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めぐりあわせ1  作者: のぼり
1/1

夢に見る景色、顔

 さきは今日も独り知らない街を訪れていた。幼い頃から夢に見る風景を探しているのだ。車内から見たのであろう町並みを探しているのだが中々見つける事は出来なかった

さきは六歳の頃、横浜の養護施設の門前で保護された。名前は勿論、自分が誰なのか、どこから来たのか、親の顔も分からなかったのだ。

「どこから来たの?」「お名前は?」「お父さんは?お母さんは?」保護された時に聞かれたが何ひとつ答えることが出来なかった。記憶喪失になったことすらわからないのだ「分からない」と返事する事しか出来なかった。六歳の子供にそれ以上尋ねるのは酷である。暫くその施設で預かっていれば親が名乗り出る可能性もあるし、また当人が今は混乱して思い出せないのだろうと考えていたので警察に届けはしたものの施設で預かることになった

日が経っても親が名乗り出る事はなかった。またさき自身も何も思い出せずにいた

ただ、着ていた衣服や靴、ポシェットに名前が残されていた。ひらがなでさきと書いてあり、誕生日のメッセージがポシェットに入っていたことから保護された少女はさきと言う名前で六歳になったばかりであると推測された。

行方不明者に名前がないか事件に巻き込まれたのではないか調べたがその時点では分からないままであった

時々うなされて目を覚まして泣いていることがあるので職員が話を聞いたが「怖い」としか言わず何か思い出したのかと聞いても「分からない」としか答えることが出来なかったらしい

今の清水家には、偶々訪ねてきていた支援者の夫婦に出会い、引き取られることになった

今もさきは世話になった施設に顔を出している。自身も救われたが自分以外の子供達にも同じように幸せに暮らして欲しいと言う気持ちがあるからだ。

夢に見る景色と女性の顔、男性の顔を表現出来るようになったのは中学生頃だった。しかし、夢に見たからと言って両親とは限らない、今世話になっている養父母に話すのは気が引ける。

身近な場所から探してみるが町の風景は変わってしまうものだ。自転車に乗り少しずつ遠出をするようになったが夢とマッチする場所は見つからなかった

「さきさん、今日は、何処まで遠出をするんですか?」家政婦の吉田が声をかける

「隣町の商店街とか歩いて見ようかと思っています。何か買い物があるならついでに買ってきますよ。」「とんでもない。最近お休みの度にお出かけが続いていたので遅くなるのかなと思っただけです」吉田は慌てて否定したが、母万里子から何か心配事でも聞かされているのだろう

「今日は、近くですから早く帰りますね」にっこり笑ってさきは答えた

「行ってらっしゃい」「行って参ります」執事の高橋と吉田に見送られ家を出る

(そろそろ両親に説明しなくてはいけないなぁ)

昼過ぎ、帰宅した清水夫妻は「ただいま、さきはまた出掛けたのかい?」「お帰りなさいませ。旦那様、奥様。さきさんは今日は、隣町の商店街を歩いて回ると仰っておられました」「隣町の商店街?何か探しているのかしら?」「さぁ詳しい事は伺っておりません」「そう。分かりました。ありがとう」

「ケーキがあるからおやつに戴こうと思ったのよ。後で一緒に戴きましょうね。吉田さん」

そういってケーキの入った箱を手渡した

「まあ可愛いケーキですね。」「甘さ控え目を選んでみたの、男性でも食べられるように。」「旦那様も良かったですね。」「あら、吉田さんのご主人にもって事よ。高橋さんも甘いのは苦手っぽいし」「うちの主人にも…本当にありがとうございます」「イエイエ実は実験なのよ。本当に男性が美味しい食べられるのかしら?ってね」「実験ですか?」「うちのグループ企業が男性にも美味しく食べられるケーキを開発しているの。そこで試食会があったのだけど残ったものを頂いてきたのよ。だから遠慮しないで食べて欲しいの。ご主人には正直な感想を聞いて欲しいわ。吉田さんが自分で用意したことにしてね」そういってウィンクをして見せた「旦那様もご存じなんですか?」「ええ、後から合流したから知らないの。純粋に食べた感想が聞きたいから内緒ね」「了解しました」イタズラっぽい顔をして吉田が答えた

