お題短編~幼馴染編~
「トシ坊、入るぞ」
少年が止める間もなく、少女は浴室のドアを開け放った。
湯気で隠されることなく、その白い裸体が露わとなった少女は大事なところを隠す様子もなく、堂々とした立ち振る舞いをもって少年の身体を見る。
「なんだトシ坊、男の癖にチンとパイを隠しおって」
私とお前の仲ではないかと言いつつ、少女は少年の入っている浴槽にざぶりと入りこんだ。
浴槽に入る際、少年は少女のアレやコレやら見たのだが、なにぶん湯に浸かっていて、頭が少々ぼんやりとしていたものだから、それらを脳裏に焼き付けることもなく、ただただぼんやりとその場の空気の流れに身を任せていた。
――のも束の間で、すぐに湯船から立ち上がった。
「って! 義姉さん!? ちょっと! 一緒にお風呂は不味いよ!」
「チンが見えているぞ」
慌てて股間を隠す少年を鼻で笑った少女は、立ち上がった少年の手を取ってやんわりと自らに引き寄せ、頭を胸に預けさせた。
「お前は私の愛しい義弟である前に幼馴染であり、そして愛しい恋人なのだ」
だから二人きりの時は、義姉さんではなく名を呼んで欲しい。
少年の髪を優しい手つきで撫でながら、そんなことを熱っぽく言うものだから、少年はすっかり参ってしまった。
少年は顔が赤く染まるのを自覚しつつ、けれども、頭を撫でられる感覚と湯に揺られる心地良さを捨てきれないために、少女の為すがままにされることを享受していた。
「ところでトシ坊よ。」
「なに? 鈴菜」
名を呼ばれた少女は満足げに「うむ」と頷き、真面目な口調で言ったのだ。
「結婚したところ悪いが、両親には早々に離婚をしてもらわねばなるまい」
鈴菜の言うところ、トシ坊と鈴菜の親同士が結婚することは想定の外であったという。
二人の両親が結婚してしまった今、それぞれの親の子である二人は恋人になれても夫婦になることはできないだろうと言うのである。
「ゆえに、我らは結婚するために知恵を絞って両親の離婚を考えねばならん」
「いや、待ってよ。どうしても離婚してもらわなきゃ駄目なの?」
駄目だ、と言おうとしただろう鈴菜の口が途中で止まった。
「なるほど……そうだな。離婚でなくとも良いな」
「でしょう?」
「うむ、例えばだが――」
二人の両親は今、新婚旅行に出掛けている。
結婚祝いに、二人がセッティングしたものだ。
海外の某国へ、7泊9日の長旅行である。
移動には大型旅客機が使われており、今日もその運行は平常で快適な筈だった。
だが、旅客機のエンジンが突如不具合を起こし、完全に航行不能となる。
パイロットが不時着を試みるも失敗し、乗客は全員天国への旅路を――
「縁起でもないよ!?」
「ふむ……ハイジャックを手配した方が確実性が高いか?」
「犯罪から離れよう!?」
「……両親に旅立たれ、残された義姉弟が互いに依存し合うというシナリオもなかなかオツなものだと思ったのだが」
「そんなことしなくても、僕たちはずっと一緒にいられるでしょ?」
「それは、義姉弟としてか?」
「恋人として、だよ」
いずれは夫婦として……と言いかけたトシ坊の頭を鈴菜は掴み、その唇を奪う。
そして十分に吸い上げた後、満足げな顔をした。
「決めたぞトシ坊! 例え法律が許さずとも、私はお前を夫にする!!」
「せめて法律で許されてる国に飛ぼうとかそういう平和な方法を考えよう?」
後に、再婚相手の連れ子同士は結婚が可能であるということをふとした契機によって知ることになる二人だが、それはまた別の話である。