表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第8話 予想外のカード、勇者爆誕!?

 ──朝、ヒルダばあちゃんの家。

 ヒナタが作った朝食を囲み、ネリオと俺はテーブルを挟んで座っていた。


 テーブルの上には見た目は美味しそうだが、カチカチに焼かれたベーコンが乗っている。


「……硬いな。これ、鍛冶場で使えるんじゃないか?」


 俺はベーコンにフォークを突き刺そうとするが、弾かれて跳ね返る。


「焼きすぎたのかな……」


 ヒナタは頬を赤らめて、視線を落とした。


「いえいえ、これはこれで。歯応えのあるものは、味わいが長く続きますから」


 ネリオがやんわりと微笑みながら、ナイフでベーコンを試し切りするも、やはり硬い。


「……で、アンタ。なんでこの村に来たんだ?」


 俺は視線を上げて尋ねる。

 ネリオは軽く目を伏せ、少しだけ微笑んだ。


「噂を聞きましてね。パンケーキを『武器』にしている村があると。これは一目、拝見しなければと思いまして」


 ヒルダばあちゃんが、そう言ったネリオの顔をじっと見つめる。

 そのまま無言で、コト、と手元の茶碗を置いた。


「──アンタ、私と会ったことがあるかい?」


 ネリオは動じることなく微笑んだまま、カップに口をつける。


「いいえ。お目にかかるのは初めてですよ? それに私は、ただの旅の観察者ですから」


 朝の光が差し込む部屋の中、笑顔の下に潜む何かが、確かに息を潜めていた。


 ──そして、食後。


「……このベーコン、捨ててしまうのはもったいないですねぇ」


 ネリオが皿の上のベーコンを手に取り、興味深げに眺める。


「見た目はともかくこれほどの硬度があれば、工夫次第では『兵器』になりますよ?」

「はあ? ベーコンが武器になるわけ──」


「なりますとも」


 ネリオは微笑んだまま、手の中にそっと魔力を込める。

 すると、ベーコンの表面がわずかに赤く脈打ち、微細な魔素の粒が浮かび上がった。


「こうして魔力を封入しておけば、衝撃と同時に炸裂します。煙幕や爆音の榴弾型……名付けて『爆裂ベーコン』」


 ヒルダばあちゃんが思わず眉をひそめる。


「……アンタ。それ、ほんとに朝ごはんだったのかい?」

「もとはそうですが。私はね、素材に敬意を払う主義なんです」


 そしてネリオは更に続けた。


「たとえばこの『爆裂ベーコン』をパンケーキの中に仕込んでみましょう。

焼成と圧縮加工で形を整えれば……面白いものができますよ?」


「試してみる価値はあるかもな……」


 俺は苦笑しながら、皿を片付け始める。


「では、後ほどお見せしましょうか。私の試作品とやらを」


 ──その日の夜、村の空き地に俺達は集められた。


 ネリオは特製の『爆裂ベーコン入りパンケーキ弾』をいくつか並べて立ち上がる。


「皆さん、準備はよろしいですか? 本日は特製パンケーキ弾による、実演訓練をお見せしましょう。

……それでは、距離を取って見守っていてください」


「ウォォ……(ゴロゴロ)」

「なんで魔獣が素直に並んでるんだよ!!」


「では、第一投──《パティシエ式重加速魔法・三倍焼成》」


 ヒュンッ!!


 村人が見守る中ネリオは構えを取り、軽やかにボール状のパンケーキを転がす。

 それは、狙い澄ましたように魔獣の足元へと到達し──。


 ドゴオオォォン!!


 轟音とともに煙が立ち上がる。


「ぎゃおおおお!!(命中です)」

「……ふふ、なかなかの焼き加減ですね?」


「やったぁ! 今日のは特にカチカチに焼けてたの!」

「……焼き加減で魔獣倒せるのおかしいだろ。ネリオって、やっぱり常識の敵だよな……」


 俺は呆れたように呟いた。


 ──そして翌朝。


「魔王が復活したみたい。王都が勇者候補を募集してるって。報酬は金貨1000枚だそうよ」


 ヒナタが神妙な顔でチラシを差し出す。

 焦げたベーコンと格闘していた俺は、眉をひそめてそちらを見ると、ぽつりと呟いた。


「……魔王とベーコン、どっちが手強いんだよ? ……俺、行ってみようかな」


 その瞬間ヒナタ達の家にチラシを持ってきた村人が、ピクッと反応した。


「えっ、今『行く』って言いました!? 勇者として!?」

「いや、別に『行く』とは──」


「ユウマが勇者になるって!!!」


 村人はそのまま転げるように外へ駆け出していく。


「ちょっ…、待て。話はまだ──」


 だがすでに手遅れだった。数分も経たぬうちに、家の外が妙に騒がしい。


「おお! ついにこの村から勇者が!」

「ユウマ、がんばれー!」

「お前に務まるとは思えんがな!(by カイル)」


「カイル! お前なんでまた、ここにいるんだよ! はぁ……。なんでこうなるんだ」


 俺はため息をついて、チラシをじっと見つめる。

 ネリオは少し離れたところからその様子を見て、ぽつりと呟いた。


「……あの方も頭を抱えるでしょうねぇ。予想外すぎるカードが、盤面に現れたんですから」

「ん? 何か言ったか?」


「いいえ、独り言ですよ」


 誰も気づかなかったが、その目はわずかに笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