2時過ぎ、さきが戻ってきた「ただいま戻りました」元気なさきの声が玄関に響く「お帰りなさい、さきさん」吉田が奥のキッチンから出迎える「お父様とお母様がリビングでお待ちですよ。」高橋が執事室から出てきて「もう帰っているんですか」

さきは急いでリビングにひょっこと顔を出す「ただいま戻りました、父さん、母さん今日は早かったんですね」「お帰りなさい。たまには家でのんびりしないとね。さきに嫌われちゃうわ」

「そんなはこと無いけど、でも分かっていたら出掛けなかったのに」「良いのよ。さきにだって付き合いがあるでしょう?中学生だもの」「付き合うって…男か?」父宏の反応が激しい「えっ独りです」さきも慌てて否定する「隣町の商店街で探し物は見つかったの?」万里子が尋ねる「いいえ…まだ」「そう、残念だったわねぇ。ところでケーキを頂いてきたのよ。お茶にしない?」「あっ汗だくなのでシャワーを浴びたいの少し待ってもらえるかしら」「良いわよサッパリしていらっしゃい」「はーい」さきは元気な声で返事をして二階の部屋へ戻りシャワーを浴びた。着替えてリビングに戻ると紅茶といくつものケーキが並んでいた

「母さん、こんなに沢山頂いてきたんですか?」「本当はね、残り物だからって持たされたのよ」「全部違う種類みたいだね」「ええ面白そうだから遠慮しないで頂いてきたのよ。さきにも食べさせたいから」「ありがとう母さん。サイズも小さめで何個でも食べられそうです」「食べて食べて、さぁあなたもどうぞ」「そうだな、親父の集まりにケーキはでないからなぁどれが良いかな?」選ぶのに考え込んでいる父をよそにさきはポンポンと3個のケーキを選んだ「早いな、さき」「まずはクリーム系で選んだの」「私は、どれがいいかなぁ…」「父さんはチョコレート系で攻めてみて」さきのアドバイスに素直に反応し宏はチョコレートでコーティングされたケーキとチョコクリームが載っているケーキを選んだ「どう美味しい?」万里子の問いかけに「美味しいわ。本当に甘さ控え目ね。3個とも美味しいわ。好みはベリーがトッピングされてるこっちかなぁ」「そう、良かったわ。あなたは?」「うん。こっちのクリームは予想と違って苦味があるな。甘いものだと思い込んでる人にはちょっと意外だな、でも旨いと思うぞ、どこで売ってる?今度の会議に出させよう」「あらあら随分気に入られたわねぇ」「父さん、私も味見したいです」「どうぞ」差し出されたケーキをさきは一口頂く「本当だわ。ビターテイストなんですね。甘さは殆ど感じない、でも風味はしっかりチョコレートですね。面白いわ、男性にも美味しいかも」

最近、何か変化が欲しいと思っていた宏はケーキを出すことを思い付いたらしい。

「実は新しい企画の商品なんです。まだ店頭に出していないのよ」「ケーキを開発しているのか?」「お菓子全般です。和菓子も考えたんですけど洋菓子の方が商品化する上で人材とか材料とか手配しやすいので…勿論和菓子も今後考えていきますけど職人が限られてくるのでまずは洋菓子で考えています」「そうなのか…任せた部所だから私は、口を挟む気はないがこれは旨いと思うな。会議の日に準備出来ないかね」

「お願いしてみます。クリームだけでいいんですか?」「コーティングの方と半々が良いな10個づつ頼みたい」「確認してみます」万里子は席を立った

「さきのそれは甘いのかい?」「クリーム系なのでチョコレートのような苦味は無いけれど甘さはかなり控え目ですよ。ケーキバイキングとかで出してみたら面白そうですよね」「ブッフェスタイルだね」「ええそうです」「母さんに提案してみると良いよ」「私が?父さんの方が良いんじゃないですか」「この件は万里子に任せたから口を挟むわけにはいかないんだ」「そうなんですか…」心配そうなさきをみて「別に仲が悪いわけじゃないよ、仕事の話だから一線を引いているんだよ」

