俯瞰の世界から1
窓もない暗い部屋で白衣を着た男はPCに向かい、カタカタと文字を打っていた。アーロンチェアの軋む音やキーボードを叩く音、それと一定間隔でなる単調な電子音がこの部屋に響いている。
男は暫く文字を打ち続けていたが、ひと段落ついたのか椅子から立ち上がり、部屋の隅にあるベッドに向かう。
そこには電極に繋がれた少女が眠っていた。彼女を男は心配そうに撫でる。
「もうすぐだからな……沙耶」
沙耶と呼ばれた少女に返事は無かったが男はもう一度、そっと少女の頭を撫でた。
横開き式の部屋の扉が開き、廊下の光が人影と共に部屋に入ってきた。
「あ、上治さん、どうもっす」
金髪に革ジャンの男がカツカツとブーツを鳴らし上治と呼ばれる白衣の男に近寄っていく。
「やぁ小太郎君。今日は珍しく早いね」
男はにこやかに彼を迎え入れる。
「上治さんこそ、この時間はもう鬼灯さんとこ、行かなきゃじゃないですか?」
そうだった、と男は思い出したように部屋を小走りで後にする。金髪の男はそれを見送ると銀の髑髏で装飾されたバッグから点滴用のパックを取り出し、少女についているそれと交換した。
用件が済んだのか部屋から出ようとした男が歩き出した時、上治が先ほど見ていたモニターが動く。金髪の男はそれに気づき画面を覗き見た。どうやらメールが届いたようだった。
「……神童?」
男は首を傾げるが、すぐに興味を無くしたように出口に向かった。
少女が一人残された部屋は、電子音だけが静かに響いていた。