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士官学校が冬の長期休暇に入ることになったので、ニコラスは帰国前、ラザールとシルヴィの故郷ナルフィに遊びにいかせてもらうことにした。
ナルフィは帝都ローゲから自国スコルへと帰省する時に必ず通らなければならない場所ではない。わざわざ帰路を変更して、寄らせてもらったのだ。
元々は、ラザールがスヴェンを誘ったのが始まりだった。
スヴェンの祖国アンテ王国はこのティティス帝国の東に位置し、ローゲからだとティティス四大公国の一つであるフォルニート大公国領を通る。
だからスヴェンが帰国する際には、ローゲの南にあるナルフィに行く必要は全くない。むしろ遠回りにしかならない。それでもラザールがスヴェンを実家に招いた理由は、やはり彼の妹とスヴェンが婚約関係にあるからだった。
ニコラスにとってもナルフィを経由するのは遠回りだが、外国に留学しているというせっかくの機会にできるだけ旅をしたかったため、ニコラスはラザールに自分も便乗させてもらえないかと頼んだ。
ラザールは快諾してくれたから、三人はローゲからナルフィへと向かった。
朝ローゲを出て馬を飛ばし、夕方にナルフィ城に到着すると、ラザールの家族が客人であるニコラスとスヴェンを出迎えてくれた。
そこには、ラザールのすぐ下の妹でスヴェンの婚約者でもあるイヴェット、ナルフィ大公家次男のビセンテ、ニコラスにはすっかり顔馴染みになった次女シルヴィ、ニコラスとスヴェンにとっても初対面の三女テレーズと末の妹ソレーヌというラザールの全兄弟とともに、もう一人美しい女性がいた。ラザールは二人に、その女性がナルフィの北西にあるスルト大公国の大公女アデライードだと紹介した。
アデライードはその美しさだけでなく、話し方も身のこなしも立ち振る舞いも装いも、何もかもが完璧な淑女だった。
この世にこんな完全無欠な女性が存在するのだろうか、とニコラスも感心させられた。
だからといって、別にニコラスは彼女に恋をしたというわけではなかった。自らも異性に言い寄られることが多いので、彼女のこの美しさではきっと大変だろうな、という奇妙な同情心を抱いたのだった。
ラザールの家族たちとの晩餐を終えた後は、旅の疲れもあり、一同はすみやかに解散した。