俯瞰の世界から2
どの位の時間がたっただろうか、白衣の男が部屋に帰ってきた。彼は無言でモニターの前に座ると届いているメールに目をやっているようだった。
ふと、彼の顔が緩む。いや、緩むどころではない、此れは歓喜の表情と言っていい。兎に角男が喜んでいるのは確かで、終いにはガッツポーズを決めながら少女に向かって歩み寄って行く。
「沙耶、やったよ。何とかなりそうだ」
彼は少女にそう言うと、足早に自分のデスクに帰ってきキーボードを叩きはじめる。かと思うと、すぐさま立ち上がり廊下へと出て行った。
暫くすると彼は一人の女性を連れて帰ってくる。
「は? 何? 何なのいきなり」
彼女は困惑しているようで、満面の笑みを浮かべる彼に眉を顰めていた。
「このメールを見てくれ」
彼の笑みは変わることなく、モニターを見るよう彼女を促す。彼女はどれどれと注視し、しばらくの後に彼と同じように歓喜の表情に変わっていく。だがその表情はすぐに疑惑の顔に変わった。
「これ本当なの? 彼の存在自体都市伝説みたいなものなのに。もし本当に彼だとしても、彼女を治せる保証がある訳じゃなさそうだけど」
彼女の問いを受けても彼の表情は変わらない。
「彼が居るかいないかなんてどうでもいいのさ。問題は沙耶を治せるか治せないかだ。彼は治せるかもしれないと言っている。この研究所では不可能と見たてたのに、彼は可能性を示唆してくれている。これはまたとないチャンスだと俺は思っているよ」
成程ねぇと彼女は少し呆れたようにため息をつく。
「あなたがそう信じるなら私は止めない。確かにやってみるのもいいと思う」
彼女は少女の前まで行くとしゃがみ込み、少女の顔の高さまで視線を下げると、優しく手を握った。
「それで、お願いがあるんだけれど……」
男は女性の顔色を窺うように彼女に問いかける。
「あぁ、メールの最後の件ね。良いわよ、用意しといてあげる」
少女を見ているせいか、彼女の口調はまるで母親が愛児に語りかけるかのように優しいものだった。
「それで、いつ彼は来るの?」
彼女は二度目のガッツポーズをしている彼に問いかける。
「明日だ」
彼は満面の笑みでそう答え。彼女の口は塞がらなくなった。