即死級の愛憎1
「兄弟、お仲間の祝いとしてまずは握手をしないか?」
「たっ、助けてくれ!」
「は?」
思いもよらないその回答に男は困惑する。
パキラはその男の足元に跪き、頭を低くして男のブーツを抱いてわんわん泣き始めた。
「何が何だかぼくも分からなくて…きき、気が付いたらこんな所に放り出されていたんだ!ま、まわりの人も急に干からびて死んでいくんだ!かっ、神様!どうかぼくをお助け下さいいい!!」
「はは…そうかそうか…この状況に混乱しているのか?ならやり易いことこの上ないな」
男はそう呟くとレザーコートを翻し、パキラに向き直った。
「ははは、一体どうしたんですか?大丈夫。俺が付いてます。とりあえずここじゃ何かとアレなんで人気のない所にでも行きましょうか」
パキラは男について行くと裏通りの奥に進んだ所で止まった。
「全く俺は運がいい。こんなカモに出会えるとはな」
「あ、あの〜…、どうかしましたか?」
男は首元のチョーカーの紐を引いて言った。
「いえいえ、御礼が言いたいだけですよ。…あなたと私を運命の赤い糸で結んでくれた神様にね!ーーじゃあな、チキン野郎!!」
次の瞬間、男はパキラの首元に手を当てようと腕を伸ばした。
さて、話は変わるが諸君は車に撥ねられた経験はおありだろうか。
車が時速40キロの速さで人に衝突すると、ビル2階から落ちた時と同等の威力を発揮します。50キロ、60キロと衝撃は大きくなっていき、80キロでビル8階からの落下と同等の衝撃になります。
骨はぐちゃぐちゃになり身体は原型を留めず、吐瀉物や内蔵・脳などをメートル単位で辺りに弾け飛びます。
ーーそしてパキラの超毛体質は現在、時速80キロのパンチを撃つことが可能です。
男はパキラの首元を手で掴み、能力を発動させた。
そう思っていたし、殺したという確信もあった。
男は4件の殺人事件を起こしたことにより立件・起訴され人生を終わる覚悟も獄中で当の昔の果たしてきた。だから彼には殺人を肯定こそすれ思いとどまることなど毛頭無い。
幾許と染み付いた人の生命を奪う感覚が確かにそこにあった。チョーカーを付けたパキラと幼女二人を完璧に補足し、自らの勝利を確信していた、自信もあった。
だから念を込めて広場の人間も消し去り、能力の肥やしにもした。
だが、何故。
それなのに。
「なッ、何故俺が宙に浮いている!?お前ッ、一体何をした!!?」
「…俺も神様に感謝しねーとな。こんなグロいのガキには見せられねえ」
パキラの腕に体毛同士が絡みつき、黒く、硬く、巨大な右腕がそこにはあった。
「お前ッ、そのチョーカーッ、能力を発動させる素振りすら無かっただろう!?何故ッ何故俺の足にこんな物が絡みついてる!?」
そこにはパキラが跪いた時、ブーツに付着させていたパキラ自身の体毛だった。
「いやーお前が自分から移動を申し出た時は正直ビビったよ。俺の身体から離れたソレ、成長させるのに時間かかるし、30分以上経つと元の毛に戻るからな」
現在男はパキラの体毛によって廃棄された街灯に吊るされていた。男がパキラに触れようとした直前に予めブーツに絡めていた毛を男と会話している最中に街灯に引っ掛け、攻撃しようとした瞬間に毛の長さを短くし、その反動で男は宙吊りにされたのだった。
「さて、どうやら俺はお前のことを殺さなくては行けなくなったらしい。非常に心が痛いし、俺の髪を血で汚したくはないがやらなくてはいけない。…あ、あと言い忘れてた」
「ーークソッ、即死級の愛憎!」
「じゃあな、サル野郎」
パキラ三人分くらいありそうなその黒い巨大な拳が男に襲いかかる。派手な轟音と共に彼を吊るしていた街頭はぐにゃりと折れ曲がった。しかし不思議なことに返り血一つ付いていない。砂煙の中、どこからか襲ってくるであろう敵襲に目を光らせるが、景色が晴れてもそこに男の姿は無かった。
「逃げた?…いや俺の髪の強度は絡め合えば鉄をも優に超える…そんな筈が」
そう呟いたパキラの目の前に何かが落ちていることに気付く。
足だ。男は足を切断し、そのまま逃走したのだ。しかし逃げたであろう方向には血摘が垂れている。
幸か不幸かその血摘はある場所を示していた。
「不味い…アイツ、広場に向かいやがった…!」
このままではリリィとあの女が危ない、そう踏んだパキラは全速力で半壊した裏路地を後にした。




