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ジョルジュは単身でパーティーの間に戻ってきた。
彼はタラバルドン夫人とダンスをするためにだろう、迷いのない足取りでまっすぐにニコラスとタラバルドン夫人のもとまで歩いてきた。
ニコラスはなるべく平静を装いつつ、ジョルジュに尋ねる。
「ジョルジュ大公子、シルヴィ大公女はどうして帰ってしまわれたのかご存知か? パーティーはまだ始まったばかりだというのに……。体調が悪かったのだろうか?」
とはいえ、ニコラスにも制御できないジョルジュに対する対抗心にも似た感情が湧いてしまい、一国の王子として威厳あるところをジョルジュに見せつけたかったこともあり、硬くて低い口調になってしまった。
ジョルジュは皮肉げな薄い笑みを浮かべ、
「さぁ」
と肩をすくめた。
「会いたくない人間にでも出くわしたんですかねぇ」
ジョルジュは全てを見透かしたような顔でにやにや笑った。自分を挑発するような態度に、ニコラスは内心むっとする。
ジョルジュは
「でもまぁ、あいつは元々こういう場が好きじゃないし、昔からあいつをよく知っている俺としては別に驚きもしませんがね」
と、さも自分はシルヴィのよき理解者なのだと言わんばかりの言動でニコラスの精神に追い討ちをかけた。
だが、ニコラスの反応を待つことなく、ジョルジュは飄々としたままタラバルドン夫人に向き直った。
「さて、タラバルドン夫人。一曲お相手願えますか?」
「ええ、喜んで。ニコラス王子、またのちほど」
タラバルドン夫人はニコラスに丁寧に頭を下げてから、ジョルジュと二人で踊りの輪に加わった。
ニコラスは胸に湧き上がった複雑な感情を隠しながら、苦心して作った笑顔で二人を見送った。