宏は仕事の事は家で話さない主義なのだ

「あなた大丈夫ですよ。いつの会議で必要ですか?」ケーキの企画している者に連絡の付いた万里子が確認してきた「木曜日だ。ヨロシク」万里子は頷き再び席を立った「お母さん忙しそうね。」「久々にメインで仕事を始めたからね、緊張しているんだろう。でもね、さきに淋しい思いはさせたくないんだ。だから…」「そんなこと考えていません。お母さんも楽しそう、私も中学年になって部活動で帰りも7時近いしお母さんが何か始めようとしているなら大賛成ですよ。時々お休みの日にこうやって揃って何か出来れば充分です。同級生には親のお休みがなくていつも独りで夕食をとってるって人もいるの。淋しい時は言います。それに吉田さんも高橋さんもいつも居てくれてるし、心配ないです」さきは強く言った

「私達は一度大きな失敗をしているからね、二度と同じ失敗をしたくないんだよ」宏の言葉には後悔の想いが滲み出ている「はい。分かっています。心配は要りませんよ」「そうか…。」 

 かつて宏と万里子には沙依子という娘がいた。15年前、短大を卒業した翌日、家を出て、未だ行方が知れないのだ。

「何故家出を?」「昨日まで普通に過ごしていたのに誘拐された?事件に巻き込まれた?」勿論、警察にも届けを出し、沙依子の仲の良い友人達にも聞いたが誰一人家出の相談をした相手はいなかった。

両親には全く気付かない沙依子の悩みや不満があったのだ。姿を消した二日後に郵便で沙依子から独立するために家を出た、一年に一度、必ず連絡するから探さないで欲しいという手紙が届いたのである。

沙依子は毎年末に、一度封書で近況を知らせてきた。

しかし、住所は書かれてはいない、消印もバラバラで興信所を使ってもなかなか捜しだすことができずにいた。しかし、沙依子が家を出て十年目の年、丁度さきを迎えた年の瀬、知らせが途絶えた。

もっと真剣に捜し出せば良かった、毎年、知らせが来ているので心のどこかで安心していた事もあり、見守っていればいつか会いに来てくれるだろうと思っていたのだ

十年前、家を出た沙依子の手紙に書いていたのは仕事が忙しくなり、両親が不在がちである事、生活は豊かになったが家族が一緒に過ごす時間が殆ど無かった事もあり自分はこの家にいる意味がないと書いてあった。贅沢であると言われればそれまでだが、幼い頃、一緒に食事をしたり、お菓子作りをして楽しかった事、裕福で無くても一緒に過ごしたかった。自分はそういう家族が持てるように自立する。今まで育ててくれてありがとうございました。いつか必ず自分の家族を連れて会いに行きます。待っていてください。

沙依子から届いた手紙は宏と万里子にショックを与えたが、実際、起業して順調に成長するまで、自分の事は後回しになりがちで、素直に育った沙依子が不満を持っているとは気付かなかった。

さきを養女にするときにどんなに忙しくても万里子はさき中心の生活をすると決めた。宏も異論は無かったさきが引き取られて4ヶ月目、世間はクリスマスの装飾で賑やかな頃、清水家には毎年、届いていた沙依子の手紙が届かないことに誰もが気を揉んでいた

「お父さん、お母さん、この家にサンタクロースは来てくれるの」「勿論、さきちゃんの欲しいプレゼントをもって来てくれるわよ‼」万里子はさきへの贈り物を既に手配済みであった「本当に?私の欲しいものって何だろう?」やっと家にも馴れて子供らしくなってきたところだ「オモチャとか…。絵本とか?」宏が横から口をはさむ「オモチャはいっぱいあるよ。本もいっぱいあるからもう要らない。」さきは十分満足している様だ「それじゃあ…何お願いしたい事は?」万里子が尋ねた「うーん、時々夢に見る人に会いたい」さきは考えてから口を開いた「夢?」宏が聞いた「そう…。怖い夢なの…。会ってお願いするの、怖いからもう出てこないで来ないで下さいって」万里子はさきを優しく抱き締める「さきちゃん…。きっと何か訳があるのよ‼あなたの夢にしか出てこられない人達なの。さきちゃんが出てこないでって言ったら忘れられちゃうわ。だからさきちゃんだけでも覚えていてあげて。」もしかしたらさきの本当の両親かもしれない万里子はさきが怖がらないように諭した「わかった…。いつか会えるかしら…」「さきちゃん…大丈夫よ。お父さんとお母さんがそばにいるからね。怖い夢を見たら一緒に寝てあげるわ。」失った記憶が徐々に甦っているのかもしれない。

