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5

「は? そこで何で俺が出てくるんだ?」


ニコラスが真正面からスヴェンを見据えたところ、彼はふっと笑いながら一瞬シルヴィに視線を向けた。


「俺がシルヴィ殿の相手をしてやってもいいが、それだとさすがに結果は見えているだろう?」


自信満々のスヴェンの言葉に、シルヴィは不服そうに口を真一文字に結んだ。


むっつりと黙ったシルヴィに、スヴェンは不敵に笑って彼女の意思を尋ねる。


「シルヴィ殿、もしニコラス相手に勝ったら、ラザールの代わりに俺が剣を教えてやろう。どうだ? やってみるか?」


スヴェンにそう訊かれ、シルヴィは今までの不機嫌さを一瞬で捨て去り、胸を張って


「もちろんですっ!!」


と答えた。その大胆不敵な面構えは妙に雄々しく、幼さが存分に残る彼女には似つかわしくなかった。


シルヴィはその気になっているようで、彼女と対戦する気などこれっぽっちもなかったニコラスは


「おい、スヴェン、勝手に決めるな」


とスヴェンに抗議した。


スヴェンは自らの言葉を引っ込めるどころか、


「いいじゃないか。減るもんじゃないし。対戦してやれよ」


と手に持っていた練習用の剣を半ば強引にニコラスに渡そうとした。


「俺も未来の義理の妹君の機嫌を取らないといけないのでな」


スヴェンは挑発的な笑みを浮かべてニコラスの耳元で囁いた。


ニコラスは仕方なく鉄製の剣を受け取りつつも、


「だったらお前が相手になってやればいいじゃないか」


と未練がましく文句を言うのも忘れなかった。


「お前が負けたらな」


スヴェンはニコラスが本意ではないのを歯牙にもかけず、ニコラスの背中をぐいっと押した。


スヴェンに背中を押されて対面することになった親友の妹は、今までに見せなかった年相応の落ち着きをもってニコラスに対しうやうやしく頭を下げた。


「どうかよろしくお願いします」


騎士としての完璧な礼と彼女の豹変ぶりに、やろうと思えば一応ちゃんと振る舞えるんだな、とニコラスは驚かされた。


感心はしたものの、彼は別にシルヴィと対戦したいわけではない。


ニコラスがスヴェンに押しつけられた練習用の剣に目を落とし、


「うーん、俺は剣は苦手なんだがなぁ……」


と嘆息を吐くと、向かい合ったニコラスとシルヴィの間にラザールが割り込んだ。


「おいおい、スヴェン、ニコラスも、これ以上妹を甘やかすのはやめてくれ」


元々乗り気ではなかったニコラスは、ラザールの言葉に従って、そうだな、やっぱりやめよう、と言いかけた。


だが、シルヴィは鋭い口調で


「兄上は口出ししないで!!」


とラザールを牽制し、その上射るような視線で兄を睨んだ。


「…………………………………」


どうするべきか、と明らかに悩みながら、ラザールは苦虫をかみ潰したような表情で腕組みした。


スヴェンは


「まぁ、いいじゃないか。ナルフィの姫のお手並みを拝見しよう」


とラザールの腕を引いた。


スヴェンとラザールが数歩後退したため、ニコラスは再び彼女と向かい合うことになった。


どうやら彼女との対戦は避けられそうにない。


そう悟ったニコラスは諦めの境地で、仕方なく剣の柄を握る手に力を込めた。


「二人とも、準備はいいか? 始めるぞ」


スヴェンは確認するようにニコラスとシルヴィを交互に見やった。


シルヴィは腰に差していた彼女の剣を抜いた。


ニコラスもしぶしぶ剣を鞘から抜き、腕を組んだままのラザールめがけてそっと鞘を投げた。鞘は美しい放物線を描きながら空を舞い、ラザールも難なくそれを受け止めた。


それを見届けてからスヴェンが


「始め!!」


と叫んだため、ニコラスは気持ちを切り替えて剣を構えた。


するとすぐにシルヴィが軽快な動きで地面を蹴り、自分との距離を詰めながら剣を高く掲げた。


自分めがけて振り下ろされる剣先を目で追いつつ、ニコラスは予想以上に速いシルヴィの動きに少なからず驚いた。


速いな……!!


彼女から繰り出される攻撃を一つ一つかわしたニコラスは、この子の動きはひょっとしたらラザールやスヴェンよりも速いかもしれない、と思った。それは彼女が華奢で身軽だからなのだろうか。


ニコラスはシルヴィと一定の距離を保とうとしたが、彼女は逆にニコラスとの距離をじわじわと詰めてくる。


確かに自分の剣技はラザールとスヴェンに比べたら劣る。それでも、剣に関してのみ言えば、士官学校の生徒の中では平均以上の実力はあると思っているし、いかにも非力そうな少女相手に負けたらスヴェンにからかわれるだろう。それは癪だ。


思いのほか追い詰められたので、ニコラスは渾身の力でシルヴィの剣をなぎ払った。


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