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翌日の午後、ニコラスは士官学校の裏山にやって来たシルヴィと再び対戦した。
展開も結果も前回と同じものになった。ニコラスは自分の一番の武器である力でシルヴィの剣を弾いたのだ。
「くっ……!! 悔しいっ!! また負けるなんてっ!!」
地面に座り込んだままのシルヴィの前にニコラスはあえて立ちはだかり、彼女を見下ろした。
「残念だな、シルヴィ。また腕を磨いてきたまえ」
「っ~~~~!!」
シルヴィは荒く呼吸しながらがばっと立ち上がり、真正面からニコラスを睨みつけて
「また来月来るから、その時に手合わせしてちょうだい!!」
と叫んだ。
ニコラスはわざと涼しい顔を作り、
「いいけど、その前にまたどこかのパーティーに行って踊らなきゃな」
とシルヴィを再び挑発した。
「くっ……!!」
ニコラスの予想どおり、シルヴィは顔を盛大にしかめて悔しがった。そんな彼女の様子は見ていて飽きない。もっともっとからかいたくなってしまう。
「分かったわよ、覚えてらっしゃい!!」
シルヴィは捨て台詞を吐いてから、重力を感じさせない軽やかな動きで彼女の馬に跨った。
『覚えてらっしゃい』なんて、小説や芝居の中でしか出くわさない。もちろんニコラスは誰かに言われたこともない。しかも、これは悪役の台詞と相場は決まっている。
一人きりだったこともあって、ニコラスは笑いをこらえることができなかった。噴き出しただけではすまず、彼は腹を抱えて笑った。
まったく、少し変わっていておもしろい子だな。彼女といると飽きない。
そんなことを思いながらニコラスは士官学校の寮へと戻った。