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歪められた未来


小さな顔に大きな瞳、真っ赤な唇に華奢な身体。

低い身長の所為で自然と上目遣いになり、それが余計に庇護欲をそそる。

異性からは嫌われ、同性からは異様に好かれてしまう。

可愛いと思っていた少女から「近づかないで!」と叫ばれたとき、思わず伸ばした手をそのままに立ち尽くしてしまった。

周囲では友達だと思っていた少年達が少女に暴言を吐き、泣かせている。


「お前が可愛いからって嫉妬してるんだよ」


困惑したままの僕の腕を掴み「帰るぞ」と引っ張る友達の後ろを歩きながら、そっと振り返った。

先程まであんなに可愛らしかった少女が、瞳を潤ませながら唇を歪め、増悪のこもった瞳を自分に向けていることに衝撃を受けた。

それからも度々同じようなことが起こり、それ以外にも偶々村に立ち寄った大人に何度も攫われそうになったり、年頃の村の青年達に囲まれ求婚されるなど、小さな村の中で僕は異質な存在となっていた。


「王様?」


村の大人達が長に呼ばれ告げられたのは、この国の王様がこの村を通る際に一泊するということだった。

小さな村とはいえ、宿屋もあるし市場は栄えている。この近辺の村の中では裕福な方だからこそ此処に一泊していくのだろう。

王様など絵本の中でしか目にしたことがない。両親が失礼のないようにと僕に注意する言葉に何度も頷いた。


――キラキラした、絵本の中の世界。


馬に乗った騎士様が僕達の目の前を通って行く。

豪華な大きな馬車を守るように、真っ白な鎧を着た沢山の騎士様が背を伸ばし凛と前を向いている。

格好良い……凄く、格好良い!

僕の横で、同じように興奮している友達が「俺、絶対に騎士になる」と呟いていた。その横でも同じように頬を染めて「俺もなる!」と拳を握っていた。

僕も頑張れば騎士様になれるだろうかと、皆より細い腕を隠すように服の袖を伸ばし、騎士様達を飽きもせずずっと眺めていた。


王様が村に一泊している。

そんな夢みたいな事が起こっても、僕達が直接顔を見る機会はない。

一目その姿を……と思う人達は、宿の前に立ち護衛している騎士様に睨まれ離れていく。

友達も朝早くから宿の周りをウロウロし、騎士様に怒られてしまったらしい。

家のお手伝いもしないで王様を見に行った為、父さんから頭を叩かれたと零し、不貞腐れながら薪を割っていた。

本当なら僕も薪を割らなくてはならないのに、腕力がないのと皆から危ないと止められ僕の家の分も友達に頼んでいる。その代わり森の中で草を集めるのは僕の仕事。

今日もいつものように草と薪を交換し、僕は割ってもらった薪を抱え宿のある方へ足を向けようとし、止めた。

あそこへ行った所で王様が見られるわけでもないし、あんなに格好良い騎士様達に怒られるのも嫌だ。

早く薪を家に運ぼうと足を速めた僕に、何かがぶつかった。


「……ぇ、わぁっ!」


同じ年頃の子供達よりも小さな僕は、薪と一緒に飛ばされ地面に転がっていた。

何が起きたのかと目をパチパチさせていると「おい!」と声を掛けられた。


「大丈夫か?どこか、怪我をしたのか?」

「……ぇ」

「手から血が出ている!?どうしよう」


僕に駆け寄って来た人は被っていたフードを下ろした。

綺麗な金髪と宝石のような瞳に唖然とし、言葉が出ない僕の前に膝をつき手を取る。

頭の中は(誰?)(金髪……ぇ)ぐちゃぐちゃで上手く声にならなかった。

幾ら王都から離れているとはいえ、僕だって知っている。

金の髪と、この少年のような色の瞳は、この国の王族の証。

今の王様のお子である王太子様にはお子がいる。その方は僕よりも歳が上で、隣国で産まれた王女様と同盟というものの為に婚約している。


「……大丈夫か?今、誰か呼ぶから待っていろ」

「いえ!とんでもありません、僕、あの」

「……僕?お前は男なのか?」

「え……?」


両親から失礼のないようにとあれ程言われていたのに、王族の方にぶつかったなんて大変なことになってしまう。

早くこの場を離れないと……そう思い顔を左右に振って大丈夫だと立ち上がった僕に、目の前に立つ王子様は首を傾げながら問いかけてきた。

……僕は男なのかと。

僕の髪は短いし、服だって女の子達が着ているようなヒラヒラしたものではない。

どこから見ても男、だと思う。


「……男です」

「あ、すまない!あまりにも可愛らしくて」

「可愛くなんて、ありません」

「泣くな、私が悪かった!」


別に泣いてなどいない。ただ顔を見たくなくて下を向いただけ。

この大きくて気持ち悪い目も、真っ赤な口も、細くてみすぼらしい身体も僕は大嫌いだ。

絵本に出てくるような、村の少女達が憧れる綺麗な王子様。

きっとこの王子様は好きになった子に手を振り払われることも、増悪を向けられることもないんだ。


「父上は容姿を褒めると喜んでくれると言っていたんだ。だから、すまない」


喜ぶ人はいるかもしれないけど、僕は嫌だ。

でも、王子様に謝ってもらうなんていけないことだと思った僕は、首を横に振りにっこり笑顔を向けた。


「……可愛い」


また可愛いと言われ気分が悪くなるが。その後も名前を聞かれて答えただけで可愛い……首を振っただけでも可愛い……とうとう耐えきれなくなって顔を下げてしまった。

僕が王子様を避けるように下ばかり見ていたからだろうか、手が痛いのだと勘違いされ、お詫びだと言われフードを被り直した王子様に手を繋がれ、何か言う間もなく屋台を回り出した。

