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一章 共同|戦闘《さぎょう》- 008

 クシナダの目の前で、歪に美しい顔をしたムーンアームの瞳が赤く明滅している。さすがに、活動限界が近づいているのだ。敵の左肩の辺りと、腹部の片側が開き針状をした幾つもの突起物が顔を現した。マイクロミサイルである。おそらく、体内に残存しているすべてのマイクロミサイルを使い、飽和攻撃を行うつもりなのだろう。すべての攻撃を受けたら、高度な自動修復機能を持つクシナダであっても耐えられるかどうか分からない。

 だがこの時、すべてはもう終わっていたのだ。

 今、クシナダはムーンアームの目の前にいる。そして、それを操るのは楓だ。そんなものを撃たせる間など与えるわけもなく、ましてや躊躇などするはずもなかった。

 まず、ほぼ胴体だけになったムーンアームを蹴り上げる。その後、数発の拳を繰り出し、今度は打ち下ろす形の蹴りで地面に叩きつける。叩きつけられた肩口に向かって、踏み潰すような蹴りが入る。さらに、下から蹴りあげたムーンアームを、空中で前方に蹴り飛ばす。ほぼ三十メートルほど先の空中で、敵の身体が四散した。体内のマイクロミサイルがすべて誘爆したのだ。

 こうしてクシナダは、ムーンアームとの戦いに初めての勝利を得ることができた。

 それも、圧倒的と言っていい勝利だった。

 なぜ、今まで負け続けたのか、そのことがわからなくなるくらいの完勝であった。

 初勝利に関しては、楓も一緒だった。ただし、クシナダの勝利とは明らかに温度差があったのだが。

 リアルでの勝利は初めてではある。かと言って、やっていることはゲーセンでやっていることとかわらない。そこが問題で、この勝利はリアルなのだと頭では理解していても、格ゲーの世界では常勝に近い状況にあったためか、いまいち感動のようなものは湧いてこなかった。

 なんにしても、今回の戦闘は終わった。月からやってきた来訪者は、初めて目標を果たすこと無く敗れ去り、クシナダは勝利を得た。

 クシナダの体内では、ナノマシンがプログラムに従い破損箇所の修復にあたっている。戦闘中とは違い、ほとんどすべてのエネルギーを修復に割いている。今回の戦闘におけるダメージはかなり少ないので、完全修復までにそれほど時間は要しないはずだ。ただ、どうしてもその間は、人間並以下にまで運動能力が落ちることになるが、特に問題はないはずだった。だが、いきなり楓が背中を向けて走り去ろうとしているという問題が発生する。

 ここでクシナダは、自分の身体のコントロールを取り戻しることに気づく。もちろん、追いかける。自己修復機能にほぼすべてのエネルギーを回しているので、スラスターを使えない。仮に使えたとしても、無茶な機動をやっているので、メンテナンスが必要だったのだが。結局足を使って追いかけるしかないのだが、身体能力がかなり低下しているために、まるで速度がでなかった。とは言っても、楓は楓で体力をほぼ使い切っている状態なので、歩いているのと大差ない速度しかでていない。そんな状態の楓に、ようやく追いつくことができたのは、廃墟区画を出た後だった。


「おい、勝手に立ち去るんじゃない」


 追いついたクシナダが、楓の肩に手をかけて呼び止めた。


「いや、急用があったんで」


 楓からはいたってテンプレートな言い訳がかえってきた。ただ、今更感はありあまるほどあるにしても。


「ふん。とりあえずそれは後にしてもらおう。それで、貴様は何者だ? 一体、今のは何をした?」


 連続の質問に、楓には回答らしい回答を返すことができなかった。なぜならば、基本的に何もわかっていないからだ。

 それでも、おそらく、こういうことではないなだろうな、と薄っすらとわかっていながらもとりあえず答えておく。


「オレは、第一東高校二年、霧島楓だ。さっきのは、こいつを使った」


 そういって右手に握ったままのコントローラーを見せる。


「そいつとのシステムリンクをやったのは私だ、教えて貰う必要などない。そんなことより、とぼけるな。何を隠している? 素直に話さないと……」


 クシナダがいいかけてやめたのは、楓がクシナダのことを無視して、いきなり走りだし始めたからだ。ほとんど早めに歩いているのと大差ない速度ではあるが。

 それをクシナダが後から追いかけていくと、


「姉ちゃん待たせるとヤベぇんだ。そんで、素直に話さないと、なに?」


 霧島家には、学校以上にはっきりとした家庭内ヒエラルキーが存在した。両親は海外にいて、現在は姉と弟の二人ぐらし。楓はその底辺であり、姉の薫は絶対王者として楓の上に君臨している。もちろん、楓に太刀打ちできるはずなどなかった。ちょっとした気分転換のつもりでゲーセンに行ったはいいが、厄介事に巻き込まれて姉との約束の時間に完璧に遅れてしまっていた。時刻は過ぎているのだから、どうあがいた所で間に合うことはないが、せめて急いだ所を見せる必要があった。アリバイ作りというところである。常識的に考えたら、クシナダの方が圧倒的にヤバイと思うところだが、楓の脳内には赤ちゃんの頃から延々と繰り返され続けてきた様々な出来事のトラウマが、しっかりと刻み込つけられていた。薫は現在大学院に在籍している。何やら楓には理解不可能な小難しい研究をしているようだが、うまくいっていないらしく、ここの所ずっと不機嫌な状況が続いている。

 それで、次の問題はクシナダの方だった。


「話さないと……」


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