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コンサート
いつも通り。ここで拍手。
最高のコンサートだ。
俺のオリジナル曲「マネキン」にケチをつける者はいないはずだ。
拍手が鳴り止まない。さすがに楽しくなってくる。
ただ、気に食わないのは露骨に嫌な顔をしたいかつい眼鏡の男だ。
老けた体を見る限り、もう定年退職しているだろう。
どこかで見たことがあるような顔立ちだ。
コンサートホールの裏口は古臭く、電気には蜘蛛の巣が貼っている。気にすることなく、俺は受付にむかう。
受付嬢は大学生の若い子だ。
「受付票を見せてくれないか」そう言ってポケットの中のタバコを出した。
「もちろんです」少し笑顔だが、強ばった笑顔だ。
余裕のある表情で俺は受付票を受け取った。ゆっくりと受付票を開いた。
俺は思わず受付票を落としそうになった。見覚えのある名前がのっていたからだ。受付票にはかの有名な音楽評論家である暁雄二の名前が載っていた。
何故あの方が俺のコンサートに居るのか。まさかとは思うがスカウトか。
そう考えながら喫煙所に向かう。
タバコの火をつけて巨大モニターに目を向ける。
ここの辺りに通り魔が出たらしい。恐ろしい世界になったものだ。