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三人は引き続きラザールの部屋に留まり、三人で金を出し合って買ったワインを飲み始めた。


(フェーベ大陸においては、飲酒が可能になる年齢に関する法律などは存在しない。人々はだいたい15歳を過ぎたくらいから酒を飲むのが普通だった。だから、酔っ払って喧嘩したり、飲みすぎて嘔吐したりして周囲に迷惑をかける行為はもちろん嫌がられるが、寮に酒を持ち込んだり、寮内で飲酒したりすること自体は何の問題もなかった。)


酔いが回ったラザールは普段よりいくぶん饒舌になり、彼の妹のシルヴィについて話し始めた。


ラザールは妹に対する愚痴をニコラスとスヴェンに聞かせた。


「あいつももう14 歳なのに、子供っぽくて困る。『父上と兄上みたいな剣の使い手になる!!』なんて言って、我が家の騎士たちに交じって剣の稽古をしてるんだ」


このティティス帝国には、皇帝アルフォンス四世が治める皇帝領と、皇帝領を四方から取り囲む四つの大公国があるが、ハティ大公国をのぞいた三つの大公国と皇帝はそれぞれ独自の騎士団を有している。(ティティスの国教ハティ教の総本山があるハティ大公国は他の三大公国とは違って強大な宗教的権力を持っているため、代わりに軍事力を持つことは許されていないのだった。)ラザールが言うところの『我が家の騎士たち』というのは、彼の故郷ナルフィ大公国のナルフィ騎士団のことである。


愚痴をこぼしながらも、ラザールの目は優しく細められている。妹シルヴィが自らを目標としていることが兄として嬉しく、誇らしいのだろう。口には出していないものの、そんな感情をラザールは隠しきれていなかった。


「別にいいじゃないか。誇り高いナルフィ大公家に生まれた以上、多かれ少なかれ剣に対して興味を持っても不思議じゃない」


スヴェンがラザールの妹の肩を持った。


「俺の妹も護身のために剣の稽古をしているぞ、まだまだ初心者だがな。アンテの王族として、その立場に恥じないようにしたいんだとさ」


スヴェンがそう続けたところ、ラザールははあっと大きくため息をつき、ワインを一口口に含んでから、再び妹に対する愚痴をこぼした。


「君の祖国アンテではどうか知らないが、我がティティス帝国では女が剣を持つなんて一般的なことではないんだ。それに、それだけじゃない。妹は『パーティーでは自分より強い男としか踊らない』とか何とか言って、社交界に出ようともしないんだ。このままじゃ売れ残ってしまう……」


ラザールはがっくりと肩を落とし、力なく首を振った。


「とか何とか言って、実は誰とも結婚してほしくないんじゃないのか?」


ニコラスはラザールの兄弟たちと面識があるわけではないが、ラザールの話を聞く限り、彼の実家ナルフィ家はかなり兄弟の結びつきが強い。ラザールの口からはしょっちゅう仲のよさそうな家族の話が出るので、ニコラスはそういった印象を抱いていたのだ。


だからニコラスはそう突っ込んだのだが、ラザールは痛いところを突かれたと言わんばかりにぎくっとした。


「……まぁ、確かに負けん気が強いじゃじゃ馬だけど、大切な妹であることに変わりはないな……」


気まずそうにしぶしぶだったが、ラザールはニコラスの指摘を認めた。


「いや、それでもやっぱりこのままはよくないな、ナルフィ家の名誉のためにも」


ラザールは気を取り直してグラスを握りしめ、勢いよくそれを傾けた。


ラザールの妹シルヴィに関する話は続いた。


それを聞きながら、ニコラスもスヴェンもラザールの妹シルヴィに対して興味を持ち始めていた。


ラザールの話によると、ずいぶん変わった大公女様らしい。


ティティス帝国では、貴族の令嬢は家の中で慎ましくお淑やかに、裁縫やら礼儀作法やらダンスやらに勤しむのが理想とされている。ティティス社会で求められる貴族令嬢の理想像は、家を繁栄させるための政略結婚の駒になることだからだ。


ニコラスもこのローゲに留学して一年経ったから、そのことを知っていた。


ところが、シルヴィ大公女はどちらかといえば、ティティスの理想の貴族令嬢とは真逆のようだ。


どんな子なのだろうな。


ラザールの話に相槌を打ちながら、ニコラスはまだ見ぬラザールの妹シルヴィについてあれこれ想像を巡らせた。


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