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 やあ原寛貴だよ。夏休みだね。夏休みにぴったりな廻廻奇譚をお送りするよ。これは僕が実際に体験したことをスーパーノンフィクションで君達にお届けするよ。読書感想文はこの小説について書くといいよ。では、夏に溺れて海に喘げ。


 夏休み。そう、この夏休みというのが悪いのだ。いや、夏休みに罪はない。むしろ小学生ならみんな大好きだろう。などと思考展開する原京平という小学生男児は、夏休みに村上の祖母の家で忍ペンまん丸をリアタイ視聴している。

「成る程、手淫念か……」

 京平が手淫念を出そうとすると、

「そうだ、京平ちゃん」

「どぴゅっ!」

 しまった。祖母に向けて手淫念を放ってしまった。

「村上祭りに行くといいよ」

 祖母は何事もなかったかのように、NPCの如く話を続ける。

「村上祭りぃ~?」

 ここもわざとらしいリアクションをして誤魔化す京平だが、しかし祭りとは夏の定番だろう。むしろ、夏休み最大のイベントとも言えるだろう。

「行くか!」

 何かを決心した京平は、目をギラギラ燃やし、全身から手淫念を放つ。こんな奴は下忍だ。


「すんげえ人だなあ、はあ~」

 少年ジャンプの主人公みたいなリアクションをする京平だが、そんなことはどうでもいい。せっかく祭りに来たのだから、何らかの成果を出さなければまん丸に申し訳が立たない。まん丸を蹴ってまで祭りに来たのだから、せめてまん丸くらいに可愛い子を持ち帰らなければ、祖母の家の門を潜る資格はないだろう。

「りんご飴四個くれや、金」

 一個百円だったから四百円出して一気にりんご富豪だ。原京平という人間を退屈させないためには、これくらいの投資は当然だろう。原京平は神なのだから。

「あ、父さん」

 父秀一は型抜きに夢中だ。秀一は昔から型抜きが得意で、『型抜きの秀ちゃん』と呼ばれていたらしい。

「やべ、ションベンしたくなってきたな。海で済ますか」

 京平は近場の海辺で行き、そこで海水に向かって用を足す。ついでに抜いておくかと粗品を扱きだしたところで、


「な、何してるんですか、君!」


 お姉さんがいた。上半身裸で下半身は……魚? というより、鮫に食われているように見える。

「え? アンタ、食われてね?」

「そういう君こそ、私を食べる気ですね!」

「食べねえよ!」

「じゃあ下さい!」

「?」

 一瞬呆気に取られた京平だが、京平が持っていて食べられるものといったら

「チンコ食うの?」

「違います! りんごです!」

 そっちかー。いやまあ、普通に考えたらそっちか。京平の思考はぶっ飛んでいる自覚はあるが、この子も別ベクトルでぶっ飛んでいる気がする。普通海で小便出してオナる男子小学生からりんご飴を貰おうとするだろうか。と文字に起こしてみると、やはり京平も大分クレイジーな気がする。


「美味しい! 美味しいよ、これ!」

 シモザメはりんご飴を本当に美味しそうに頬張る。何かエロい。

「まあ、気に入ったなら良かったよ」

「うん、好き!」

 ちょっとドキッとしてしまった。りんご飴が、だよな。危ない危ない。

「りんご飴も、京平くんも!」

 京平の鼓動は加速する。この小説のジャンルは恋愛だったのか。小学生時代にこんなベタなラブコメを経験していたとは。どうして今まで忘れていたのだろうか。

「俺も、シモザメさんが……」

 潮騒でその続きは搔き消されたが、それでもシモザメは京平の想いを汲んで

「ありがとう♡」

 と言ってくれた。京平の気持ちは恐らく伝わったのだろう。しかし、下半身を鮫に食われているようなお姉さんと恋愛とは、京平の恋愛遍歴は初っ端から大きく人智を逸している。人外だ。シモザメも京平も。りんご飴に僅かに付着した白い液体をシモザメが舐めるのを見て、京平のシモザメも加速していく。下ネタか。シモザメだけに。上手い。


