第一章 籠の中の鳥 -2-
―昔々の物語
神に愛される一人の天使
皆にも愛された慈愛の天使
神を一途に愛した一人の天使
神をあまりに愛し過ぎた天使
神の結婚に深い悲しみを覚え
深い悲しみをその身に宿す
あぁ、どうして私ではないのですか
私は貴方をこんなに愛しているのに…
神への深い愛が、悲しみと共に歪み、殺意に変わる
私を愛してくれないのなら
他の人のものになってしまうのなら
殺シテシマエバイイ
天使は憎しみの思うままに神を殺し、神の后も殺した
だけど憎しみは晴れず
ついには仲間も襲うようになってしまった
彼女は神の血で紅く染まった翼を広げ
仲間を次々襲い、その命を奪った
仲間達は彼女を恐れ、言いあった
『紅い翼がやってくると死が訪れるぞ』…と
それは後の子孫にも伝えられ、昔話に形を変えた。
それがこの本なのである―
「……紅い翼が畏怖されてるのは、こういう訳だったの」
本を詠み終わり、パタン…と本を閉じてベッドに寝転んだ。
紅い翼にこんな話しがあるなんて、思いも寄らなかった。
「紅い翼は…神の血で染まった…罪の証…ってことね。そして、血を求めてる…って言われてるし」
あぁ、でもそれは本当の事なのかもしれない。
リアーナは小さく溜息を吐いた。
思い返すは十年前。
あのとき、まだ6歳の誕生日も迎えていなかった。
リアーナの傍には、乳母であるロゼリアが常に傍にいた。
王とセシル以外からは疎まれ畏怖されているリアーナを、赤子の頃から愛しみながら育ててきた彼女を、リアーナも大好きだった。
ロゼリアはリアーナに色んなことを教えた。
リアーナは一生懸命、彼女の教えを覚えていった。
そんな幸せな日々は、突然終幕を迎えた。
王妃が、リアーナを暗殺しようと目論み、それに気付いたロゼリアがリアーナを庇って殺されたのだ…リアーナの目の前で。
目の前で胸を剣で貫かれ崩れるようにして倒れていくロゼリア。
リアーナの心は、恐怖・憎しみ・悲しみに支配され、頭は真っ白になった。
何事だ、と王とセシルが駆け寄ってきたときには、リアーナは気を失っているのか倒れており、その目の前には暗殺者のしたいが。
そして、リアーナは全身血だらけだった。
羽根も、暗殺者の血を浴びたのか、いつもより鮮やかな紅色を放っていた。
王とセシルはこのことをもみ消しにした。
だが、リアーナはしっかりと覚えていたのだった。
そして、王妃はリアーナに向かい『お前は呪われた子なのだ。ロゼリアが死んだのもお前の所為』と暴言を吐き、リアーナに合わなくなった。
「そのあと、父様に洗って頂いたけれど、色が落ちなかったのよね」
まるで、生地が染色液を吸って色づいたかのように、羽根も血を吸って色づいたかのようだったな、と一人コ呟いた。
「ロゼリア……」
今はもう居ない、優しくて大好きだった乳母の顔を思い出して、涙ぐんでいると、コンコンッと扉を叩く音が響いた。
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