即死級の愛憎2
場面は変わってリリィ・チナツ組。
彼女らは用を足し、パキラが待っているであろう広場に足早に戻っている最中だった。
「へえ〜、チナツさんは『市役所』って事の職員さんなんですね!」
「はい、生活安全課で働いています」
宝石のように眩く光るリリィの目とは対照的に全ての生物を嘆き・憐れむような死んだような眼差しがリリィに向けられる。
「…あなたは今、幸せですか?」
「そういうのはよく分かんないですけど、凄い『自由』って感じがします!」
「そうですか」
目線を背けるように視線を外す。相変わらず死んだような目をしているが少しだけ光りが灯ったようにリリィは見えた。
そしてそのまま広場に着くがパキラの姿がどこにも見えない。それどころか辺りにはミイラ化した死体が何体も地面に倒れている。
何かの気配を察したリリィは急いで後ろを振り向くと、そこには片足が無いパキラと同年代くらいの少年が立っていた。
「はァ、はァ…、チョーカーの女…。まずはお前からだ…!」
「ひっ…」
……
聞き覚えのある少女の絶叫が街中に響き渡る。
当然その声はしっかりとパキラにも届いていた。
全速力でその声の元に向かう。額からは汗がとめどなく流れ落ち、心臓の鼓動は既にトップギアまで加速していた。
「リリィ!!」
「よォ兄弟。待ちわびたぜ」
「てめェ…!」
そこは先程までの広場とは一変していた。
地面の石畳は大きく抉れ、辺りには土煙が立ち込め建物は倒壊し人々の悲鳴と絶叫がそこにあった。
「リリィは…、チョーカーを付けた女は無事なんだろうな!?」
「まあまあ落ち着けよ…」
不思議なことに倒れた瓦礫や、めくれた石畳にはどれも決まって何かで撃たれたような弾痕があった。それに若干ではあるが植樹や地面からは水気を感じない。まるで吸われ尽くしたように。
「これは…お前の能力か?」
「さあどうだろう。俺と戦ったら分かるかもな?」
「ーー上等!」
パキラは両腕に体毛を纏わせて巨大化させた黒腕を握りこぶし状に形を変えて鋭い眼光で目の前の男を見つめる。
「ああ、ちょっと待ってよ」
「…何だよ!」
「ほら」
そういって男は二つの乾燥した茶色いサッカーボールのような玉をパキラに向かって投げてきた。
「…ッ!?」
パキラは攻撃が始まったと思い、持てる全力を使ってその二つの玉を粉々に粉砕した。その粉々になった破片が男の足元にパラパラと落ちた。
「あーあーあーあー。可哀想に可哀想に!」
そんな大根役者のような棒読みを急に男が始めたのでパキラは思わず動揺してしまう。
「な、何だってんだよ…」
「いやいや本当に…可哀想だ」
口の端をいやらしく上げ、その二つの玉だった物に両手で触れると途端に膨張し二つの形を作った。
「……オレンジ色の服、と…兎の目……?」
もしだ。
もし、これが。
ヤツの能力によって姿を変えられた彼女達だとすれば。
「…、ぅ……」
思わずパキラは口元を抑え、胃の中の内容物を全て吐き出した。えづき、苦しむパキラの吐瀉物の中には今朝二人で食べた目玉焼きも混ざっていた。
「俺が…二人を…」
パキラは膝から崩れ落ち、絶望に顔を歪める。
それを嘲るように地面に伏したパキラの腹を蹴り、苦痛に歪む彼の顔を躊躇なく思い切り蹴り飛ばす。当然鼻血がボタボタと流れ出るがそんなことに気にもとめず、咆哮のような絶叫をする。
空気を震わせるほどに大きな声を五月蝿く感じた男は舌打ちをすると首元のチョーカーの紐を引き、左手に子供用の水鉄砲とそこから伸びる触手が男の左手に絡みついた。
「お前、もういいや。死ねよ」
「クソっ、クソッ…何で、俺には力をすら与えてくれないんだ……ッ!!!」
パキラは何度も何度もチョーカーの紐を引っ張るが、例のごとく場面をひっくり返す秘策どころか反応すらしないそれはパキラに取ってはガラクタに過ぎない。
手から血が滲むほど強く握るがやはり動く気配もない。
「もし」「ああすれば」「もっと早く来ていれば」「単独行動しなければ」「あそこで逃していなければ」
後悔・落胆・自己嫌悪・怒り・嘆き・悲嘆。
どうしようもない自分の運命を呪い、声にならない叫び声で喉を枯らす。そんなパキラを哀れんだのか、これ以上彼の醜態を見るのが億劫だったのか彼に銃口を向け、最後にこう言った。
「…俺の名前はラギエル。ラギエル・ポート。お前を殺す男の名だ」
そう言って男が引き金を引くと、彼の左腕が大きく膨れ上がり胎動しながらその弾丸を射出した。
何故か、弾丸は軌道を曲げおよそ人体の脳や心臓・喉など急所を貫きパキラはそこに絶命した。
これにて彼の冒険はここで終わったのだ。
……
「いえ、なんというかその…ご愁傷さまです」
六畳一間のどこかで見た部屋。
そこにチナツがパキラを見下ろしていた。




