を済ませておきたいのです。どうか譲って貰えませんか」


「え、ええまあ良いですよ。それじゃあまた、その『審査』って時に会いましょう』


「はい!」


その少年へのしおらしい態度はどこへやら、受付嬢はパキラへ向き直ると唾でも吐きそうな態度で話し始めた」


「…でぇ?えーっと何の用件でしたっけえ?」


そのめっちゃ嫌そうな表情を隠す気も無いのだろうか。


「…はい、その冒険者登録ってのがしたくて……」


態度とは裏腹にそこからは早かった。


既にチナツから手渡されていた偽の戸籍謄本や彼女に言われるがままに書類をサラサラと書くと驚くほどすんなりと書類審査を通過した。


そこから俺たち二人は別室に通され、それぞれの似顔絵と血判を取られてそこを後にした。


「い…痛かったです…」


職員に巻いて貰った包帯をした指にフーフー息を吹きかけながらリリィは呟いた。


「そう言えばリリィって血とか苦手なのか?」


「むむむ無理です無理です!卒倒しちゃいますよ!」


「…ちょっと」


それまで腕をくんで待合室に座っていたチナツがパキラに向かって手招きしている様子が見えた。


「どうかしたのか?」


「いえ、何かあなたに違和感を覚えましてね。まるで見えない何かに怯えているような、そんな気がするんです」


「……」


「正直ワタシから見るとあなたはまだケツの青いクソガキです。相談があるなら言ってください、機密事項以外ならなんでも答えます」


「…いつになってもその残念な口調は変わらないのな」


「……?」


そう呟くパキラを不思議そうに見上げるチナツ。無表情そうに見えて意外と見ている所はちゃんと見ているんだな。


感慨に耽っているとそこで突然パキラとリリィの名前が呼ばれる。言われるがままついていくとだだっ広い空間の中央にぽつんと成人男性の顔くらいある水晶が鎮座していた。


「…で、これが最終審査でぇす。これはその人の過去・現在・未来を見通す水晶でぇ、これに力を込めると潜在的な力も含めて水晶の中央に炎が出現しまぁす。んでその大きさで冒険者としてのランク付けされるんで頑張って下さいねぇ。…あ、異能力(パーク)の使用は自由っすけど意味ないんで先に言っときますねぇ」


一通りの説明を終えたところで受付嬢はどかっと置いてあった椅子にもたれ掛かり、懐から雑誌とお菓子を取り出して堂々と読み始めた。


「…私から行ってもいいですか?」


おずおずとリリィが申し出る。


「…やけにやる気あるな」


「なんか…今日のお兄さん、すごい過保護っていうか見えない誰かから私たちを守ってるみたいな…上手く言えないんですけど、自分の身は自分で守らないとって。そう感じたんです」


えいっという掛け声と共に水晶に手を当てるとぼんやりとした炎が円を描きつつ出現する。炎は色を変え、大きくなったと思えば急に小さくなり、最後に膨れ上がって最終的に緑色になりそのまま動かなくなった。


「…ほぉ。ほおほおほお、へえー…珍しいモンすねえー…」


いつの間にかパキラの背後に立っていた受付嬢が顎に手を当て感心しながら炎を覗き見ていた。


「…そんなに珍しいんですか?」


「まあ、パークっつっても大体他人と被ったような能力だったり劣化版だったりしますからねェ。珍しい、唯一無二の個性のユニークなパークっすね。でも応用性に欠ける感じっすね。…うーん成長性はCってとこかな」


受付嬢は少し大きい名刺のような紙をサッとなぞるとそこに文字が浮かび上がり最後に名前の欄に『リリィ・クラリエル』と刻まれ、それを彼女に手渡した。


「おめでとう、アンタもこれで晴れて冒険者っす。詳しい説明は後でしますね。…ほら、ちゃっちゃとやって下さい」


急かされるように水晶の目の前に連れてこられる。

いつの間にか最初の火は消えていた。


「よっ、と…」


パキラが手をかざすとリリィとは逆に風船のように膨らんだ炎が胎動を繰り返し紫色に変化する。そのまま炎は回転し細くなり、竜巻のような形に変化して動かなくなった。


「はーん…、アンタ中々闇抱えてます?」


「…何でそう思うんですか?」


「カンすよ、カン…、まあでもこれはさっきのコとは逆に近距離特化だけど応用性が聞くタイプか…今日は見世物小屋に来てる気分っすねぇ…」


リリィと同じようにカードをなぞり、『パキラ・カミーユ』の名前が浮かび上がりそれをパキラに手渡そうとしたその時だった。


パキラが手を水晶から離そうとすると竜巻状の焔とは別に白い炎と黒い炎が出現し、お互いに絡み合って水晶の中で火花を散らしながら灰色の何かを形成した。


「お兄さんこれって…『花』?」


「…に見えるな」


「これは…」


先程までの態度とは一変し、受付嬢はカードを改めてなぞり直すと懐から小さなコップのような物を取り出して言った。


「えー、えー…すんません二個持ちへの対処法マニュアルに書いてなかったんで至急応援欲しいっす」


それだけ言ってコップを戻すとリリィに話しかける。


「えっと…リリィさんはちょっとお姉さんと一緒に来て下さいね。そこのあんちゃんはちょっとそこで待ってて下さい」


「手を離したらダメなんですか?」


「絶対に離さないで下さいね。死ぬと思って下さい」


そう言って二人が出ていった部屋の跡にぽつんと放置されるパキラ。


「…マジかよ…」


それに反応するかのように水晶の中の炎は一層激しく燃え上がるのだった。





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