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短編闇鍋

メリーさん☆ラブ

作者: トカゲ

恋愛を書こうと思ってたんや

 メリーさんという都市伝説を知っているだろうか?

 ある日非通知番号での電話がかかってきて、こう言われる。


 「私メリーさん、今ゴミ捨て場にいるの」


 メリーさんというのは小さいころに捨てたはずの人形の名前で、怖くなって主人公は電話を切ってしまう。しかしメリーさんの電話は何度もかかってくる。

 電話に出る度にメリーさんは主人公の元に近づいて行く。そして最後には………といった怪談だ。


 大切にされた人形には心が宿り、魂が宿って動き出すようになる。

 そんなのは所詮空想、妄想の類の話だし、現実ではありえない。

 だけど、それが現実にある事だったとしたら?

 それは恐ろしくもあるけれど、同時に素敵な事でもあると思う。


・・・


 パソコンの画面だけが光を放つ部屋に1人の中年男性が座っていた。

 ボサボサの髪に無精ヒゲ、弛んだ体はメタボ一歩手前といった所だろうか。

 彼の名前は荒吐 矢次という。年齢は35歳で、勤めていた会社が潰れてからは貯金を食い潰しながらのニート生活を2年ほど続けていた。


 矢吹だって2年間何もしていなかった訳では無い。

 ハローワークには通っていたし、手に職を付けようと小さいころから興味があった陰陽道を学んだり、全国の寺や神社を巡って修験者やお坊さんに教えを請うたりしてきた。

 その結果なのかどうかは分らないが矢吹は幽霊を見えるようになったし、簡単なお祓いも出来るようになった。


 既に矢吹はそこら辺にいる自称霊能力者よりよっぽど霊能力者だと言える。

 それが就職に有利になるかと言えば首を傾げるしかないが。


 プルルル


 突然、料金未納で止められているはずの矢吹の携帯が着信を告げた。

 画面に表示されている番号は非通知だ。修行をして霊感に目覚めた矢次にはこれが幽霊や妖怪の仕業だと直ぐに分かった。

 おもむろに通話ボタンを押すとそこからは幼い少女の声が聞こえてくる。


 「もしもし私メリーさん。今、駅にいるの」


 矢次にはそれが何の霊なのか直ぐに分かる。

 都市伝説で有名なメリーさんだ。


・・・


 矢次は小さいころから都市伝説や怪談といった怖い話が大好きだった。

 その中でも好きだったのはメリーさんの話だ。

 自分が好きな人形が喋って動いて会いに来てくれる。

 矢次は口下手で内向的な少年だった。友達も少なかった。

 そんな彼にとってメリーさんの怪談は怖い話というよりは素敵な話に思えて仕方が無かった。

 だからこの怪談を知った時に矢次は作ろうと思ったのだ。自分だけの友達を。


 当時の矢次は自分よりも大切だと思える人形を持っていた。

 父のお土産のフランス人形で、その人形とは幼稚園からの付き合いになる。

 人形である彼女の金髪は絹の様に滑らかで、青い瞳は澄んだ湖のようだった。


 矢次はそんな人形を裏庭の桜の木の下に埋めた。

 本に出てくるメリーさんの怪談のように動き出して友達になってほしいと考えたのだ。

 しかし結果は何時まで経っても人形は現れず、矢次は親の都合で引っ越してしまう。

 あの時の悲しみを、後悔を矢吹は忘れる事は出来ないだろう。


・・・


 プルルル


 「私メリーさん、今あなたの家の前にいるの」


 中学生の頃に矢吹はメリーさんが最後には持ち主だった人を殺してしまう都市伝説だったことを知った。よく考えれば分る事だ。捨てられた人形が持ち主に抱く感情なんて怒りや恨み以外にないだろう。


