序章
世界はもっと複雑かと思っていたよ。
これはクラスメイトの弥生 朮が喧騒の最中にある事故現場で誰に向ける訳でもなく呟いた言葉だ。
そしてこの俺、花見川 春秋はその事故現場に居合わせていた。少し話を遡ろう
俺は晴れて高校2年の生活に慣れ、もう月日は6月、雨の降りしきる道を傘をさして帰宅していた。
刹那、タイヤが道路を擦る甲高い嫌な音がし、熱風を孕んだ街に似合わない爆発音が響き渡った。
どうやら乗用車がガードレールと電信柱に激突しボンネットが押しつぶされ燃え爆発し幸い周りに人はいなかったが搭乗者の方は助からないだろう。
数分後、パトカーと消防車と救急車がけたましいサイレンをあげ野次馬を散らせ事態を収集させ初めていた。
が、どうやら消火が終わり安全だと分かると俄に野次馬が湧き始めた。
キープラインの奥、咄嗟の事態に呆然としていた俺の周りに野次馬が押し寄せ、もう帰ろうと背を向けようとしたその時、搭乗者の妻であろうか、悲鳴を上げ泣いていた。
「なんでっ!なぜ死んでしまうの!みなとさんっ!」
人が死ぬとは悲しいものである、他人とはいえ胸が締め付けられる苦しさを受け、気を紛らわそうと、今度こそ帰ろうと背を向けた時、偶然クラスメイトの可憐な白い髪の少女、弥生 朮に会ったのだ、彼女はクラスメイトとはいえ、たいていの場合授業に参加しておらず1日に5限から6限まで授業を受けて帰るのだ。そんな特異な彼女に俺は惹き付けられていた。なのですぐに名前がわかったのだがそれ以上に昔、繋がりがあった。そしてふと、古い小学生の頃の記憶を思い出したのだ。