ぶかつどうを作ろう!
目覚まし時計が鳴り、目を覚ます。
「あと.....五分.......」
布団の中が温くて気持ち良く、またしても睡魔が襲ってくる。あと五分くらいなら寝てても大丈夫だろう。うん、あと五分。本当にあと五分だけだからね?そうしてまた眠りに落ちそうになる。
「おにーちゃん起きろぉおおおー!」
けたたましい怒鳴り声が聞こえ、部屋のドアが勢い良く、バンと開けられる。
「あと五分寝かせてくれよ....」
「もー!おにーちゃんは毎日そうなんだからぁ!」
全く朝から元気な妹だ。そろそろ起きるかと思ったその刹那、俺のみぞおちに衝撃と痛みが走る。
「かはっ....おま.....なにして......」
「おにーちゃんが早く起きないのが悪いんだからね!」
どうやら妹は俺のみぞおちにかかと落としを食らわせてきたようだ。全く酷い妹だ。
「だからって、みぞおちにかかと落としはねぇだろ...」
「うっさい!」
そう言った妹は俺のベットの上で俺を跨ぐように仁王立ちしている。
ていうか、その位置だとパンツが...。妹の今日のパンツはウサギのキャラクターがプリントされたパンツのようだ。
「可愛いウサギさんだな」
俺がそう言うと妹は顔を赤らめ、恥じらいながら素早い動きでスカートでパンツを隠す。
「何見てんの変態!」
顔を赤らめた妹はまた更に俺のみぞおちに蹴りを入れて部屋を出て行った。
「....いてぇ」
全く、妹の蹴りは強烈すぎる。俺の妹の蹴りがこんなに強烈なわけがない。某千葉県の妹みたいじゃないか。そんなくだらないことを考えつつ、寝巻きから制服へと着替え、今日の時間割りの教科書類を鞄に詰め一階へ降りて行く。
リビングに入ると母さんが朝食の用意をしていた。
「おはよー」
「裕人おはよう。もうすぐ朝ご飯ができるからイスに座りなさい」
もう妹はイスに座っていた。そして、凄い目つきで俺を睨んでいる。
そんな妹の隣に座るが、左からとてつもない視線を感じる。まだ睨んでいるようだ。
「おはよう風香」
俺がそう声をかけると、ぷいっとそっぽを向いてしまった。俺にパンツを見られたことをかなり気にしているらしい。
「朝ご飯できたわよー」
母さんがそう言い食卓へ朝ご飯を並べる。トーストにスクランブルエッグ、ベーコンにサラダだ。
いつものようにみんなで手を合わせいただきますをする。
そして、妹に睨まれつつも朝ご飯を完食し、食器を洗い終わると、ピンポンと家のチャイムが鳴る。
どうやら、幼馴染の不知火沙季が来たようだ。沙季とは小学校の頃から一緒に登校している。故に、沙季が毎朝チャイムを鳴らすのは日常の一部なのだ。
「沙季来たし学校行くわ。」
母さんにそう言い、玄関へ行こうとすると
「ま、まっておにーちゃん!」
風香が慌てて付いて来る。
「二人ともいってらっしゃい」
「「いってきまーす」」
靴を履き、玄関を開けると沙季がいる。
「おはよーヒロくん、風香ちゃん」
「おう。おはよう」
「おはようございます、沙季さん」
我が妹は何故か沙季には敬語なのだ。
「じゃあね、おにーちゃん」
妹は何故かニヤニヤしながらそう言い、俺たちとは逆方向に駆けて行った。妹の学校は俺たちの学校と逆方向なのだ。
「それじゃ、私たちも行こっか」
沙季がそう言いながら歩き出す。俺はいつものように沙季の隣を歩く。
だが、どうも沙季の様子がおかしい。うつむいて黙ってしまっている。
「なぁ、どうしたんだ沙季。さっきから黙ってるけど」
俺がそう言うと、顔を赤らめまた更にうつむいてしまった。俺が大丈夫か?と言おうとすると沙季が顔を上げる。
「あ、あのね、ヒロくん」
「ん?なんだ?」
「その.....ぶ、部活を作らない?」
「部活?何でだ?」
何故、今頃作り出すのか?とかなり疑問だ。
「.................クラスが離れちゃってヒロくんと話す時間が少なくなっちゃうから......」
沙季がまたうつむいているので、何を言っているのか声が良く聞こえなかった。
「え?なんだって?」
「な、ななななんでもない!」
沙季は更に顔を赤らめ俺を殴ってくる。
なんか今日は朝から蹴られたり殴られたり大変だ。
「と、とにかく、あたしとヒロくんで部活を作ることは決定事項なの!わかった?」
人差し指をビシッと俺に向け沙季がそう言う。俺に拒否権はないのかよ。
「わかったよ。それで、何の部活なんだ?」
