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「あっ……!? そのラピッド売れたんですか……!?」
ブランシュは落胆した。
親にお金を貸してもらうか迷うほど欲しかったラピッドが、目の前で売れてしまったことに、ブランシュはショックを隠せなかった。
「すみません、私もそのラピッド、欲しいんですが……!」
「お嬢ちゃんも欲しいのかい? でも、このラピッドは、魔族様が気に入られてね。もう売れてしまったんだよ」
ダメもとでブランシュは店員に声をかけた。ブランシュの声に反応して、ラピッドが大きな目でブランシュを見た。
呼び止められた店員はブランシュを品定めするかのように、じろじろと見た。
(どうしよう!? もう少しまともなかっこうにするべきだった!?)
今のブランシュは薄着の普段着で、格式を重んじる上級魔族らしからぬ服装だった。
ブランシュは頬を赤く染めながら、必死になって訴えた。
「お金ならあります! ……いや、少し待って貰えば、用意できます……!」
けれどもブランシュは、手持ちのお金がないことを思い出して、慌て言い直した。
(誰が買ったのかわからないけど、絶対、私のほうが幸せにしてあげられるんだから!!)
ブランシュは唇をきゅっと引き締め、ラピッドを見詰めた。
「遅い。何を手間取っているんだ? ……ブランシュ!? まさか、お前もラピッドを買いに来たのか?」
「え!? ……あのラピッドを買った魔族って、グラビエルなの?」
グラビエルは父親の友人の息子で、家族ぐるみの付き合いがあり、それなりに親しい間柄だった。
「そうだが? ……お前も欲しいのか?」
「そ、そうなの! 出来れば、私に買う権利を譲って欲しいな」
グラビエルはブランシュよりも身長が頭1つ分高い。
ブランシュはチラリと上目遣いでグラビエルにお願いをした。
「……こいつ、けっこう高いけど、大丈夫なのか? お前の薄給じゃ養えないだろ」
「うぐ……! 私の食事を減らせば、なんとか……!」
だが、親しいがゆえに、グラビエルはブランシュの懐事情も、よくわかっていた。
「腹がすいた状態で戦うのか? 倒れるぞ?」
ブランシュは食べることが大好きで、「よく太らないわね」と周囲に言われるほどだった。
当然、付き合いの長いグラビエルは、そのことをよく知っていた。