誰かに見つからないように隠れながら行動しなければいけないと言うので、抜け道や家の影になっている場所を教えながら移動していた。

日が傾き、そろそろ家に帰らないといけないと言った僕に、王子様は手をギュッと握り僕の頬へ口をつけた。

驚いて動けないでいると「また、会いに来るから」と言って去っていった。

なんで、男の僕にこんなことをするんだろう。絵本の中では男の人が女の人にしていたのに。

僕はこんな顔で、みっともない身体だけれど女の子が好きなのに……。

友達は将来僕をお嫁さんに貰うとか言っているけれど、僕は誰のお嫁さんにもなる気はない。

……口が触れた頬に手を当て、ゴシゴシと何度も拭う。

お詫びだと言うし、王族の方には逆らってはいけない。だから一緒に居ただけなのに。

サッと背を向け、薪を置いてあった場所へと走った。



※※※※※※※※



何年経っても僕の外見が変わることはなかった。

背は伸びたけれど周囲の子達と比べれば低く、顔だって幼いときのまま変わっていない。

可愛いと言われるのが嫌で、髪を伸ばしてなるべく下を向くようにしていた。

あの日、村に来た王様を護衛していた騎士様に憧れもしたが、僕のような……いや、この村にいるような子供が就けるような職ではないと分かっていた。

相変らず異性に嫌われ同性から好かれる毎日だったけど、僕を愛してくれる両親がいて健康で、そのうち可愛いお嫁さんを貰って幸せに暮らせると思っていた。


――村が、襲撃されるまでは。


家の手伝いで隣村に行っていた僕は、同じく一緒に行動していた友達と何も出来ずに森の中から遠目に燃え盛る村を見ていた。

さっきまで隣村で買ったお土産の話しをしながら、楽しく山道を下っていた。

久々に沢山売れたから、きっと両親が喜んでくれるね!って、二人で笑っていた。

それなのに……。


「嘘だろ……村が……」


僕よりも体格が良くて男らしく、僕が落ち込んでいると豪快に笑って励ましてくれる友達が、声を震わせ涙を流しながらその場に崩れ落ちた。

その瞬間、僕は「待て!行くな!」と泣き叫ぶ友達の静止を振り切って走り出していた。

今朝、母さんは笑いながら僕を送り出してくれて、父さんは何度も僕を抱き締めながら心配だと口にしていて……。

上手く足が動かなくて、何度も転びそうになりながら村の門の前に辿り着くと、そこには鎧を着た騎士様がいた。


「……った、良かった」


それを見てもう大丈夫だと安心し、座り込んだ。

大丈夫。騎士様が来てくれたんだ。母さんも父さんも、村の人達も、もう大丈夫。

僕に気づいたのか、騎士様が振り返り、横に居た騎士様と何か話したあとこっちに向かって歩いて来た。

ここにいたらお仕事の邪魔になるのでは……そう思い、慌てて立ち上がろうとした僕の耳に信じられない言葉が聞こえた。


「まだ村の生き残りがいたのか」

「へぇ、可愛いな。連れて行くか?」

「そうだな、そろそろ全滅させたところだろ」

「お嬢ちゃん。お前の家族も、友達も、皆あの世にいったよ」


生き残り……?全滅……って、何を言っているのだろう。


「なんだ、反応がないな。まぁ、無理もないか」

「他にもいないか探すか?」


最初に僕に気づいた騎士様が、僕の腕を無理矢理掴み立たせ、動こうとしない僕をそのまま引き引き摺って行く。

どうして?まだ村が燃えているのに。早く、助けに行かないと!


「……き、騎士様!あの、助けに来てくれたんじゃ」

「あぁ?あー、確かに俺達は騎士様だが、残念だな、敵国の騎士様だよ」

「この村を襲撃しているのが俺達だ」


敵国……?あの日僕が見た騎士様じゃない……?

どんどん門から遠ざかり、足に力を入れて踏ん張るが直ぐに身体が浮き引き摺られていく。


「離して、離せっ!父さん、母さん!」


必死で抵抗しながら両親の名を呼ぶ僕を笑いながら、敵国の騎士は森の中に進んで行く。

ハッとした僕は腕を掴まれながら周囲を見渡し、木の裏に隠れるように身を潜めている友達を見つけた。

僕と目が合ったのに、友達は直ぐに目を逸らし、その場から居なくなってしまった。

『俺が守ってやるからな』って言っていたのに。

僕なんかどうでも良いから、村の人達を、父さんや母さんを助けに行ってくれれば良いのに。

違う……逃げたんじゃない!だって、僕なんかよりずっと強いんだから!

