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第16話 失格!? 飼い主としての心構え

 俺は深く息を吸い込んで、魔王の前に向き直った。


「なぁ、まずは――話をしようぜ」


 魔王は、眉をわずかにひそめた。

 戸惑い、というよりも「予想外だ」という顔をする。


「話……? 貴様、今さら何を言っている。戦いとは、互いの意思表示のはずだろう?」

「俺は戦うために来たんじゃねぇ。……いや、来たんだけど。そうじゃなくてさ」


 俺は言葉を探しながら、1歩前へ出る。

 

 バルドの温もりがまだ背中に残っていた。

 あいつが命を懸けて守ってくれた時間――それを、無駄にするわけにはいかない。


「お前、本当にこの戦いがしたいのか?」


 問いかけた俺に、魔王は静かに視線を落とす。

 その目は、何かを――迷いを、確かめるように揺れていた。


「お前……さっき復活はしていないって言ってたよな?」

「あ、ああ……。確かにそうは言ったな」


 俺の社畜スキルがほんのわずかな引っかかりを感じたが、ヤツとの会話を続ける。

 ほんのわずかに視線を外した、その目線の揺れを俺は見逃さなかった。


「やっぱりお前……本気で戦いたいんじゃないんだろ?」


 魔王の肩が、わずかに揺れる。


「誰かに言われたからか? 使命だから? それとも……」


 俺は1歩、魔王に近づく。


「――本当はこんな戦い、したくなかったんじゃないのか?」


 魔王はハッと顔を上げた。


「わ、我は戦いなど望んではいない。しかし、人間の王が次々と兵を送ってくるのだ――!」

「……やっぱりそうか。でもちょっと待て……。 魔獣を仕掛けてくるのは何でなんだよ? おかしいだろ」


 魔王の顔が一気に耳まで赤くなる。


「あ、あれは遊んで欲しいだけなのだ! 我だけでは、全ての魔獣の相手はできぬ。人間に構って欲しいだけだ! ……と思う」


「なんで最後、ちょっと自信がねぇんだよ! 飼い主だろうがよ!」


 隣にいるバルドが頭を俺の足にすり寄せる。

 口から炎が少しだけ出てて、地味に熱い。


「ほ、ほら見ろ。バ、バルド? 此奴(こやつ)もそう言っておる」


 バルドは寝転がって腹を見せている。


「お前ら表現が激しすぎるんだよ! それに……何でお前顔を赤くしてんだ?」

「そ、それは……。我が飼い主としての責任を全うしていないという事実が、こう……少し恥ずかしくてだな」


 ボソボソと尻すぼみになる魔王の言葉がよく聞き取れない。


「は? 何て言ったんだ? ハッキリ言えよ」

「わ、我が責任を放棄していたという事実が、恥ずかしかったのだ」


 ヤケクソ気味に言葉を発する俺の目の前の男は、さらに顔を赤くする。

 その純真さに、俺は呆気にとられた。


「……お前、案外いい奴なんだな」

「い、いい奴などと……我は魔王だぞ?」


 魔王はムキになりつつも、ちょっと嬉しそうにはにかんだ。


「そうか……大体の事情は理解した。ま、いつまでも昔のことウジウジしててもしゃーねぇだろ。

未来見てこうぜ?」


「み、未来――」


 親指でグッと合図を送ると、口を半開きにした魔王は頷く。

 

 俺達ふたりは横たわるバルドに背を預け、語り合う。

 これからのこと、飼い主としての心構えを――。


 気がつけば、バルドが寝息を立てていた。


「じゃあ、俺帰るわ。心配すんな、国王達には俺から上手く伝えとくから」

「そうか? 手間を取らせて悪いな」


 気にするなと言いながら服に付いたバルドの毛を払うが、すでに焦げていた。

 さすが火属性。

 

 やがて魔王も立ち上がり、少しだけためらったような声を出す。


「……握手というやつをしてみたいのだが」


 そう呟いて、手を差し出してきた。


「お前ももう少し魔獣を制御しろよ? 随分誤解さ――」


 その時黄色の物体が、別れの言葉を言いかけた俺の頬を掠めた。

 魔王は難なくそれを素手で止める。


「あー惜しい。もうちょっとだったのに! ユウマ、ソイツから離れて!」


 聞き覚えのある懐かしい声が響く。

 短い詠唱が聞こえると、その直後俺の背中に冷気が忍び寄る。


「メイ、お前に合わせる! いくぞ、おらあぁぁぁ!」


 振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、拳で岩を砕きつつ詠唱するエイドの姿だった。


「補助魔法(物理)、拳の誓いぃぃ!」

「エ、エイド! メイ! お前らなんでここに!? しかもその氷の塊、家一軒分ぐらいあるぞ!?」

 

 メイはバラバラに砕け散った岩の欠片を、巨大な氷にまとわせる。

 ここから離れなければ、俺まで巻き添えを食ってしまう大きさだった。


「お、おい! 待てって!」


 俺の叫びはあいつらには届かなかった。

 メイから放たれた攻撃は、魔王に真っ直ぐに向かう。


バキィィィン――。


 砕け散る氷の欠片と共に現れたのは、ネリオだった。


「これはこれは。なかなかの威力ですねぇ。詠唱も短かったですし、あれからかなり修行されたのですね?」

「ネリオ、お前相変わらず冷静すぎんだろ!」


 フフフと微笑みながら、ヤツは俺と魔王に近づいてくる。


「このぐらいはしておかないと、私も裏切り者だと思われたくないですから。

それに……この香り、まさか彼女たちまでいらっしゃるとは。やっぱりパンケーキなんですねぇ」


「ネル……。やはり貴様だったか。妙な匂いをさせおって」


 ネリオが「申し訳ありません」といつもの調子で頭を下げる。

 俺は――やっぱりな、と心の中でひっそりとガッツポーズを決めていた。

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