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案内された部屋に入ったニコラスは、一番に浴室に向かった。
浴室の隅に置かれている水がめに水が張られていたので、ニコラスは旅の汚れを落とすために水浴びすることに決めた。
服を脱ぎ、ぬるめの水を何度も頭からかぶりながら、ニコラスは考える。
シルヴィは従者を連れずに一人で出かけたという。実家に戻ったラザールは何だかんだと忙しいだろう。
これは、彼女と二人きりで話す絶好の機会だ。
ニコラスは水浴びしたおかげでさっぱりした気分になった。浴室の鏡の前のかごに入っていたタオルで髪や体を拭いた後で、彼は自分のかばんから新しいシャツを取り出し、そでを通した。
シャツのボタンを留めながら、ニコラスはこれからシルヴィに自分の正直な想いを告げることを決意した。
それを意識すると気持ちが急いて、ニコラスは手早くトラウザーズを穿いた。
続いて彼は浴室の鏡に映る自分の顔を見つめながら両手で前髪をかき上げ、自分を落ち着かせるためにはあっと一つ息を吐いた。
「よし」
自分を奮い立たせると、ニコラスは侍女を呼び、馬を一頭手配するよう頼んだ。
侍女は一度姿を消し、準備ができたことをニコラスに告げるために再び彼の部屋を訪れた。彼女はそのままニコラスを城の玄関口まで案内した。
城の玄関では、一人の騎士が馬と一緒に待機していた。
「土地勘のある者を呼びましょうか?」
騎士が気を利かせてそう申し出てくれたが、ニコラスは首を横に振った。
「いや、一人で乗馬したい気分なんだ。前にもこのあたりを散策したことがあるから、心配いらない」
ニコラスの返事に騎士は素直に引き下がった。
「左様でございますか」
ニコラスは騎士に礼を述べて馬に跨り、以前一度訪れたことがある池へと向かった。