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故郷での休暇を有意義に過ごし、2月に入る少し前にローゲに戻ると、ニコラスの予想どおり、シルヴィがラザールと一緒に上京した。
新学期が始まる数日前、ニコラスはいつものようにシルヴィと一緒にとあるパーティーに顔を出すことになった。
ニコラスはあらかじめ決めておいた集合場所に向かった。今日はシルヴィのほうが到着が早かったらしく、彼女は憂鬱そうな表情でベンチに座っていた。
「やあ、シルヴィ」
ニコラスに気づいたシルヴィはすっと立ち上がり、
「こんばんは、ニコラス王子」
と挨拶した。その無駄のない動きは優美で、ニコラスは彼女がすでにナルフィ大公女の仮面をかぶっていることを悟った。
となればニコラスも、一人の男ではなくスコル王子であらねばならなかった。
ニコラスは丁寧にシルヴィの手を取り、彼女をパーティーホールへと導いた。
いつもの流れに従い、まず二人で一曲踊った後、二人は多数の男女の輪の中に身を置いた。
すぐにシルヴィの周囲を複数の男性が幾重にも取り囲み、また、ニコラスと踊りたい女性たちがわらわらと彼の周りに集まってきた。
社交界というのは、不寛容な世界である。もしニコラスが何か失敗しようものなら、噂はすぐに広まり、彼は落第者の烙印を押される。
スコルの王子としてそんな事態は絶対に避けなければならないので、ニコラスは終始穏やかな笑みを浮かべたまま、どの女性たちをも不快にさせないよう、順番にダンスに誘った。
どれほどの時間が経過しただろうか、自分と踊りたがった令嬢たちと踊り終えると、ニコラスは今度は彼女たちとの会話を楽しんだ。
ここでも、丁寧に彼女たちに対応していることを示すため、ニコラスは女性たち一人一人としっかり目を合わせながら、うなずいたり笑ったりしてみせた。
そんな時、ふとホールの向こうにいたシルヴィと目が合った。彼女はすぐに目をそらしたが、隣にいる男たちと自然な様子で会話している。
ラザールはいまだにシルヴィのことをあれこれ心配しているようだが、ニコラスの目から見てもシルヴィはよくやっていると思う。彼女についての悪評はいまだ聞こえてこないし、ニコラスと一緒に踊っている時も特に問題は見受けられなかった。
寮に戻ったら、ラザールにそう報告してやろうかな。
ニコラスはそんなことを考えながら、目の前の女性たちへの対応に集中した。