ドラゴンフルーツ
異世界スイーツ短編企画というのをツイッターで見かけまして、思いつくままに書いた作品です。
僕は今、魔物の跋扈する樹海にいる。なぜかと言うと、お師匠様が急に【ドラゴンフルーツ】が食べたいと我儘を言い出したからだ。また、難易度の高い我儘である。僕はまだ魔法士見習いであって、魔法士でもなければ、師匠のような魔法師でもないんだけどなぁ。こんなところで、龍やら人狼やらにでくわしたらひとたまりもないよ。
とりあえず、目隠しフードは貸してくれたけど、匂いに敏感な魔物になんの意味があるのかなぁ。とにかく、はやく【ドラゴンフルーツ】見つけて帰ろう。日がさしてるうちは、まあ、夜行性のモンスターは出ないから大丈夫だと思う。というか、思いたい。
僕は樹海の中を羅針盤を頼りに移動する。羅針盤には【ドラゴンフルーツ】の文字が浮いている。この羅針盤は言葉を一つ吹き込むと、まっすぐその方向に針をむける。どうやらそう遠くにあるわけではないようだ。そう判断できるのは針の長さ。目的地に近づくと短くなる。とっても便利な魔法道具。ただし、夜は使えない。理由は月光浴をさせて、エネルギーを蓄えさせなければならないからだ。僕はこの子を常に月光浴させているから、エネルギーは満タン。我儘師匠のあれとってこい、これとってこいで樹海にも入りなれたけど。最初は昼寝してるブルードラゴンの子供の側をひやひやしながら、とってきた薬草が毒草だったりして、ごはん抜きとかいうひどい目にあったけど。
僕は羅針盤に目を落とす。どうやらすぐそばらしい。【ドラゴンフルーツ】はドラゴンの姿に擬態するから、本物のドラゴンと間違うと大変な目に会う。ただ、実ってる【ドラゴンフルーツ】は、移動しないからみつけやすい。
「あ、あったぁ。よかった」
僕は見つけた【ドラゴンフルーツ】に手を伸ばした。その瞬間、電流が体をはしった。
「痛い!な、なに」
『なに?ではないわ……いきなり私の子供をもごうなどと、不埒な奴ね』
僕は目を丸くした。
「いま、しゃべった?」
間抜けな質問だと思うけど……植物ってしゃべらないよね。
『しゃべって悪いのか?どうやら、お前何も知らずにわが子を採りにきたようだね』
それは、確かにそうだ。お師匠に【ドラゴンフルーツ】をとってこいと言われ目隠しフードを渡されて、樹海に放りこまれたんだから、調べてる暇なんてなかったし……。
「あの、もしかして僕みえてたりします」
『もちろん、目隠しフードは植物系の私には通用しないもの。何せ視覚ではなく温度で外敵を探知するんですからね』
僕はがっくりと肩を落とした。
じゃあ、どうすれば?
焼いちゃえばいいの?
いやいや、それは駄目でしょ。実が焦げちゃう。
「あの、ものは相談なんですが、ひとつ……じゃなくてお一人譲っていただけませんか?」
『はい、いいですよって言うわけないでしょう。私の可愛い子どもたちよ』
「それでも、一人連れて帰らないといけないのです。病気の母がどうしても食べたいと……」
とりあえず、感情に訴えてみた。
『そのパターン。飽きてるんだけど……』
ダメか……。
「ああもう、じゃあ、どうしたら譲ってくれるんですか。ぶっちゃけ、僕が食べたいんじゃないんです。僕はただの魔法士見習いで、我儘師匠にとってこいって言われました。それだけです!あなたのお子さんがおいしいのか、まずいのかさえしりません!!」
『なんですって!!師匠ってことは魔法師なのよね!!』
なぜか【ドラゴンフルーツ】さんは喜びの声を上げた。
『いいわ。では、この一番真っ赤な子を連れて行きなさい』
そういって差し出された真っ赤な実は熟しすぎてるんじゃないかというほど、ぷよぷよしていてつぶさないように持ち帰るのに、僕は一苦労した。
とりあえず、皿にそのまま乗っけて、庭の長椅子で居眠りをぶっこいてる師匠に大声でどなった。
「ご所望の品ですよ!!」
師匠はびっくりして飛び起きた。そして不機嫌な顔で僕を睨むが、皿の上の【ドラゴンフルーツ】をみて目を輝かせた。
「へぇ、マジとってこれたんだぁ。いやあ、えらいえらい」
そう言いながら皿の上の【ドラゴンフルーツ】ひっつかむときゃっと悲鳴が上がる。
僕と師匠は思わす【ドラゴンフルーツ】を見つめた。
確かに声はここから発せられたのだ
「おい、お前……なぜ、しゃべれる?」
『わ、わたし病気で長い間、母さまから栄養をいただいていたのです。それでいっそ腐れ堕ちてしまうならと、母さまがそこの少年にお与えになりました。ど、どうぞ、ご遠慮なく……お、おめしあがりくださいませ』
完全におびえ、震える少女のような可愛らしい声。
師匠はわなわなとふるえながら叫んだ!!
「食えるかぁあああ!!」
『で、でも、召し上がりたいのでございましょう?』
【ドラゴンフルーツ】は腐れて死ぬより、食べられた方がましだと言いたげに囁く。
師匠は、深くため息をついてしばらく沈黙している。こういうとき、この人はろくなことを思いつかないのだ。いったい、何をいいだすかと僕は内心はらはらした。返してこいと言われても困る。今から樹海に入ったら、夜になってしまうのだ。それだけは、回避したいと僕は願った。
「よし、それなら俺と契約をしよう」
『契約でございますか?』
「そうだ、お前を俺の庭に埋めてやる。ここの土は栄養がいいからな。お前の病気も俺と契約さえすれば治る。どうだ?」
『そ、それが本当なら、お願いします。私、このまま腐れ死ぬのも、食べられるのも怖いです』
「よし、では」
師匠は僕に命じて庭に穴を掘らせた。直径三十センチ、深さは五十センチ。狂いなく掘れ、掘らないと飯抜くぞと言われたので、僕は言われたように穴をほった。
師匠はその穴に【ドラゴンフルーツ】をそっと落として呪文を唱える。掘り起こされた土は青く輝き、さらさらと穴の中に落ちて行った。
「お前はこれからこの庭で成長し、年に一度、俺にお前の子を一つ与える。これがお前と俺の契約だ」
師匠がそういうと【ドラゴンフルーツ】が返事をするまもなく、彼女?は地中に埋もれてしまった。
「よし、これで【ドラゴンフルーツ】の生態がわかるな。お前、明日から水やりと成長記録とれよ」
師匠はそれだけいうと、ふたたび長椅子に寝転がり、すやすやと眠りに落ちた。
なんだろう。
僕は師を選び間違えたのだろうか。毎度のことながら、魔法に関することは教えてくれず、こういう雑用をどんどん増やすのである。まあ、べつにいいけどさ。植物育てるのすきだし。
僕は【ドラゴンフルーツ】が埋まった土の上にかがみこみ、ぽんぽんと土を軽くたたいてよろしくねと心の中で呟いた。
【終わり】
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