第1話 俺、転生してクズ男になりました☆
目が覚めたら、そこは見知らぬ草原だった。
晴れ渡る空。小鳥のさえずり。ほのかに漂う花の香り。
「え? なにこれ……天国?」
一瞬、本当に夢でも見てるのかと思った。
だが数秒後、俺はすぐに気づく。
「異世界かよ!!」
そう、俺は気づけば異世界に転生していた。
トラックに轢かれたわけでも、風呂で滑ったわけでもない。
ただ、朝起きたら異世界だった。
「なんという雑な転生ッ……!」
そんな俺の前に、いかにも“神様です”って雰囲気のローブ姿の男が現れた。
「ようこそ異世界へ。選ばれし者よ」
「いやいや、選ばれてる感ゼロだし! 選考基準どこ行った!?」
神様(ローブがダサい。赤と金のラインが妙に主張してて、どこかの戦隊ヒーローみたいだった)曰く、俺には特別な才能があるらしい。
「お前の魂には、圧倒的な自己中心性と、ギリギリの良心がある」
「何その矛盾したスペック!? ていうか褒めてないよな!?」
どうやら俺はこの世界にとって非常に珍しい『クズ系』の資質を持つ転生者らしい。
「ゆえに、『クズシステム』を授けよう」
「いや、どんなシステムだよ!」
説明によれば、俺がクズい行為をすればするほどスキルが成長するという。
【初期スキル】
・クズ魂……嘘が通りやすくなる
・無駄口の極意……どんな状況でも言い訳がひらめく
・ラッキースケベ率上昇……ときどき物理的な偶然が発生する(例:転んだ先に誰かがいる等)
「いや、最後のやつ明らかにギャルゲー寄りだろ!」
そんなこんなで俺――佐藤悠真、元社畜、現・異世界転生者――は、異世界で新たなクズ勇者としての人生を歩むことになった。
◆
まず最初に向かったのは、冒険者ギルドだった。
「こういうのって、最初に行く場所って相場が決まってるんだよな!」
中に入ると、いかにもヒロイン顔の受付嬢がいた。
「うわ、受付嬢が美少女! テンプレ来たー!」
「……いらっしゃいませ。冒険者登録でしょうか?」
「できればデート登録もお願いしたい!」
「は?」
開始5秒で怒られた。
それでもめげずに冒険者登録を進める。
顔写真付きギルドカードのため、10枚も撮り直しをお願いしたら「やっぱりクズですね」と断言された。泣きたい。
とはいえ、ステータス登録は無事完了。
【ステータス】
名前:ユウマ
職業:クズ勇者(仮)
レベル:1
称号:異世界のクズ/神の失敗作
「うん、なにこの称号のひどさ……」
しかし俺はポジティブだ。異世界でも前向きにクズを貫く所存である!
◆
その後、ギルドで知り合った筋肉戦士エイドと、回復魔法使いの美少女メイと即席パーティーを組むことになった。
「お、これはヒロイン候補か!? よっしゃ!」
調子に乗った俺はさっそくやらかす。
──その1:
「この宝箱、俺が開けるぜ!」
→ 中身を勝手にポケットに突っ込む
──その2:
「メイちゃん、君の癒し魔法で癒されたいな(物理的に)」
→ 即ビンタ
──その3:
「報酬? あ、俺が交渉してくるよ」
→ 全額ピンハネ。報酬をまとめて受け取り、領収書をちぎって「手数料引かれてた」と嘘をついた。
だが、その領収書の破片がギルドのゴミ箱から見つかり、金額がバレて即座に嘘が発覚。
結果──。
「ユウマ、てめぇ最低だな!」
「ごめんってば! 冗談だって! ちょ、その拳はやめて!? 拳は!!」
夜、宿屋の屋根裏でひとり星を見ながらつぶやく。
「……まあ、次からはバレないように気をつけよう」
──反省、ゼロ。
「くそっ、あの筋肉……ガチの鉄拳ぶち込んできやがった……!」
数日後、俺・ユウマはパーティのメンバーと、反省ゼロでギルドにいた。
ヒソヒソと聞こえてくる噂話。どこに行っても俺の評判は地に落ちていた。
「あいつ、クズ勇者じゃない?」
「猫のエサまで売っぱらったって聞いたぞ……!?」
「ラッキースケベスキルって公害じゃないの……?」
あのクソチュートリアル神、ろくなスキルよこしやがらねぇ……!
何とかギルドの受付嬢に泣きつき、紹介してもらったクエストは、いかにも初心者向けな《薬草採集》。
「地味だなぁ……せっかくなら《魔王の城への単身乗り込み》とかにしようぜ」
「馬鹿か!? そんなの死にに行くようなもんだろ!」
ちなみに俺のクズ魂スキル《無駄口の極意》が発動しまくっていた。
「この葉っぱ、なんか似てるけど違う気がする……まぁ、細かいことは気にすんな」
「だから変な草摘むなって言ってんだろ!」
そして俺が適当に詰めた草を、後日ギルドに提出。
「これは便秘に効くどころか、3日は止まらなくなる劇物ですね」
ギルドの薬師が震えてた。
「ユウマ……。1歩間違えば死人が出てたわよ……?」
「でも、あの薬のおかげでおばあちゃんが3キロ痩せたって……」
「1回死んでこい!!!」
まだ誰にも信じられてない。頼れる仲間もいない。だけど、それでも。
……まるで夢でも見ているような夜空だった。
屋根裏の小さな窓から、星が静かに瞬いている。
「こっから先は、ちょっとずつでも変わってやる……かもな」
そんなことを、口に出さずに思った。
俺の異世界ライフ、本当に始まったばかりだ。