ナンセンス小説 泥ママ
近所に泥ママと呼ばれる人がいる。
「これ、デザインが最高に気に入ったから」
なんていって、服やアクセサリーをどうしても貸してほしい頼んでくる。
最初はみんな快く貸していたが、いっこうに返ってくる気配がない。
返却を求めても、もう少しだけお願い、と調子のいい言葉を並べてごまかすばかり。
家に遊びに来させると、現金や金目のもの、化粧品に美容家電、果てはネットで高く転売できると言われる子供のプラモデルまで無くなると聞いた。
言うまでもなく、盗んでいるのだ。
貸したものや無くなった品にそっくりなものが、少し離れた中古販売店や、フリマアプリで売られているのを見た。
それについて問いただしても、のらりくらりと言い逃れ、知らぬ存ぜぬとしらばっくれるばかり。
業を煮やした私は友達に話をしてみた。
「そんなやつ、容赦することないよ。バケツで水ぶっかけて怒鳴りつけてやりなって」
揉めたら嫌だなと思う半面、やってやったらどれだけスカッとするだろう。
友達と会った数日後、性懲りもなく、また泥ママがうちにきた。
親しげな作り笑顔を貼り付け、換金できそうなものを漁りに来た、いかにも物欲しそうな雰囲気。
玄関でそれを見た私は頭に血がのぼり、まさかのためにと用意していたバケツを持ち出すと、
バシャッ
思いっきり、顔面に水をかけてやった。
「ちょっ、な、なにするのぉ!?」
「はっ! あんたとの付き合いはこれっきりよ!」
「私、だめなの、水は、水はぁ」
泥ママは両手で顔を押さえた。
メイクでも気になるのかと思いきや、
「え、なに、泥?」
指の間から粘り気のある茶色の液体が漏れだした。
「だから、水はだめなのよぉ」
濃い土色になった彼女の顔からは一滴の血も流れていないが、目鼻の形が分からなくなるほどドロドロと崩れて溶けていく。
その溶解は首、胴体、そして足元にまでおよんだ。
2分とかからず、泥ママは人の輪郭を失い、ちょうど人間1人分ほどの土くれとなった。
泥ママの正体は泥人形だったのだ。
作ったのは彼女の夫、あるいは子供か。
亡くなったか別れたか、さだかではない。
けど、その女性の代用品として作られたものなのかもしれない。
そう思うと少し心が痛んだ⋯⋯。
いや、ぜーんぜん痛まないな。
だってクズな泥ママだし。
あの盗癖や最悪な性格は失敗作の証だ。
また作るなら、労力をかけてまともな人格を持った成功品を作ってもらいたいものだ。
泥人形の破壊は何の罪にも問われない。
私は今まで迷惑をかけられたご近所の人たちに相談し、数十キロの土を分けて袋詰めした。
そして、それぞれで離れた土地に捨ててきた。
これでもう泥ママに悩まされることはないだろう。
睡眠薬のんで、頭がぼんやりしているときに思いついたものを即興で書いてみた。
何の説明もないままいきなり泥人形が出てくる不条理系。不法投棄される元泥ママ。




