第5話 防衛隊長ユウマ、誕生!?
俺は村の日課、つまり「めんどくさい村人対応」へと向かう。
村人A「あの畑にイノシシが出ましてな?」
ユウマ「……じゃあイノシシ退治すればいいじゃん」
村人A「そのイノシシ、喋るんですわ。あと料理もできる」
ユウマ「なんか色々おかしいだろ、それぇぇぇ!」
村人B「井戸に落ちた村長を助けてください」
ユウマ「なんで井戸に落ちたんだよ……」
村人B「井戸の精霊にプロポーズしたら、フラれて自暴自棄に……」
ユウマ「もう村長に誰か恋愛禁止令出して!」
そんなこんなで、今日も平和(?)な日々を過ごしていた──はずだった。
「うわああああああああっ!!」
村の中央広場で悲鳴が響いた。
そこには、村人全員が石像にされるという前代未聞の事件が発生していた。
「ちょっと待て、俺が寝てる間に何が起きた!?」
ヒナタが泣きながら駆け寄ってくる。
「ユ、ユウマ!
昨夜、謎の魔導士が村に現れて、『愚かなる者どもよ、我が力の礎となれ!』って言いながら、変な呪文を唱えて……」
「それ完全に悪役ムーブじゃねえか!! 何で誰も止めなかったんだよ!?」
「ユウマが熟睡してたから……」
「俺ぇぇぇぇ!!?」
完全に油断していた自分を殴りたい。
だが俺はすぐに気を取り直した。
「よし! ここは男らしく、いっちょ派手にケリつけてやるか!」
魔導士の名は「グレゴール・マリモンド・デ・ヴァイン」。
名乗り方からして怪しい。
肩には巨大なフリル、背中には謎の羽、足元にはローラースケート。
あきらかにファッションセンスが呪い寄りだ。
「貴様がこの村の英雄か? 名乗れぃ、醜き人間よ!」
「俺はユウマ。元・クズ。今、ちょっとだけマシになったがな!」
「くだらん称号だな。貴様のような愚者は、このグレゴール様が——」
「うっさい! 村人元に戻せぇぇぇ!!」
俺、開幕からフルスロットル。
剣が空を裂き、火花を散らす戦いが始まった。
「おいおい、その剣! 紙みたいにペラッペラではないか!?」
「いやいやいや、効いてるだろ!? 衣装のフリル半分ちぎれてるぞ!」
「ぬあああ! このフリルは祖母の形見だったのにぃぃぃ!!」
まさかの感情的逆襲を受け、奴は明らかに狼狽えていた!
そのとき、ヒナタが魔導士の後ろからサプライズタックル!
「ヒナタ! ナイスタッッコゥ!」
「ユウマ、早く! この魔導士の杖を壊せば呪いが解けるって本に書いてあったの!」
「本て何!? 魔導士の取り扱い説明書かよ!!」
叫びながらも渾身の一撃で杖を破壊!
爆音とともに、村人たちの石化が解けた。
「お、おれの、フリルが……!」
魔導士は地面に倒れ、少女漫画の悪役みたいに「許さない……次こそは……」と言いながら爆発(演出)して消えた。
事件解決後、村人たちは俺とヒナタに大感謝。
彼女は「あなたがいてくれてよかった」と微笑み、夜には久々の祝賀会が開かれた。
◆
翌朝、ギルドに呼び出された俺。
ばあちゃんが真顔で言った。
「ユウマ。正式に『防衛隊長』を頼みたい。昨日の働き、みんなが見てたよ」
「え……? 俺が?」
「もう、『クズ』なんて呼ばせないさね。アンタは、立派な『村の盾』だよ」
周囲の村人たちも、口々に賛同する。
「ユウマさんなら、安心だ!」
「命、助けてもらったもんな!」
ちょっと照れくさかったが、俺は……。
「じゃあ、試しにやってみるか」
そう答えた。
こうして俺は、最果ての村の『防衛隊長』になったのだった。
◆
「俺が本気で反省する日が来るなんてな……」
夜の村の見張り台で、俺は星空を見上げながら呟いた。
肩にはヒナタが手縫いしてくれた防衛隊の隊長マント。
そして、胸元には小さな銀のペンダントが揺れている。
「これ、似合うと思って……」
少し照れながら渡してくれた日のことを、ふと思い出す。
あのときのヒナタの笑顔。——俺は、あの笑顔を守りたいんだ。
酒場で酔っ払った村人たちからは『クズ隊長』と愛を込めて呼ばれている。
それでも、かつての『ほんまもんのクズ』だった頃を思えば、今の自分はかなりマシになったと思う。
「今日もお疲れさま、ユウマ」
「お、おぉ……。今日のおかず、……ヒナタの手作りか」
「ふふ、ユウマが好きって言ってた煮込みハンバーグだよ? 頑張って作ってみたの」
「固ってぇぇぇ!」
このなんとも言えないやり取りも、もう日課。地味に嬉しい。
しかし翌朝。悲劇が起こってしまった。
酒に酔った俺はソファで寝落ち。
目を覚ますとパンツ一丁、しかも不自然にずり下がっていた。
「お、おかしい……。何もしてないのに……俺のパンツがやけに自由……」
そんなとき、ヒナタが部屋に入ってくる。
「ユウマ、おはよ——。きゃああああああああ!!!」
「ちょ、待て! 違うんだ! これは何かの罠だ! パンツの陰謀だ!」
だが、ヒナタの表情は凍っていた。目には涙、唇は震え、困惑と動揺が浮かんでいた。
「……なに、それ……。どうして、そんなことに……?」
彼女はそのまま部屋を飛び出していった。
ヒナタは村から姿を消した。手紙1つ残さず、まるで初めから存在しなかったかのように。
俺は必死で探した。あらゆる都市を巡り、王都にも足を運んだ。
そして、ついに見つけた。
王都の高級レストラン。
そこにいたのは、煌びやかなドレスを身にまとったヒナタだった――。