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月の恋人  作者: 楓海
2/4

輝也

 楽しんで読んで戴けたなら幸せです!

 今朝は出掛けるまで忙しかった。


 彼の朝食と昼食を作り、彼に電子レンジの使い方を教えなければならなかった。


「いい?

 ここと、ここを押すんだよ」


 ワタシは実践して見せた。


 取り敢えず牛乳を温めた。


 冷たい牛乳が湯気を立てて出て来たので彼は眼を丸くした。


「不思議…………………」


 彼にも実践して(もら)うと湯気の出た牛乳に、人語を忘れ興奮し、ワタシの肩を(しき)りに叩いて来た。


 何が言いたいのか解らないが、取り敢えず喜んでいる様だ。


 何とか解ってくれた様なのでワタシは出掛けようとした。


 玄関のドアを開けると不安そうな顔をしてワタシを見ているので、ワタシは彼の(ほほ)にキスをして言った。


「なるべく早く帰るから」


 彼は嬉しそうに頬を押さえ笑った。


 ワタシが手を振ると彼は一瞬眼を丸くしたが直ぐに笑って手を振った。


 会社では普通にしているつもりなのに、会議用の書類をコピーしていると同僚に何かいいことが在ったのかと訊かれた。


 ワタシは訊いた。


「どうして? 」


 彼女は笑って言った。


「なんだか、動きが軽いよ」


「そう? 」


 ワタシは笑った。


 この広い世界の中でワタシの事だけを想って待ってくれてる人がいる。


 ワタシは幸せだった。


 彼の身の周りの物を買って急いで帰り、靴を脱ぎながら言った。


「ごめんね

 仕事終わって買い物してたら、すっかり遅くなっちゃった

 お腹空いたでしょ

 すぐご飯作るね」


 部屋に入ると彼はぼんやりベランダの外を見ていた。


「ただいま」


 声を掛けると、やっと彼はワタシを振り返って微笑んだ。


 振り返った彼の頬が涙で濡れている。


 何故?


「何を見ていたの? 」


「月…………………」


『おのれはかぐや姫か』


 夕食はお肉を試してみた。


 生姜焼きを作ってみた。


 彼は両手でお箸を一本づつ持って茶碗を叩き始めた。


 お決まりのリアクションだなあと思いつつ、ワタシはお手本に箸を持って見せた。


 彼は真似をするが上手く行かない。


 どうしても箸を落としてしまう。


 手で(つか)んで金魚を食べるのだから、お箸は上品過ぎるのだろう。


 ワタシは(あきら)めてフォークを彼に持たせて、お手本を見せた。


 彼はフォークを握り締め勢い良くお肉をぶっ刺し、ぶら下がったお肉に下から噛み付いた。


 眼を大きく見開くと次々刺しては食べる。


 取り敢えず食べ方はどうあれ、お肉は気に入ったようである。


 彼は服が苦手の様で、まず着方が解らない。


 逆さに首だけ通して裸で満足していたり、Tシャツが覆面になっているのには笑った。


 丁寧に着方を教えると彼は直ぐに憶えた。


 服を着た処で、二人で海へ散歩に出掛けた。


 名前を訊いても要領を得ないから、ワタシは彼を輝也(かぐや)と呼ぼうと思う。


 海辺で彼を呼び止めて言った。


「あなたの名前は輝也」


 ワタシは少し走って振り返り呼んだ。


「輝也! 」


 輝也は解ったようでにっこり笑った。


 駆け寄った輝也はワタシの手を引いて言った。


「泳ご」


「泳ぐって水着も無いのに? 」


 輝也は既にシャツを脱ぎ始めていた。


 まさか、マッパで………………。


 思った通り輝也はすっぽんぽんになろうとした。


 ワタシは全力で止めた。


「下は脱がんでいい!! 」


 輝也は不思議そうにワタシを見た。


 ワタシは顔を横に振った。


 輝也は解ってくれた様で、ワタシの手を掴んで言った。


「行こ……………」


「でもワタシ、あんまり泳げないよ」


 輝也は急にキスして言った。


「おむじな」


「は? 」


 おむじな?


 輝也は構わずどんどん深い場所までワタシの手を引いた。


 水面が胸の処まで来ると、輝也は泳ぎ始める。


 水面を跳ねる輝也は魚人の姿になっていた。


 耳の後ろと背中に(ひれ)が突き出している。


 輝也は文字通り水を得た魚の様に時々ワタシを振り返っては生き生きと泳ぎ回り、(しばら)く水中に(もぐ)っては予想外の場所から顔を出してワタシを驚かすと云うゲームで遊んだ。


 ワタシは水に濡れた髪が頬に貼り付いたので掻きあげようとした時、異変に気付いた。


 ワタシの手に水掻きができている。


 自分の身体をあちこち確かめると耳の後ろと背中に彼と同じ鰭がワタシの身体にもできていた。


 ワタシは正気を失って叫んでいた。


「いやああああーーっ!! 」


 輝也が気付いて慌てて近寄って来る。


 ワタシは夢中で輝也の身体にしがみついた。


「ワタシ……………

 ワタシ……………………

 化け物になった………………

 化け物………………」


 輝也の腕の中でワタシの意識は途切れた。





 眼が覚めると布団に寝ていて、輝也が心配そうにワタシの顔を覗き込んでいた。


「だいじょぶ? 」


 ワタシは慌てて起き上がった。


「ワタシ!

 化け物! 」


 身体のあちこちを調べるが鰭は何処にも無かった。


 手の水掻きも無い。


 ワタシは輝也を見た。


 輝也はにっこり笑って言った。


「乾く

 治る」


 ワタシはハッと自分が全裸であることに気付き、輝也がワタシの胸元をじっと見ていることに気付いた。


「何見てるのよ! 」


 思い切り枕で輝也の頭を殴った。


 輝也は頭を撫でながら涙眼になっていた。


 ワタシは思わず笑った。


 輝也は(とが)らした口唇に指先を当てて言った。


「ちゅ、する

 濡れる

 同じ」


 輝也は自分とワタシを指差して耳の後ろに手で鰭を作って見せた。


「おむじな」


 要するにキスをして濡れると輝也と同じ姿になって泳げるようになる、おむじなはおまじないを間違えてるらしい。


「おむじなじゃ無くておまじない

 お・ま・じ・な・い」


「おまじない? 」


「おまじない」


 輝也は笑った。

            

          





 

 読んで戴き有り難うございます!

 この作品は初めての一人称で初めてのハッピーエンドです。

 映画好きの人はこれを読むと、シェイプオブウォーターとか、古い処では若かりし日のトムハンクス主演のスプラッシュを思い出すかも知れませんね。

 パクってませんよ!!

 単純なストーリーですが、わたしはこの作品お気に入りなんですぅ。

 最後まで楽しんで戴けたら嬉しいです。

 それではまた二日後に……………。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少しずつ言葉を覚えて、人としての生き方を覚えていく…なんだか、好きです!
2022/12/22 23:33 退会済み
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