「さきは寝たかい?」「はい。時々怖い夢を見るそうなので手を繋いで寝かせました。」「怖い夢かぁ…」「多分、親子で出掛けて事故にあったんじゃないかしら…。」「何故事故だと…。もしかしたら怖がっているのは襲われているんじゃないのか?」「よくわからないんです。でも危ない目にあったとしか思えないんです」「うーん確かに…。」「小さい子供の記憶には、どちらにしても残酷ですよ」

あれから八年が経ち、さきは中学二年生になった。記憶については特に思い出すこともなかったが、新しい家族に見守られて素直に成長していった。

学校では、小学生の頃から続けている剣道が少しずつ実を結び、地区大会でも優勝したりと部活動と勉強も落ち着いたところだ。

県大会も終わり三年生は部活を引退してほぼ受験生の生活が始まる

さき達も主将やら副主将やら新しいチームのリーダーになっていた

「ねえさき、今度の日曜日映画に行かない?」中学に上がって同じ日に剣道部に入部した前野理恵とは仲良しだ。「映画?」興味の無さそうなさきに理恵は明るく声を掛けた「そう。中嶋先輩と佐々木先輩と四人でさ。行こうよ❗良いでしょ?」「う~ん…。私、予定が有るの。他の子を誘ってくれない?」「えー何でよ。中嶋先輩だよ?嫌なの?」「だから、予定があるんだって…」「友達と映画に行くより大事な用事?」「理恵、ゴメン。予定があるから」「何の予定よ?最近、いつも何か有るって言うけど一体どうしたのよ?さき、大丈夫?」「大丈夫よ。ごめん。」「さき…。」「私、映画は行けない、本当にごめんなさい」

結局、さきが行かないので映画はキャンセルになると思っていたが、中嶋は「折角だから二人で行こうか、何が見たい?」と続行することになった。

理恵は憧れの中嶋と二人で出掛けられたことに舞い上がってしまい殆ど映画の内容は覚えていない。さきの事は気になるが部活をサボるわけでもなく成績も安定している。ただ、いつも一緒だったさきが遠くへ行ってしまった様な寂しい気がするのだ

「映画どうだった?」中嶋は理恵に声を掛けた「面白かったです。意外とコメディぽっかったですね。」「僕の好みで選んだから前野さんはつまんなくないかなぁって心配だったよ」「そんな事ないですよ」先輩は、部活ののりで誘ってくれただけだとわかっていても初めてのお出掛けが憧れの先輩だったなんて一生の思い出だわとふわふわした気持ちだった「ちょっと参考書選びたいんだ付き合ってくれる?」「はい。ところで中嶋先輩は塾には行かないんですか?」来年は自分も同じ立場になるので参考にしたかった「塾は行かないよ。でもね姉貴が教えてくれるんだ。あの人大学生だけど、バイトで家庭教師してたから…」「それじゃ自宅で先生に教えてもらえるって事でしょう?羨ましいなぁ…」「とんでもない。厳しいよぉ、身内には。すっごく怖い」肩をすくめて嫌そうな顔をして見せる「そうなんだぁ…。」理恵はいつもと違う素な中嶋を見られて得した気がして笑顔になった。

「家庭教師に教わる前に家庭学習している感じ?。あっ、やっと笑ったなぁ」「えっ。私、なんか変ですか?」「今朝から全然笑顔が無いから無理して付き合ってくれたのかなぁって心配だったよ」ホッとした表情で中嶋は笑顔を見せた「そんなつもりは全くないですよ、憧れの先輩と映画に行けるなんて夢みたいで緊張していたから…」「僕ごときで緊張しちゃあ駄目だよ。部活ののりで良いよ」「でも、デートみたいで嬉しかったんです」「光栄ではあるけどね。また行こうよ。二人で…。嫌じゃなきゃだけど」「嫌なわけないです」「そう?じゃあまた行こうね。僕は女子と付き合ったこと無いから気が利かないんだ。受験生でもあるから色々あるけどせめて、一緒に登校したりとか出来ると良いね‼」「先輩、私で良いんですか?」「何で?好きでもない子を映画に誘うほど暇人じゃないけど」「えっとーあの、それは…」「告白してるつもりだけど、駄目かな?」「駄目じゃないです。私も先輩の事好きです。」「おぉ…やった。両想いだって事で良い?」「はい。」思いがけず中嶋に気持ちを伝え付き合う事になった「夢みたいです」理恵の呟きに「俺は、本気だよ」中嶋は、真面目に答えた

