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一章 共同|戦闘《さぎょう》- 002

 今度はいきなり必殺技をぶつけてみるが、きっちりガードされた。それだけでなく、大技後にできるわずかな隙をカバーしようとガードした所を掴まれてしまう。そのまま、パイルドライバーを決められて、体力を大きく削られる。そのかわり、立ち位置が左右逆になり、間合いを広く取れるようになった。

 一回離れるとすぐさま攻撃に転じる。リンカは女の子キャラだが、典型的な攻撃専用キャラである。守勢に回ったら絶対に勝てない。まずは立て続けに下段への連続弱攻撃、そのあとすぐに中段必殺をキャンセルしての下段必殺技に繋げる。ところがそれを読まれていた。すべてガードされた上に、必殺技を出し終えた後のにくる、わずかばかりの硬直時間を狙われて、敵の必殺技を喰らってしまった。

 体力ゲージが半分近くにまで減少する。正直、ここからの逆転はかなり厳しいと言わざるをえない。だが、楓はゾクゾクとした喜びを感じていた。やはり、この対戦相手は強い、それもかなり。

 ここで、楓は攻め手を一変させる。必殺キャンセルを使わず、通常攻撃によるコンボを繋いで、わずかな隙をついて必殺技を撃ち込む。確実に撃ち込める時だけ必殺技を使うことで相手の必殺技は確実にガードすることができるようになった。技の読み合いでは明らかに相手が一枚上手であった。だから技の読み合いを避けて、単純な殴り合いに変えたのだ。このやりかただと消耗戦になるので、すでに体力ゲージの半分以上を失っている楓は圧倒的に不利になる。相手もそのことがわかっているので、必殺技中心に攻めてきた。

 必殺技を出された場合、ガードできたとしても、体力ゲージは減らされる。これを続けるだけで自動的に勝てるのだ。攻め方としたら間違ってはいない。

 対戦相手が楓でなかったら。

 楓のコンボを出し切るタイミングを読み、相手が必殺技をぶつけてくる。それは当然で、そのタイミング以外だと技を出せない。それを楓も分かっているから、きちんとガードする。この時、楓のキャラは体力ゲージを削られることになるのだ。この時、ガードをしたキャラにも、大技を出し終えたキャラにもミリセコンド単位で硬直時間ができる。だが、その硬直から開放されるのが、ホンの一瞬だけガードしたキャラの方が早い。そこを狙い、楓は必殺技をぶつける。普通ならば、まず大技は決まらない。せいぜい、出るのが早い小キックか小パンチくらいだろう。時間内に一定数のコマンドを入力できなければ、必殺技は発動しないからだ。それに、キャラと技によっては絶対に間に合わない場合もある。だが、楓にはそれができる。まずミスはしない。一発目は相手はまぐれだと思ったようだ。二発目もけっこうすんなりと必殺技を入れることができた。ところが、三発目になるとかなり用心してきていた。必殺技を一度キャンセルした後、小キックにつなぎ、その次に必殺技を重ねてくるというフェイントを使ってきた。しかし、楓はそれを待っていたのだ。ついに大技を打ち込むことに成功する。敵のキャラが派手にうめきながら後ろに吹き飛び、勝利のVサインが楓の使っている筐体を示す画面左側に一つ点灯する。

 まだこれで一勝だった、対戦相手から勝利を得るためにはもう一勝する必要があった。

 ところがこのタイミングで、洒落にならないハプニングが起こる。

 いきなり右の肩を掴まれて、声をかけられたのだ。


「ねぇねぇ、こんなつまんないことしてないで、俺らと遊ばない?」


 おもいっきり何かを激しく勘違いしている、あるいはホモの二十歳くらいの男だ。

 楓は無視することに決めて、無理やりプレーを続行した。結局、微妙な所で集中できなくなってしまい、立て直すことが出来ずに二連敗を喫して負けてしまった。


「終わったな、彼女。俺らとさ、今から遊びにいかない?」


 見たくなかったが、振り返ると鼻ピアスをして、腕と首に銀のチェーンをジャラジャラと巻きつけた、いかにも頭悪そうな男が立っていた。その後ろには、今はいつですか?と突っ込みたくなるような流行遅れのB系ボーイと、どこかの世紀末漫画から抜けだしてきたかのような革ジャンを着た大男がいる。一体どういう関連性があるのか、頭を抱えたくなるようなサイケデリックな三人組だった。


「あんたら、見て分かるでしょ? オレ男だよ? ちなみに、今ゲームで使ったのが全財産だから、カツアゲしようとしたって無駄だからな」


 悪者に絡まれるというのは楓の人生の中において、生まれた当初から組み込まれている必然的な要素らしいので、それなりに経験は積んでいる。

 どうやったって慣れることはないにしても、傾向と対策くらいはあった。


「ざけんなよ、てめぇみてぇなヤロウが何処にいるってんだ? 中卒だからって、馬鹿にしてんじゃねぇぞこらぁ!」


 聞かれてもいないことを勝手にまくしたてて、自分が言った言葉に切れるタイプらしい。からまれると非常にやっかいなタイプだった。理論的な話は一切通じないから、説得しようとしたところで無駄なことだし、逆効果になるケースも多い。そのぶん、自分の欲望には忠実だから、弱い相手だとみなすと容赦というものがない。

 さらにオプションとしてこいつらの場合、明らかに脳みそが足りていなかった。

 ここからどうやって逃げ出そうかと思案していると、B系の男が突っかかってきた。


「可愛いからって、気取ってんじゃねぇよぞ。あんま、チョーシこいてっと、ヤッちゃうよ?」 


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