贈り物
楽しんで戴けたら嬉しいです。
輝也はとにかくテレビが好きだ。
暇さえあればテレビを真剣な顔で観ている。
何日かすると随分会話がスムーズになってきた。
どうやらテレビで言葉の勉強をしているらしい。
でも夜になり月がでると輝也はベランダに凭れ涙を流した。
ワタシは不安になって輝也の背中を抱き締めて言った。
「海行こう」
輝也は振り返り笑って言う。
「行く」
誰が付けたのか恋人繋ぎで指を絡め合い海まで歩いた。
海に着くと輝也はワタシにキスをした。
服を脱いで水着になると海へ駆け出した。
身体がぬれると輝也と同じ姿になって水中で魚の様に自由に動き回れる。
輝也と手を繋いで暗い海の中を泳いでいると現実世界があることを忘れてしまう。
水面に顔を出し、空を仰ぐと星が降って来そうなほど鮮やかに煌めいていて、ワタシは思わず見とれた。
輝也が抱き寄せて頬にキスしてくれた。
「浅葱、愛してる」
「ワタシも愛してる
だからずっと傍に居て」
「ずっと傍に居る」
ワタシと輝也は甘い口付けを交わした。
砂浜に戻ると輝也は言った。
「先、帰って
用事ある」
「大丈夫? 」
輝也は笑って言った。
「だいじょぶ」
そう言うと輝也は海に戻って行った。
輝也は暫く水面を泳いでいたが深い場所まで行くと勢い良く潜った。
ワタシは身体が乾くまで待った。
身体が乾くまでに戻って来るかと思ったが戻って来なかった。
ワタシは心配になって帰る事ができなくなった。
次第に空が白み始め、星が溶ける様に空から姿を隠して行った。
このまま戻って来なかったら………………………………。
そう思うと怖い………………。
でも、すっかり辺りが明るくなった頃、輝也は戻って来てくれた。
可成り消耗しているらしく浅瀬をふらふらしながら歩いている。
「輝也! 」
輝也はワタシを視界に認めると笑った。
「浅葱………………
遅くなった
ごめん」
ワタシは輝也の傍に駆け寄った。
「心配したよ
もう帰って来ないのかと思った」
「これ、あげる」
水掻きの付いた手をワタシの顔の前で開くとそこには直径一センチくらいの真珠が白く輝いていた。
「これをワタシにくれる為に? 」
ワタシは輝也を見詰めた。
輝也はにっこり笑った。
「ずっと一緒に居たい」
これってプロポーズ?
ワタシは嬉しくて輝也に抱き付いた。
輝也はバランスを崩して、ワタシを道連れにひっくり返った。
砂浜でひっくり返ったまま、輝也に抱き付いて泣いた。
嬉しくて泣いているのに輝也は心配している。
「浅葱、何処か痛い? 」
「何処も痛くないよ
有り難う、輝也
有り難う…………………」
輝也はそれでも心配そうにワタシの顔を覗き込んでいる。
ワタシが笑って見せると、やっと安心して輝也も笑った。
輝也はワタシの他愛無い話を一晩中聞いてくれたり、叩いて被ってじゃんけんぽんを夜通しやったり、時には愛し合ったり、ベランダから見える海を互いに凭れ合いながら眺めたり、映画を見たり音楽を聴いたり…………………………………。
ワタシはこの上無いほど幸せで…………………。
けれども夜になって月の出る頃になると、輝也はベランダに凭れ月を見て泣いている。
単にそう云う種族なのか、それとも…………………………………。
恐くて訊けない…………。
何故ってそれは、輝也が人間じゃ無いから、膨らんで行く月を見て涙をながすのは、満月になると何かが起こるから。
例えばかぐや姫の様に……………………。
でもそれは嫌だ。
何故ならワタシは輝也無しでは生きられないほど輝也を愛しているから。
それでも月は無情に膨らみ、輝也は涙を流す。
ワタシの胸に一抹の不安がよぎる。
満月になったら、輝也も行ってしまわないだろうか………。
ワタシを置いて行ってしまった、あの人の様に………………。
ワタシを置いて逝ってしまった両親の様に………………………。
やがて満月の日は来てしまう。
読んで下さり有り難うございます!
後残り一話、明日更新しようと思います。
この作品、考えてみると初の女性主人公だったんですよね。
めちゃくちゃ珍しいです。
マンガを描いていた頃、娘に読んで貰うとよく言われたのは「小説みたいなマンガだね。」で、この作品は小説にして娘に読んで貰った時、真逆の事言われました。
「少女マンガを文章にした感じ。」
今、コメディ小説に挑戦してます。
それを書き終わったら、またサスペンスをじっくり書きたいなって思ってます。
コメディ、苦戦してます。笑
それではまた明日。