そして目が合い二人で吹き出した

「理恵ちゃん、いつもニコニコしていてよ。僕は癒されるからさ」

「はい先輩といるときは気を付けます」「うん。よろしくね。そろそろお腹も空いてきたよ。ハンバーガーでも食べようよ」「はい、私もペコペコです」「そこのハンバーガーショップに入ろうよ」中嶋と理恵はあれから1時間近く店で過ごして帰る事になった

明日、朝は、何時頃家を出る?」

「いつも7時半位です。大会が終わったので…」「そっか。迎えに行こうか?」「そんな大丈夫ですいつもの時間ですから」「そっか何かあったら連絡してよ❗」「はい」

「送っていくよ」中嶋と理恵は、店を出て駅へと向かって歩き出したところで目の前をさきが自転車に乗って通りすぎた

「あっ、さき❗」「えっ清水?おーい清水‼」理恵と中嶋は揃って声を掛けた

「はい?あっ理恵、中嶋先輩も…」さきは、聞き慣れた声に思わず立ち止まり振り向いた

「どこへ行くの?」理恵は軽装のさきを捕まえて、尋ねた

「出掛けた帰りよ❗二人は映画を観てきたの?面白かった?」

「うん。」「僕の好みでアクション系だったけどね」「理恵はアクション系も好きだもんね」さきはさりげなくフォローした。「そうなんだ良かったよ。今度は理恵ちゃんの好みで行こうな❗」「そうですね」真っ赤になっている理恵をみてさきは早々に二人から離れることにした「じゃあこれで…また明日ね」さきは自転車に乗って走り去った

「気を使わせたかな。さあ行こうか」中嶋は理恵と駅に向かって歩き出した。責任感の強い中嶋は勿論、自宅前迄送っていっ

その頃、さきは自宅に到着していたそして、両親にキチンと話そうとリビングでくつろいでいる家族に集まってもらった

「いきなりどうしたんだい?さき」いつものやさしい口調で宏が声を掛けた「さきさん、私達が同席してもよろしいのですか?」高橋は場違いにいる気がしてさきに尋ねた!「はい、是非聞いてください。上手く説明出来ないところをフォローしてください」「何か聞いているの?」万里子は心配そうに吉田と高橋に目を向けた「いいえ。何も。」吉田も困惑した顔を見せる

「これから話すことは今まで誰にも相談したことはありません。でも冷静に話を進める為に高橋さんと吉田さんにも立ち会って貰うだけです」「では始めてくれるかな。」宏がさきに話を促す「はい。実は前々から夢を見るときに知らない顔を何度も見たんです。」「あなたが小さい頃に怖いって怯えていた夢の事?」「そう。それです。」「まだ見るの?」「はい時々です。でも怖くなくなりました。中学生になった事もあるでしょうけどある人物から違う解釈をされたんです」「誰から?」「不思議な力を持っている人物です」「不思議って…」心配そうに万里子はさきを見つめる「怖い夢だって思い込んでいるけど実は私を守ろうとしている記憶だって言われたの。いきなり信じられないでしょう?」「…そうね、突飛過ぎて簡単には頷けないわね」万里子が皆の困った反応を代表して答えた「当然です。私も呆気に取られたもの」そして続けた「でもその人物は、今朝、怖い夢を見たでしょ?でも貴方を守っている人の記憶だから怖がらずに意識して欲しいって言うのね」「いつの話なの?」「剣道の地区大会で優勝した日よ。」「六月の頭ね」「ええ。すれ違い様に言われて驚いたわ。まさにその朝、久し振りにその夢を見たばかりだったから…」「さき…」「夢の中の人はずっと傍に居るからって、私を守るって言ってるって伝えてくれたの」「そうしたらあれから夢を見るたびに景色が気になって捜しているの。夢の中の景色を」さきが説明をすると「そんな当てずっぽで捜すなんて無理があるわ」万里子が心配で口を開いた

