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ワン・ライフ  作者: 戸川涼一朗


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6/6

光がそっと降りる場所で

季節は巡り、風の匂いも景色も少しずつ変わっていきます。

私たちはその中で、たくさんの別れと出会いを繰り返して生きています。


けれど、離れていても消えないものがある。

触れられなくても、確かにそこに残り続けるものがある。


この章では、ハルとミナが過ごす“静かな時間”を描きます。

それは、寂しさではなく

やさしさの形をした “つながり” の物語です。


どうか、心をゆっくりと落ち着けて読んでください。

そっと寄り添ってくれる光が、あなたの中にもありますように。

冬の朝は、息が白くなるほど冷たい。

それでも家の中には、変わらないぬくもりがあった。

ストーブの前で、ハルはゆっくり毛を広げるように横になり、

その横にミナがそっと腰を下ろす。


「寒くなってきたね、ハル」


ミナは両手をあわせて息をふきかけ、

あたたかくした手でハルの背中を撫でた。


ハルの毛は、少しずつ白い色が増えていた。

走り回っていたあの頃にはなかった、

静かな時間の重なりがそこにあった。


ミナは笑いながら、昔の話をする。


「覚えてる? 小学校の運動会の時さ。

私、転んで泣いたんだよね。

そしたらハルが柵の下くぐって走ってきてくれたんだよ」


ハルはしっぽをゆっくり揺らした。

まるで「覚えているよ」と言うみたいに。


あの日の土の匂い。

涙の味。

ミナの小さな手。

風に混ざった、家族の声。

ハルの記憶の中には、全部残っていた。


「私、本当にね、あの時ハルが来てくれただけで、また立てたんだよ」


ミナはそう言って、目を細めた。

その笑顔は、子どもの頃と同じ形をしていた。


時間だけが大人にしていく。

でも、心は一緒に育っていくものなんだと、

ハルは知っていた。



夕暮れ時、父と母も帰ってきた。

台所から、食材の音が聞こえる。

包丁がまな板に当たる軽い音、

鍋の中でお湯が踊る音。


ハルにとって、それは “家族の音” だった。


「今日はハルの好きなスープにしよっか」

母が優しく言う。


「お前も相変わらず甘えん坊だな」

父はそう言いながらハルの頭を撫でるが、

指先は少し震えている。

その震えは、言葉よりも正直だった。


誰も言わない。

でも、みんな知っていた。


季節はもう、そういう季節だということ。



夜、ミナはハルのそばで毛布をかけた。

自分の部屋から、昔使っていた小さなクマのぬいぐるみを持ってきて、

ハルの前に置いた。


「これ、あげる。

 ずっと一緒だったから、ハルとも一緒にいて。」


ハルはそのぬいぐるみの匂いを確かめ、

鼻先をそっと押しつけた。


そこには、ミナの幼かった頃の時間が詰まっていた。



窓の外には星が静かに並んでいる。

風の音はやさしい。


ミナは、ハルの背に手を置いたまま、目を閉じた。


「ねぇ、ハル。

 “永遠”ってさ、何だと思う?」


答えは言葉じゃない。


ハルはそっと、ミナの手に自分の体重を預けた。

その温もりは、言葉より深かった。


ミナは息を震わせて、でも泣かなかった。

涙よりも、大切なことがそこにはあった。


永遠は、生き続けることじゃない。

想いが、ちゃんと残ること。


ハルの体は少し細くなったけれど、

その愛は、どこにも消えていなかった。


時間は流れ、命はすこしずつ形を変えていきます。

けれど、愛の記憶は決して消えません。

姿や距離が変わっても、心で感じ続けることができるからです。


ハルが見つけた“永遠”とは、

生き続けることではなく、

想い続けられること でした。


そしてその想いは、次へ、誰かへ、そっと受け渡されていきます。


次章では、ハルが旅立ちの先に見つけた“光”と、

ミナがその光をどう受け取るのかを描きます。


涙ではなく、

ありがとうで終わる物語に。


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