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一章 共同|戦闘《さぎょう》- 006

 サイレンが鳴り響いている理由と、ここに誰も立ち入ろうとはせず、廃墟のまま放置されていることが、まったく同じ理由であることは誰もが知っていることだった。いったい、これから何が起こるのか、簡単に予測できることである。何にしても生き延びたければ、今は全力で逃げ出すという以外に選択肢はない。もちろん、死にたがっている人間はその対象外となるわけだが。

 ただ、今の楓はそのどちらにもあてはまらなかった。気分はイケイケのハイテンションのままである。道理だろうが、理屈だろうが、そういった細々(こまごま)としたことは、完全に放置していた。今、楓の行動理由となっているものはただひとつ、ノリだけであった。さらに付け加えるならば、とんでもなく危険な状況に置かれて楓のテンションは、極限まで上がりきっていた。

 必然的に、楓は最高のノリで答える。


「オレに、まかせろ!」


 この時点で、具体的なことは何一つとして理解していなかったが、戦う意欲だけは十分すぎるほどあった。勝てる自信とかそういったものは、みごとなまでに度外視だ。ついでに、戦う方法についても度外視である。

 遅ればせながら、ようやくクシナダもそのことを理解する。なにしろ、この見た目美少女野郎は、空に向かってファイティングポーズを取ったのだ、さすがに理解せざるを得ないだろう。このままでは、二人そろって仲良く破壊されることになる。


「そうではない。貴様が手にしているコントローラーを使え。基本操作とコマンド入力は、ストリートバトラー8と一致させた。ゲームセンターには大抵置いてあるゲームだ、一度くらいプレーしたことがあるだろう」


 もちろん、あるに決まっている。ヲタクであり、格ゲーマニアである楓にとっては、ほとんど息をするような感覚で操作できる。というより、自分の身体を動かすより遥かにうまくやれる。それはそれで、十分に問題であるのだが。


「ふん。しょせん、スバ8はスバ3のお子様向け仕様にすぎん。派手な大技ばかりが中心になって、緻密な駆け引きが何処かに置き忘れられてしまった。そんなスバ8を選ぶようでは、勝負の機微がわかっていないと言わざるをえない。だが、ここで文句をつけるような大人気ないことは言わん。お子様向けのスバ8ではあっても全力をつくすよ」


 なんだか、けっこうな量の文句を垂れ流しながら、楓は両手でコントローラーを持ち直した。

 空を見上げると、サイレンの鳴り響く青い空の彼方、ほぼ天頂付近に幾つかの光点が出現する。正確には、元々一つの光点から途中幾つかに分裂したのだ。


「ミサイルがくるぞ」


 クシナダが警告を発する。しかし、楓は反応しない。


「何をやっている、間に合わなくなるぞ!」


 さらに、クシナダが警告するが、楓は一向に動こうとはしなかった。


「どうせ、此処にくるんだ。待ってりゃいい」


 一体どうしてそういう理屈が成り立つのか、クシナダにはまったく理解することができなかった。時間が経てば経つほど、対応が難困難になり、不利な状況に追い込まれるだけだ。それを、どれほど得体の知れない余裕を醸し出されて、自信たっぷりに言われたところで、納得できるわけがなかった。ましてや、楓には実戦経験というものがまったくない。説得するための根拠というものは皆無である。


「どうして、そうなる。お前はわかっ……」


 クシナダが苦情を交えた説得を試みようとするが、そこで終わった。続けることができなくなったからだ。表現を変えると、その必要が無くなったという言い方もできたが。

 敵が上空から先行させる形で発射したミサイルは、東西の方角に一旦分かれた後、両サイドから挟み込むように落下してきている。相対距離は五百メートルほど。ミサイルの形が肉眼でも確認出来るほどの距離であった。到達時間は、二秒程度。回避するのも困難、と思えるような距離であった。

 ここで、クシナダはいきなり大地を蹴ってジャンプする。同時に、スラスターを全開にした。地表スレスレの高度を保った状態で移動を開始する。クシナダに対してロックオンされていたミサイルは、当然軌道を修正ながら追尾していく。ところが、構造的にミサイルは急旋回できるようには設計されていない。ましてや、ミサイルの推進力に重力がかかっているとなると、旋回能力は格段に低下することになる。さらに着弾間際での急加速をされて、クシナダを追尾したのはいいが、ミサイルの旋回能力では対応できるはずがなかった。地面に接触する。楓の立っている地点から二百メートルほど先の瓦礫の上に二本の火柱が立つ。

 後に残っていた楓はあらかじめ伏せていてたので、まったくの無傷だった。クシナダはそれとは関係なく動き続けている。今のクシナダは、完全に楓のコントロール下にあるのだから余計な判断は一切する必要がない。

 楓は、クシナダを地上に張り付かせるように移動させながら、敵の姿がはっきりと視界内に入ってくるのを待っていた。遠距離兵器はおそらくミサイルだけであろうと直感的に判断している。ただ、スバ8のコマンドと一致させたと言われたところで、クシナダの攻撃方法も特性もまるで知らないので、基本的な近接攻撃を軸に戦いを組み立てつもりだった。

 敵は遠距離での撃ち合いを避けて、間合いを縮めて来ている。おそらく、確実にミサイルを当てられる距離まで近づくつもりなのだろうと楓は判断した。いくらなんでも、無限にミサイルを撃てるわけではないのだから、当然の判断である。もし、ここで遠距離からのミサイル攻撃を繰り返してくれるようなら、楽勝ムードが漂ったところだが、そこまでは敵も甘くないらしい。

 一番やっかいな展開は、近接攻撃とミサイル攻撃をうまく絡めてこられるケースだが、間合いが詰まらないと判断しようがなかった。


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