表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

第1話 俺、転生してクズ男になりました☆

 目が覚めたら、そこは見知らぬ草原だった。

 晴れ渡る空。小鳥のさえずり。ほのかに漂う花の香り。


「え? なにこれ……天国?」


 一瞬、本当に夢でも見てるのかと思った。

 だが数秒後、俺はすぐに気づく。


「異世界かよ!!」


 そう、俺は気づけば異世界に転生していた。

 トラックに轢かれたわけでも、風呂で滑ったわけでもない。

 

 ただ、朝起きたら異世界だった。


「なんという雑な転生ッ……!」


 そんな俺の前に、いかにも“神様です”って雰囲気のローブ姿の男が現れた。


「ようこそ異世界へ。選ばれし者よ」

「いやいや、選ばれてる感ゼロだし! 選考基準どこ行った!?」


 神様(ローブがダサい。赤と金のラインが妙に主張してて、どこかの戦隊ヒーローみたいだった)曰く、俺には特別な才能があるらしい。


「お前の魂には、圧倒的な自己中心性と、ギリギリの良心がある」

「何その矛盾したスペック!? ていうか褒めてないよな!?」


 どうやら俺はこの世界にとって非常に珍しい『クズ系』の資質を持つ転生者らしい。


「ゆえに、『クズシステム』を授けよう」

「いや、どんなシステムだよ!」


 説明によれば、俺がクズい行為をすればするほどスキルが成長するという。


【初期スキル】


・クズ魂……嘘が通りやすくなる


・無駄口の極意……どんな状況でも言い訳がひらめく


・ラッキースケベ率上昇……ときどき物理的な偶然が発生する(例:転んだ先に誰かがいる等)


「いや、最後のやつ明らかにギャルゲー寄りだろ!」


 そんなこんなで俺――佐藤悠真さとうゆうま、元社畜、現・異世界転生者――は、異世界で新たなクズ勇者としての人生を歩むことになった。


 ◆


 まず最初に向かったのは、冒険者ギルドだった。


「こういうのって、最初に行く場所って相場が決まってるんだよな!」


 中に入ると、いかにもヒロイン顔の受付嬢がいた。


「うわ、受付嬢が美少女! テンプレ来たー!」

「……いらっしゃいませ。冒険者登録でしょうか?」


「できればデート登録もお願いしたい!」

「は?」


 開始5秒で怒られた。

 

 それでもめげずに冒険者登録を進める。

 顔写真付きギルドカードのため、10枚も撮り直しをお願いしたら「やっぱりクズですね」と断言された。泣きたい。

 

 とはいえ、ステータス登録は無事完了。


【ステータス】


 名前:ユウマ


 職業:クズ勇者(仮)


 レベル:1


 称号:異世界のクズ/神の失敗作


「うん、なにこの称号のひどさ……」


 しかし俺はポジティブだ。異世界でも前向きにクズを貫く所存である!


 ◆


 その後、ギルドで知り合った筋肉戦士エイドと、回復魔法使いの美少女メイと即席パーティーを組むことになった。


「お、これはヒロイン候補か!? よっしゃ!」


 調子に乗った俺はさっそくやらかす。


 ──その1:

「この宝箱、俺が開けるぜ!」

 → 中身を勝手にポケットに突っ込む


 ──その2:

「メイちゃん、君の癒し魔法で癒されたいな(物理的に)」

 → 即ビンタ


──その3:

「報酬? あ、俺が交渉してくるよ」

 → 全額ピンハネ。報酬をまとめて受け取り、領収書をちぎって「手数料引かれてた」と嘘をついた。

 だが、その領収書の破片がギルドのゴミ箱から見つかり、金額がバレて即座に嘘が発覚。


 結果──。


「ユウマ、てめぇ最低だな!」

「ごめんってば! 冗談だって! ちょ、その拳はやめて!? 拳は!!」


 夜、宿屋の屋根裏でひとり星を見ながらつぶやく。


「……まあ、次からはバレないように気をつけよう」


 ──反省、ゼロ。


「くそっ、あの筋肉……ガチの鉄拳ぶち込んできやがった……!」


 数日後、俺・ユウマはパーティのメンバーと、反省ゼロでギルドにいた。

 ヒソヒソと聞こえてくる噂話。どこに行っても俺の評判は地に落ちていた。


「あいつ、クズ勇者じゃない?」

「猫のエサまで売っぱらったって聞いたぞ……!?」

「ラッキースケベスキルって公害じゃないの……?」


 あのクソチュートリアル神、ろくなスキルよこしやがらねぇ……!

 

 何とかギルドの受付嬢に泣きつき、紹介してもらったクエストは、いかにも初心者向けな《薬草採集》。


「地味だなぁ……せっかくなら《魔王の城への単身乗り込み》とかにしようぜ」

「馬鹿か!? そんなの死にに行くようなもんだろ!」


 ちなみに俺のクズ魂スキル《無駄口の極意》が発動しまくっていた。


「この葉っぱ、なんか似てるけど違う気がする……まぁ、細かいことは気にすんな」

「だから変な草摘むなって言ってんだろ!」


 そして俺が適当に詰めた草を、後日ギルドに提出。


「これは便秘に効くどころか、3日は止まらなくなる劇物ですね」


 ギルドの薬師が震えてた。


「ユウマ……。1歩間違えば死人が出てたわよ……?」

「でも、あの薬のおかげでおばあちゃんが3キロ痩せたって……」

「1回死んでこい!!!」


 まだ誰にも信じられてない。頼れる仲間もいない。だけど、それでも。


 ……まるで夢でも見ているような夜空だった。

 屋根裏の小さな窓から、星が静かに瞬いている。


「こっから先は、ちょっとずつでも変わってやる……かもな」


 そんなことを、口に出さずに思った。


 俺の異世界ライフ、本当に始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