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九時過ぎの北本通り
午後九時を少し回った頃、北本通りを赤羽方向に流していた。
雨はまだ細く、ワイパーの動きにリズムはない。
それでも視界は悪く、フロントガラス越しににじむ信号の赤が、どこか心の奥をざわつかせた。
こんな時間、子供連れの客が乗ってくることは珍しい。
だが、無線が鳴った。
「北区志茂四丁目、〇〇小学校前にお迎えお願いします。」
小学校の前?
この時間に?
思わず復唱してしまう。
確認の返答はない。
他社の電波かと思ったが、ナンバーも自車指定になっている。
仕方なく返事を返し、車を転がした。
北区志茂四丁目、かつては工場も多く、今は高層の都営住宅が林立する区域。
その一角に、古くからある低層の団地がまだ残っている。
木造ではないが、昭和の終わりに建てられたタイプで、階段に屋根がなく、外廊下が細い。
小学校も、昭和感の残る鉄筋コンクリート造りだった。
敷地の外周にそって歩道があり、その一角に、雨に濡れた母親と小さな男の子が立っていた。