 矢次は自分が死ぬかもしれないと思いながらも嬉しさで顔がニヤけていた。

 人形は矢吹を恨んでいるかもしれないが、矢吹はずっと彼女が好きだった。

 そんな彼女がメリーさんになってまで会いに自分に来てくれる。矢吹には死の怖さよりも彼女に再開できる嬉しさの方が勝っているのだ。


 (恨まれていても良い。それごと俺は彼女を包み込んでみせる)


 幸いな事に矢次は2年の修行で霊能力に目覚めている。一方的にやられる展開にはならないだろう。


 プルルルル


 電話が鳴った。番号は非通知、メリーさんだ。

 さっきの電話では家の前にいたから、今度は部屋の前にいるはずだ。

 そうと決まれば先手必勝、矢次は携帯の通話ボタンを押す前に目の前のドアを開けた。


 扉の前には金髪の少女が立っていた。

 腰まで伸びた金髪と澄んだ湖のような色をした瞳。正しく自分が埋めた人形だ。咄嗟に矢次は彼女を抱きしめた。


 「な、何をするの!?」


 次の瞬間、何か見えない力により矢次は壁に貼り付けられた。

 恐らくメリーさんの念動力だろう。強い力を持った幽霊や妖怪、都市伝説はこういった力を持っている者も少なくはない。しかし、厳しい修行を終えた矢次にはこの程度の念動力では力不足だった。

 何故なら矢吹はもっと恐ろしい幽霊や妖怪達との死闘を潜り抜けてきたのだから。


 「ふんっ!」


 矢次が気合を入れるとメリーさんの念動力による鎖は簡単に弾け飛んだ。

 メリーさんはそれに驚いて固まってしまう。

 彼女は普通の人間だったら死んでもおかしくない力を矢次にぶつけたつもりだったのに、彼は死なないどころか拘束を強引に解いてしまったのだ。驚かない方が可笑しいだろう。


 「君はあの時、僕が埋めた人形だね」


 「そ、そうよ」


 「そうか。あの時は本当にごめん」


 「今更何よ! 友達だと思っていたのに!」


 「俺だってそうだ。」


 「それならなんで」


 「君をメリーさんにしたかったから。君と話したかったんだ。好きなんだ、君の事が」


 「い、いきなり何を言っているのよ!?」


 矢次からのプロポーズに驚くメリーさん。

 それもそのはず、今のメリーさんには矢次に対して捨てられた恨みしかないのだ。


 「何なのよ、訳が分からないわ」


 混乱したメリーさんは残った力をすべて使って矢次を拘束して急いでその場を離れた。

 今のままでは矢吹を殺せない、それどころか自分の身が危ないと思ったからだ。


 メリーさんは急いで矢吹の家を出て全力で走る。


 プルルルルル


 10分程走っただろうか? メリーさんが立ち止まり一息吐くとポケットから携帯の着信音が鳴った。

 非通知の番号を不審に思いながらもメリーさんは通話のボタンを押した。


 「もしもしメリーちゃん? 俺、矢次だよ」


 「ヒィ!?」


 かかってきたのは矢次からだった。

 急いでメリーさんは電話を切った


 「何で? あいつは私の番号を知らないハズなのに!」


 その時メリーさんの肩がポンと叩かれる。


 「メリーちゃん、本当に会いたかったよ」


 「いやぁーーーっ!?」


 後日、メリーさんにストーカーが現れたという噂で幽霊や妖怪に激震が奔る事になる。

 怪異ストーカー矢次の伝説は始まったばかりだ。


正直な話、最近の美少女フィギアとかがメリーさんになったら喜ぶ人も多いと思う。

ローゼンメイデンとか武装神姫みたいのが家に来たら少なくとも私は歓喜する自信がある。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メリーさんが逆にストーカーされる部分、大笑いさせて頂きました。 [一言] 私も作者さんと全く同じ事を考えていました。「俺と結婚してくれ!」と頭を下げ、もし逃げるようなら矢次さんみたいに、地…
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