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第3章 小さな共通点

ポケモンのパチモンが出ていますが、、許してください、、なんでもしますから、、

 翌週の金曜日、会社の空気はどこか緩んでいた。

 案件の締切を終えたせいか、チーム全体にほっとした空気が流れている。

 僕も例外ではなく、久しぶりに心の底からコーヒーの味を感じられた。


 午後の作業中、隣の席の川瀬がふと画面から顔を上げた。


「高瀬さんって、ゲームとかするんですか?」


 不意を突かれて、マウスを握る手が止まった。

 どうしてそんな話題が出てきたのか、一瞬わからなかった。

「まあ……たまに。暇つぶし程度にね」

「へぇ。どんなのを?」

「……昔から“パキットモンスター”っていうやつを。最近また少しだけ」


 言った瞬間、彼女の目がぱっと輝いた。

「えっ、パキモンやってるんですか!?」

 思わず苦笑が漏れた。

 まるで子どものような反応だったからだ。

「そんなに珍しいかな。人気あるでしょ」

「いや、まさか高瀬さんがやってるとは思わなくて……!」


 彼女は胸元からスマートフォンを取り出し、画面を見せてきた。

 そこには僕もよく知る、あの丸っこいモンスターたちが並んでいた。

「これ、私のチームなんです。最近、イベント用に育ててて」

「へぇ……強そうだな。リーフェア、レベル99?」

「そうです! 最初に捕まえた子で、ずっと使ってるんです」


 “子”と呼ぶその口調に、少し笑ってしまった。

 けれど、不思議とその笑みは自然にこぼれた。

 会社に入って以来、こんなふうに誰かと笑ったのは初めてだった気がする。


「じゃあ今度、一緒に協力バトルしませんか?」

「協力?」

「最近のアップデートで追加されたんですよ。ペアで挑むボス戦。

 一人だと結構きつくて……もしよかったら」


 少し迷ったが、結局うなずいた。

 断る理由が思いつかなかった。

 むしろ、少しだけ心が軽くなるのを感じていた。

「いいですよ。あまり上手くはないけど」

「じゃあ週末、ログイン時間合わせましょう。夜の八時くらいで」

「了解」


 彼女が笑った。

 その笑みは、これまでの社交的な笑顔とは違って、

 どこか安心したような柔らかさがあった。


 夜、自宅のソファに腰を下ろし、スマホを手に取る。

 画面の中では、パキットモンスターの世界が広がっていた。

 霧のかかった草原、淡い光を放つ湖。

 ……その湖が、ほんの少し、あの夢の光景に似ているような気がした。


「気のせいだろ」


 そう呟きながら、ログイン通知を見る。

 ——『川瀬美咲がオンラインになりました』


 どこか、胸の奥が温かくなる。

 その感情をどう言えばいいのか分からない。

 恋、ではない。

 けれど、長い間、曇り空の下にいた心が

 ようやく光の射す方向を見つけたような気がした。


 バトルが始まる。

 画面の中の彼女のキャラクターが、小さなモンスターと並んで戦っている。

 彼女のプレイスタイルは丁寧で、焦らず、確実に。

 まるで仕事の時と同じだ。

 それを見ているうちに、妙な安心感が胸に広がっていった。


「ナイスです!」

 チャット欄にそう送ると、すぐに返事が返ってきた。

 ——『ありがとう! 高瀬さん、意外と強いですね!』


 そのメッセージを見て、知らず知らず笑っていた。


 バトルが終わると、画面には二人のキャラクターが並んで立っていた。

 背景には霧がかかり、湖が静かに波打っている。

 まるで、夢の中の景色がそのまま再現されたかのように。

 だが今回は、怖さはなかった。

 むしろ、少しだけ心地よかった。


 その夜、眠りにつく直前、スマートフォンの通知がまた光った。

 ——『あなたの夢の中に現れた“霧”は、心が晴れ始めた証拠です』


「……都合のいいこと言うな」


 苦笑しながら通知を消す。

 けれど、ほんの少しだけ、

 その言葉を信じてみるのも悪くないと思った。

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