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「へぇ~! これがニッドウェルズか…」
ブランシュは長いプラチナブロンドの髪をなびかせながら、息つく暇間も無く、市場を見て回った。
「あの子も、いいな。あっ、あの子も可愛い……! 欲しいなぁ……!」
市場特有の活気にブランシュは高揚した。
しかし、ブランシュ好みの可愛いラピッドは目が飛び出るほど高かった。
「私も買いたいけど……。お金足りないや……」
ブランシュは値札を見ては、ため息をついた。
魔王が勇者に勝ち、人間界を併合してから、優に300年ほどの月日が流れた。
人間界と魔界は魔王アウグトゥスにより、平和で安定した治世が行われていた。富める者はますます富み、財を成した。
そのため魔族間でも、貧富の格差が広がった。
ブランシュは上級魔族だったが、貧乏だった。
一概に上級魔族と言っても、ピンからキリまである。
ブランシュ自身も、見た目は可愛らしく、異性から見ても魅力的な顔立ちをしていたが、魔力がそれほど高くなく、キリのほうだった。
そのため、縁談も舞い込んではいたが、足下を見たような条件の申込が多く、「こんな男には嫁がせん!」とブランシュを溺愛している父親が、片っ端から縁談を破談にしていた。
それゆえ縁談もなかなか成立せず、またブランシュ自身も恋愛に興味がなかったため、次々に結婚していく友人たちに一抹の寂しさや焦りを感じながらも、仕事に邁進していた。
「別に結婚なんてしなくても、生きていけるから、いいもん……! それに、私はラピッドを飼って愛でるんだから……!!」
ラビットは魔族の愛玩用に飼育されている生き物だ。
ブランシュはラピッドに対して、憧れのような感情を抱いていた。
ラピッドを飼うにはお金がいる。万が一、病気になってしまったら、高額な治療費が必要な場合もあった。
回復する見込みがない場合、殺して肉にしてしまう魔族もいたが、ブランシュはラピッドを家族の一員として迎えるつもりだった。
ブランシュはコツコツとお金を貯めて、ようやく飼うことができるだけの資金を貯めることができた。
「お迎えしたいけど、今日は無理かな……下見は正解だったわ。もう少し貯めなきゃ……!」
ブランシュは、キラキラとした目で展示されているラピッドを見た。
どのラピッドも撫で回したくなるほど可愛かったが、その中でもひときわ目をひくラピッドがいた。
「わぁ、真っ白だ……! 耳も大きくて、猫みたい……!!」
一目惚れだった。近寄ると、ごろんとお腹を見せて、毛繕いを始めた。
「長毛種か~。世話が大変たそう。でも可愛いな~…。これだけ可愛かったら、すぐ売れちゃうよねぇ……」
ブランシュは首輪に貼られている値札を確認してみたが、予算を遥かに越えた金額だった。
「どうしよう……パパに頼み込んでみる……? でも、パパはラピッドが嫌いだし……」
ブランシュが、ショーケースの前で悩んでいると、店員が「ちょっとごめんなさいよ」と言って、展示されていたラビットを持ち上げた。
ショーケースに貼られていた交渉中という張り紙が、商談成立という張り紙に張り替えられた。