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1章 2話 邂逅(くぁいこう)

俺はどうやら記憶を思い出している内に数分の時間を要してしまったらしい。周りはすでにいつも通りの閑散した道に戻っており、周りを見回しても弥生さんの姿は無い。

俺は、降りしきる雨の中、傘を閉じて、家に向かって走り出した。

家に着き大急ぎで昔の記憶を元に自分の部屋を探し回り、空も夕暮れ、茜さす逢魔が時になった頃、やっと押し入れの奥にしまってあったコピー紙を纏めただけの本を見つけた本の題名は相も変わらず『現想奇譚 1話 〜一泣ひとなき みなと〜』の表記、その本を大急ぎでパラパラめくり、最後のページに目当ての文を見つけた。


2020年の6月19日4時30分16秒に、車の運転中、日々の疲労によって注意が緩慢になりハンドル操作を誤り、電信柱に激突しボンネットを破損、爆発に巻き込まれ死亡。


と、今日は寸分たがわず6月の19日、多分4時半くらいだったであろう。彼女の本の通りになり、軽く戦慄していると、それを越す好奇心が身体を突き動かし、

普段の電車通学により、錆び付いた自転車を無理やり動かし、受験と過去との決別によりマンガを買わなくなって行かなくなった本屋に向かって漕ぎ始めた。


辺りは真っ暗になっていた。街灯が点々と照らしその奥には煌々と輝く小さな星々がちらりちらりと顔を出す。

薄ぼんやりとした記憶を綱に大体の位置を思い出そうとする。

記憶の風化により残骸になった過去を紡ぎ寄せるように蒙昧な意識を鮮明にする。

頭の回転と比例するように車輪の回転も加速した時、2時間ほど前に通った事故現場の前を通りすぎる。喧騒も人気もなかった。

すると明確な記憶が降り、店の位置を思い出す。

それは偶然か、はたまた僕を導いているのか、事故現場の2軒先に「弥生書店」の看板。

店はまだやっていた。橙の灯りを黒きアスファルトに窓と扉の縁を添わせた台形の影を照らす。

そこで見たのだ。本棚の最奥、ちょうど6列並ぶ本棚中央に鎮座するカウンターの席に居る、本の女神。弥生 朮に。

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