「ふふーん。それはもう決めてあるんだぁ。それはね『術式部』なのだ!」
沙季はドヤ顔でそう言った。
「は?ていうか、お前、術式の成績悪いのになんで?」
そもそも、魔術とは術式に魔力を通すことによって発動できるものである。術式とは魔力をどういう性質の物に変え、どういう命令を与えるのか、それらを演算し、式に表したものである。沙季はその術式の成績が悪いのだ。
「うるさい!ヒロくんは術式の成績は優秀なんだしあたしに教えてくれればいいじゃん!」
「まぁ、いいけどよ...」
沙季が嬉しそうに笑う。
「じゃあ、昼休みに明希先生に創部手続きしに行こ?」
「はいはい、わーったよ」
えへへと沙季が満足そうに微笑む。全く、少しドキッとしちまったじゃねぇか。
そんなことを話しているうちに、もう学校の校門まで着いてしまった。
「ヒロくんも2年生の校舎だよね?」
「ああ、そうだよ」
下駄箱に着き靴から上履きへと履き替える。
「先生との一対一の授業頑張ってね」
「おう」
階段を登り、二階へ上がる。
「あたし三階だから、また昼休みね!」
「わーってるよ、じゃあな」
そうして、沙季と別れ、職員室横の俺専用の教室へ向かう。
ドアを開けると、そこには教室のど真ん中にポツンと机とイスが置かれていた。シュールな光景だ。
鞄から教科書類を取り出し、机の中へと入れる。
「しかし、マンツーマンで授業とは...」
独り言を呟くが、俺一人なのでただ虚しいだけだった。
HR開始のチャイムが鳴るほぼ同時に教室のドアがガラガラっと開く。
「お、裕人きてるな。おはよう」
「明希先生おはようございます」
またしても担任は明希先生のようだ。
「では、号令をかけろ」
「え?俺一人だけなのに?」
「無論だ」
なんか一人でやるのは恥ずかしい気もするが、仕方がないのでやることにした。
「きりーつ、れーい、おはようございます。ちゃくせーき」
棒読み感満載だが気にしない気にしない。
「うむ。では、今日から2年生ということで頑張れよ裕人」
「はーい」
「今日は特に連絡はないからこれでHRは終了だ」
こうして俺の新しい学校生活が始まったのだ。
四時間目が終わり、昼休みのチャイムが鳴る。お昼ご飯の弁当を広げ、食べ始めるが、やはり一人しかいないこの教室で食べるのはとても虚しい。もしゃもしゃと咀嚼していると、教室のドアが開き、沙季が入ってきた。
「ヒロくん一人で食べてるんだ」
「仕方ねぇよ。俺一人だけなんだし....」
ほんと寂しい。明日からは屋上とかで食べようか。
「あ、そうそう。明希先生に創部手続きの書類貰ってきたよ!」
「早いな...」
沙季が嬉しそうに続ける。
「でね、顧問はなんと!明希先生がなってくれることになりました!」
「明希先生もよく了承してくれたな」
「明希先生が、裕人は一人だけだからそういう青春できる場所も必要だろうって言ってた」
何言ってんだあの三十路女。
「それで、部室の場所なんだけどね、今案内しちゃいたいんだけどだめかな?」
「まぁ、構わないよ」
「じゃ、行こ」
教室を出ると、沙季が俺の手を引きながら走る。
「おい!沙季危ないぞ」
「大丈夫だって!」
なんか、すごくはしゃいでるな。こんな沙季は見たことない。
校舎間を結ぶ通路を通り、違う校舎へ移動する。二階から三階へ、そして三階の端まで来ると沙季が止まる。
「じゃじゃーん!ここでーす」
そこは音楽準備室とかかれたドアがあった。
「うちの学校は、何年か前に音楽の授業無くなってこの部屋は使ってないから使っていいって」
「隣の音楽室は?」
「そっちは物置として使われてるってさ」
確かに、音楽室の方のドアを開けてみると物置と化していた。
音楽準備室の方を開け、中に入る。
中に物はほとんど置かれておらず、真ん中に大きめの机が設置されている。机があったので、疑問に思う。
「ん?誰か使ってたのか?」
「しばらくは、どこかの部活が使ってたみたいよ」
なるほど。だからか。
「今日から、ここで部活だからね」
「おう、了解だぜ」
部室の確認も終わったところで、お互い教室へ戻る。それから、昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
午後の授業も終わり、放課後になったので、部室へと向かう。
そしてドアを開くと、もう沙季が来ていた。
「ヒロくん遅いよー」
「ごめんごめん」
こうして、俺たちの新しい部活動が始まるのであった。