「ただいま~」

 京平は祖母の家に帰り、姉夕日とドラクエ6をやり込み、寝た。夢はシモザメと幻の大地を目指すという荒唐無稽なものだった。まあ夢などそういうものだろう。夢で高く跳んだ現実の自分が、明日過去になった今日の今が奇跡なのだから。


 起きて真っ先にしたことは、決まっている。オナニーだ。京平は膨らんだ股間を鎮めるために、シモザメのおっぱいを想起して抜いたのだ。風呂場で。祖母の家だと、オナニーできる場所も限られる。だから昨日は海で小便すると共に抜いておいたのだ。青少年は抜ける時に抜いておかないと爆発する。男性器が。

「さて、シモザメに会いに行くか」

 そして京平は昨日シモザメに会った海に行く。しかし、そこにあったのは

「何だよ、何なんだよ、何なんだってばよ三下‼」

 一体そこに何があったというのだろうか。衝撃の最終回を見逃すな!


「何だよ、これ……」

 そこにあったものは……何も無かった。誰もいなかった。

「お前がいないんじゃ、しょうがねえじゃねえかよ……‼」

 京平は右拳を強く握り締める。幻想殺し。超能力だろうと魔術だろうと、問答無用で打ち消す能力。もしかしたらこれのせいで、シモザメの存在を消してしまったのだろうか。

「小学生なのに中二病? 京平くん」

 この声は……オナニーしている時に何度も聞いた……有名声優声負けの……野沢雅子と田中真弓を掛け合わせたような……

「悟リリン!」

「シモザメだよ! 一文字も合ってないよ!」

「まあ、亀と鮫だし、似たようなもんだろ」

「シモザメ波食らわすよ⁉」

 シモザメがかめはめ波みたいなポージングを取るのを見て、京平は思わず噴き出す。

「え⁉ かめはめ波ってこんな感じじゃなかった⁉」

「違う違う。いや、合ってるよ。いや、そうじゃなくてさ」

 京平はシモザメの身体を抱き締める。

「嬉しいんだ。前回の前振りのせいで、絶対悲恋みたいなことになると思っていたから」

「京平くんは原寛貴様を舐めすぎだよ。神だよ神」

 シモザメは京平の顔を自身の乳房で押し潰す。ここまで気持ちの良い圧迫はあるだろうか。

「でもシモザメ、俺、もう帰らないと……」

「十年後の八月……」

「え?」

 十年後の八月? 何のことを言っているのだろうか? キッズウォー?

「十年後の八月、また君に会えるかな?」

「馬鹿野郎! 十年後どころか、毎年来てやるよ!」

「毎年かあ。君なら本当に来てくれそう」

 シモザメは笑う。その笑顔の奥には、寂しさが滲んでいるような気がした。

「初めてだったんだ。京平くんみたいな人に会うの。私なんて、下半身が鮫に食われ続けているのに、京平くんは怖がらず気持ち悪がらずに普通に接してくれた」

「シモザメ……」

 何だよ。そんな話すると、もう二度と会えないみたいじゃないか。十年後の八月……もしかしたら、その日がタイムリミットなのかもしれない。いや、もしかしたら、そこからが始まりなのだろうか。

「忘れない、忘れないよ」


 しかし十年後、物の見事に忘れていた京平は、結局未だにシモザメと再会できなかった。という、昔体験した話を基に書きました。いやあ、久し振りに爽やかな短編! こういうので良いんだよ! という読者の声が今届きました。この話は正直脚色した部分が大きいですが、それでも何か懐かしさを感じるような不思議な作品でした。小学生時代は割とこういう妄想しますよね。京平とシモザメが皆の心のどこかにシモザメ波を食わらせることを願って。夏祭りにはりんご飴! 四個買おう四個!

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