隣村に助けを求めに行ったのかもしれない。きっと、そうだ。

そうしたら王都から、あの騎士様達が来てくれて、皆を助けてくれるんだ。


「離せ!お前等なんか、騎士様達にやられちゃうんだからな!」

「騎士様?」

「そうだよ!王都から、沢山来て、助けてくれるんだ!」

「……ぶっ、ふ、あはははは」


手を振りながら暴れる僕を見下ろしていた騎士は急に笑い出し、僕を突き飛ばすように解放した。


「おい!」

「……いたっ」


地面にお尻を打ち付け痛みに顔を歪めている僕を足で蹴り。


「お前、知らないのか?この国の今の王は腑抜けた人形だぞ」

「……人形?」

「大体、こんな小さな村に騎士を派遣するわけがないだろ。相手は帝国だぞ?」

「帝国……」

「お前だって帝国ぐらい知っているだろ。賢王も英雄もいないこの国が帝国に逆える筈がないだろ」

「だって、王様が、王子様だって……」

「王族なんてな、一番安全な場所で守られているのが仕事なんだよ。こんな小さな村一つで済むなら平気で差し出すだろ」

「王様は、僕達の村に来てくれて、だから」

「お前は道端の草の名前なんて覚えているのか?王族からしてみれば、お前等みたいな平民なんて草と一緒なんだよ。要らないんだよ。分かったなら、大人しく……!」


楽し気に話していた敵国の騎士がその場に崩れ落ち、口から血を吐いていた。

目を開けたまま、僕の足元に転がった騎士の背には剣が刺さっていて……。

恐る恐る顔を上げると、騎士が立っていた場所に人が立っていた。


「大丈夫?」


その人は歯と歯がぶつかり、声が出ない僕に微笑み、優しく腕を掴んで立たせてくれた。長い綺麗な髪がサラリと零れ、見上げたままの僕を「もう、大丈夫」と抱き締めてくれた。


「……なん、で?」

「助けに来たの。間に合って良かった」


騎士でもなさそうな人が、どうして助けに来たのか。

再度疑問を口にしようとしたところで鎧を着た人が数人近づいて来た。

咄嗟にギュッとしがみついた僕の背を叩き、その人は僕を抱いたまま「生存者は?」と敵国の騎士と同じような言葉を口にし、思わず肩が跳ねてしまった。


――でも。


「村人は無事です」

「そう、良かった」


その人は皆が無事だと言う言葉に反応した僕から腕を外し、目線を合わせながら「貴方の両親は無事よ」と、そう言ってくれた。

そのまま手を引かれながら連れられ、焼け落ちた村の門まで歩いて行くと、そこには村の人達と父さんと母さんが居た。


「父さん……母さん!」


泣きながら母さんの腰に腕を回ししがみつく僕を、父さんが母さんごと抱き締めてくれた。

どれくらいそうしていたのか、僕は助けてくれたあの人にお礼を言おうと父さんと母さんと一緒に村の人達に囲まれている一団に駆け寄った。

僕を助けてくれた人は綺麗な服を着ていて、一緒にいる人達は鎧を着ている。

珍しい黒い髪をした人と話していたあの人は、お礼を言う人達に微笑み、僕に視線を向け手招きした。


彼は、礼は必要ないと言った。

感謝は必要ないのだと、助けた礼は別な形で受け取るからと。

金銭でも人でもなく、たった一つだけのお願いごと。


小さな村を救い、僕の両親を救ってくれたのは、この国の王でもなければ騎士様でもない。

帝国兵に襲撃されたこと、それと支援を求める為に長が王都へ手紙を出しても、誰も来てはくれなかった。

結局敵国の兵を倒し、焼け落ちた村を支援してくれたのはあの人だけだった。

だから、彼のたった一つの願いごとならば叶えてみせる。


「そうか……両親が……ならば、私と一緒に王都へ行くか?」

「……はい。ありがとうございます」


王都から偶々この村に立ち寄った騎士団は、王族の警護を主に担当している近衛騎士隊だった。

焼けた村の修復が終わる頃に現れ、僕達の村の現状など何も知らなかった。

助けに来てくれたわけではない。

あの日の王様のように、偶然、この村に辿り着いただけ。

でも、あの人は『助けに来た』と口にした。

生きている両親を死んだと口にしても罪悪感も後悔もない。僕は孤児だと村の長も口にする。父さんも母さんも、村の人達も、皆があの人の願いを叶える。


『善意ではなく、利用する為にこの村を救ったんだよ』


あの人が僕を嫌っていても。僕は助けて貰った恩を返したい。


『殺してやりたいほど憎い人間がいるんだ』


何度でも嘘を口にする。大っ嫌いなこの容姿も、利用する。

家の影からチラチラと窺う友達を無視し、あの日のように村へやって来た何も分かっていない騎士様の手を取った。





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