「今は便利なのよ❗ネットでビューを探せるの。近くに似ている景色がないか調べてから訪ねているわ」さきはにこりと笑った「そうだったの?」呆気に取られる万里子

「心配しなくて大丈夫よ。無茶はしません。清水の家族の方達に守ってもらった命と体を傷付ける訳にはいかないですから」「さきさん、約束ですよ。」吉田が声を掛ける「はい、ですから協力してもらえませんか。そして、暴走しないようにちゃんと見ていてください。お願いします」さきは頭を下げた「分かったわ」両親と高橋や、吉田達の協力を得てさきは自分の過去を探すことになった

あれから11年が経ち、さきは25歳になった

そして、その日は、偶然訪れた

「さき❗さきじゃないの?」駅前を独り歩いているさきとすれ違った女性が声をかけた。「ええ?」さきは振り返った

「やっぱりさきでしょう?何処に居たの?今までどうしてたのよ❗」怒ったような声で女性がさきに近づく

「あのぅ、私」「絵理子、よせ。驚いてるじゃないか。人違いだよ❗」連れの男性が側から女性を静止した

「私、さきです。清水さきと言います」「清水さん?ほらやっぱり人違いじゃないか…」「だってさきちゃんママによく似てるもの」絵理子と呼ばれた女性は納得が行かないと言う表情だ「他人のそら似だよ」男声は申し訳なさそうにさきに頭を下げた「いえ謝らないでください。私、記憶がないんです。小さい頃の記憶が」「記憶がない?」「ええ。六歳の頃に横浜の児童擁護施設の前で保護されたんです」さきが答えた

「そんな…全く覚えてないの?」女性が尋ねた「はい。何も…何処に居たのか、何があったのか、誰なのか?何も…覚えていません。未だに思い出せません」「でもさ、名前は?都合良く名前だけ覚えているってこと?」女性は疑いの眼差しだ「ちょっと絵理子止めなよ。まるで彼女が嘘をついているみたいな言い方」

一緒に射た男性がさきに詫びて女性を諌める「だって。さきの偽物かも知れないじゃない?」「自分で声をかけたのにか?随分自分勝手な言い方だな‼」男性は少し語気を強く言った「だって…」「だってじゃないだろう?失礼だ」「あっ良いんです。それだけその方を心配されているんでしょうから。大事なお友達なんですね…羨ましいです。そうですね、都合良すぎですかね…」ふっとさきは声がつまる「ごめんなさい。ごめんね‼」男性は頭を下げた「大丈夫です。驚いただけです。本当に大丈夫です」さきは一息ついてから二人に向かって手を振りながら答えた

「擁護施設で保護された時に着ていたものやポッシェトに名前がかかれていたそうです。ポッシェトには誕生日のカードが入っていて年齢が六歳なのと名前は判明したんです。苗字はかかれていなかったのと、私に記憶が無かったことで不明者リストにも合致しなかったようです」さきは淡々と話す「ポッシェト、ピンクのやつでしょう?」絵理子が口を開いた「残念ですが、黄色です。やはり人違いのようですね…」さきは淋しそうに答えた

「ねぇ、念のために連絡先教えてよ」絵理子と言う女性は自分の用で名刺に携帯番号を書き足しさきに渡した「絵理子?」男性が驚いて絵理子を見つめる「保も出しなよ。」慌てて男性も名刺を差し出す

「私は佐々木絵理子。警官よ」

「僕は遠藤保、成りたての医師です」「私は清水さきです。名刺は持ち合わせがないのでごめんなさい。神奈川県庁に勤めて居ます」

「清水と言うと?」佐々木絵理子は尋問でもする言い方だ「養女になったんです。大事に育ててもらっています」「そう…今度ゆっくり会わない?」「捜している方とは違いますよ?」「ここですれ違ったのも何かの縁でしょう?」「そうですね、きっとご縁が有るんだと思います」「…」「何よ?」「珍しい事もあるんだなぁと思って…」「うるさい。保はいなくても良いよ二人で会おうか?」「いや。一緒の方が良いでしょう?」「何で?居なくても構わないわよ別に。」「僕も幼馴染みなんだけど‼」「ごちゃごちゃうるさいのよ。」「お二人は恋人同士でしょう?」「違う。」二人はさきの質問に声を揃えて即答した

