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湿った東京の風
東京の夕暮れは、忙しさの残り香と、どこか湿った風が入り混じる。
ビルとビルの谷間に夜が落ち始め、車道には長く伸びた影が交差していた。
今日は、梅雨の終わりを告げるような一日だった。
ワイパーを止めてからしばらくしても、フロントガラスにはじっとりと曇りが残っていた。
この時間帯、都心を流していても乗客はあまり拾えない。
特にこの界隈、港区の高台にある青山霊園周辺は、街灯の間隔も広く、ぽっかりと夜に空いた「空白地帯」のように感じる。
「青山霊園南門前、迎車一件。三台同時配車、順次着車。」
無線が鳴ったのは、18時ちょうどだった。
表示された場所は見慣れた住所だ。
外苑西通りを少し逸れた道沿い。
青山霊園の南門付近は、いくつか葬儀会館が隣接している。
霊園そのものは墓地だけの空間だが、その脇に建つ建物が今日の目的地だった。
「……了解。○○号、向かいます。」
受話器を戻しながら、どこか胸の奥がざわついていた。
青山霊園。
何度も迎車に行ったことはあるが、そこで“何か”を見たことが一度や二度ではない。