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一章 共同|戦闘《さぎょう》- 005

 見た目はともかく、明らかにまともな人間ではない相手に果たして道理が通用するのかは、いたって疑問が残るところではあるが、今の楓にそんな道理など通用しなかった。


「私は、HB001、コードネーム・クシナダ、戦術級ハイブリッド・バイオロイドだ。さぁ、質問に答えろ。イザナミを知っているか?」


 戦闘力では圧倒的な差を有しながら、クシナダを名乗る美少女はまったくといっていいほど、緩みを見せずに再度たずねる。まっとうな人間から見れば、なぜここまで必死になっているのかは、理解しがたいところであるだろう。ただそれが、自分の命に係わるような脅威に係るとなれば、それではすまないことも確かである。

 今、目の前で鼻ピー男がどういう運命を辿ったかを考えれば、答えに慎重になるのは当然だろうし、またそうでなければ頭がどうかしているということになるだろう。

 そして、楓は返答する。


「知らん」


 即答だった。まったく考えるとか、悩むとかそういう様子は露ほどもない。

 あまりに短すぎる答えに、モンスター美少女クシナダは、一瞬戸惑っているように見えた。


「……今、なんと言った?」


 聞こえていないはずはなかったが、聞き返すしかなかったらしい。こういう反応は、さすがに想定外だったのだろう。


「知らん。というか、なに言ってるかわからん」


 モンスターであれ美少女から聞き返されて、さすがに少しは反省したらしくほんの心持だけ、言い訳が入った返答になった。とはいっても、内容的には大差ない。


「そんなはずはない、情報を掴んでいる。嘘をつくな」


 クシナダが決めつけるように言い、詰め寄って来て楓の胸ぐらに手をかける。

 楓はもがいた。苦しいのだから当然である。ただ、もがいたからといって、なにひとつとして事態が好転するわけではない。


「く、くそ。やるな……。だが、このくらいのことで、勝ったと思うなよ」


 それどころか、どうも楓は変なスイッチが入ったみたいで、だんだん会話というものが成立しずらくりつつあった。当然ではあるが、事態はより悪化の方向に向けて、それも加速度をつけて進んでいく。


「きさま、ふざけているのか?」


 クシナダの表情が険しくなる。楓はけしてふざけているわけではない。ただ、一人で一方的に戦っているつもりになっているだけだ。正確に表現するなら喧嘩ということになるが、これまでの人生の中で喧嘩というものは一方的にボコられるものだ、という現実が身体に刷り込まれてしまっているので、かえって今のこの状況がどれほどヤバいものであるのかということを認識できなくなっているのだろう。

 ただ、そういったことは本人もよく理解できているとは言えないので、余人が推し量ることは自ずと限界があるということになる。


「まだだ。まだ、これがある。くらえ」


 言いながら、楓は右手を振り回す。ずっとコントローラーを握りしめていた方の手だ。

 すると、たまたまだが、コントローラーの握り手の部分が、小さくコツンと音を立ててクシナダの額に当たった。それと同時に、コントローラーのボタンが一瞬光りを発したのだが、楓はまったく気づいていなかった。というのも、ぎゅっと目を閉じて振り回していたからだ。一方的にボコられるのには慣れていても、他人を殴るとかいうことには少しも慣れていないので、内心ビビっていたからだ。だからといって、そのことを他人に、それも自分の胸ぐらを掴んでいるモンスター美少女に知られたくないという気持ちは随分と強かったので、楓はさらに強気にでる。


「み、みたか。こ、これで分かっただろう。お、オレが本気を出せば、こんなものじゃすまないからな」


 もちろん、いまでずっと本気だった。だから、楓にとってはこれが初めてのハッタリということになる。薄ぼんやりとだが、喧嘩はハッタリだと誰かが言っていたような、なかったような記憶があった。生まれて初めて、それに従ったのだ。

 そんなハッタリが通じた……というわけではなく、明らかにクシナダの様子がおかしくなっている。急に、胸ぐらを掴んでいた手の力が緩み、ついには楓を開放してしまう。


「き、きさま……何をした?」


 明らかにおかしくなったクシナダが、楓に向かって苦しげに尋ねる。


「おおお、お前が仕掛けてき、きたことだからな。て、て、て手加減してやったのだから、だから……」


 必死でハッタリの続きをかまそうとするが、思わぬ事態にすっかりパニック状態に陥っていた楓は、まともな会話を成立させることが困難になっていた。よっぽどコントローラーの当たりどころが悪かったのかも知れないと思い、どうすればいいのか分からなくなって、ほぼ思考は停止している状態なのだ。


「そんなことはどうでも良い……。今すぐ、コントロールを私に戻せ! さもなければ……」


 すべて言い終える前に、事態はまた新たな変化を迎えた。サイレンが鳴り渡る。都市全てに響き渡る警報だ。空を見上げれば、何に対しての警報なのか、すぐに理解することができたであろう。

 ただ、わざわざそれを確認するために、建物の外に出て見学する人間はいなかったが。


「くっ、余計な時間を食い過ぎた。しかたない、人間、貴様がやれ。私を操り、敵を倒せ」


 もしここで、まともな人間であったら、そんなことを言われたところで、何を言われたのか理解することはできなかったであろう。まんがいち理解できたとしても、次の行動は逃げ出すことであったろう。このままこの場に留まれば、命を落とすことになるかも知れないからだ。


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