「そんなに気があっているのに?」「色々あんのよ」「…」「いつなら会える?」「随分急ぐんだな?」「良いじゃない、保はいなくて良いよ。二人で会おう来週は?」「いきなり言われても、特に予定はないと思いますけど家の都合もありますから」「連絡先…私の携帯に電話して。ほら早く。」「ええ、でも知り合いでもない人に電話番号を教えるのって怖いですよね?」「もう知り合ってるでしょう?」「絵理子。むちゃくちゃだ」「携帯貸して、私の番号に掛けるから」絵理子はさきの手の中の携帯をとって自分の番号を打ち絵理子の携帯にさきの着信を残した「保のも次いでに」と番号を打ち込んだ「絵理子…他人の電話で勝手にそんな事したら犯罪だろう?」「いやならさきが消せば良いのよ❗着拒にでもすると良いわ。」絵理子はさきを見つめて言った「成る程、良い考えですね❗」さきもにこりと笑って答えた「清水さん良いの?」遠慮がちに保がさきに声を掛ける「お二人が危険人物だとわかった時点で携帯番号を変えれば良いんでしょう?」さきは答えた

「うん。残念だけどそうしてくれる?」「保、私達は危険人物だと自分で言ってるよ」「絵理子のしたことがそれだけいけないことだって言ってるんだ」「わかりました。ではお互い頭を冷やして考えて見ましょうか?」さきの提案に保は驚いた「行くよ❗じゃあね」絵理子は保を引っ張り行ってしまった

(嵐が過ぎ去った様な衝撃だった)しばらく立ちすくんでいたが気を取り直して商店街を歩き出した

しかし、夢で見た景色には出逢えなかった「こんにちは」さきはお土産にとケーキ屋さんに入った

「いらっしゃいませ~」店員の声が出迎える「おすすめのケーキとかありますか?うちのオリジナルならありますよ❗こちらです」四十を越えているであろう店員はショーケースの前に出てきて、さきに説明を始めた「あのぅ、お客さん前にもいらしてますか?」「いえ初めてですよ?」「どこかでお会いしたような気がして…この辺にお住まいですか?」「いいえここは初めてです」「そうですか…」不思議そうに店員はさきを見つめている「このレモンケーキは甘めですか?」「そうでないですよ。男性のお客様からも人気のケーキです。オリジナルなんでうちでしか売ってませんよ❗」店員が自慢気に宣伝した「レア物なんですね」さきが訊ねると「まぁレシピを作ってくれた人はどこへ行ったかわからないんですけどね」店員が淋しそうに呟いた

「ではレモンケーキを5個、いえ6個頂きます」さきは家族の分と一個予備に購入したのだった「ありがとうございます。保冷剤も入れますか?」「ええ、横浜に返るのに時間が掛かると思うので…」「横浜からいらしたんですか」「この辺に親戚の方でもいらっしゃるんですか?」店員は何故だか気になって若い女性客に話し掛ける「いいえ、ぶらりと街巡りをするのが趣味で…」若い女性はハキハキしている「この辺は、危なくないと思うんですが、若い女性の一人歩きは危険ですよ。お気を付けて」「ありがとうございます。もう帰るだけなので大丈夫です」さきは代金を支払いケーキを受け取った「ありがとうございました。またお出でください」店員の明るい声に「ええきっと」と答える

さきが帰宅したのは夕方5時をまわった頃だった。早速、興奮ぎみに家族に今日あった事を報告する

「そう、でもポシェットは先方の思い違いってことも有るでしょう?」「ええ、でも私が持っているのは黄色で、あちらもピンクとはっきり言っていましたから勘違いはないと思います」「そう、残念ねぇ。でも名前も同じだって事はチャンスが有るかも」「偽物って事はないですか?さきさんの身近な人に人捜しをしているって知っている方とかいないですか?」「誰にも話していませんよ。街巡りが趣味と話すことはありますが…。」「それだけで子供の頃の事を考え付く人はいないでしょうね」「様子を見てみたら良いんですよ。あちらから連絡が来たときの対応ですよ」「そうね、騙すつもりならそれなりに凝ったこと言うでしょうし、誰か一緒に会えば良いんじゃない?」「私が同行しましょう」執事の高橋が名乗りを挙げた「そうだな。本来なら私達が出ていくところだが」

「高橋さん宜しくお願いします」さきは頭を下げてお願いをした

遠藤保から連絡が来たのはその三日後だった。



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