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クリスマス・イブ1

クリスマス・イブ


これは番外編です。

掲示板に「津村と松永が再会したらどうなるんだろう?」という書き込みがあり、面白そうだなあと思って書いてみました。


クリスマス・イブ 1.津村 孝介


 休日。俺は走っていた。なぜに休みの日なのに走っているのかというと、美佳との約束に遅れそうだからだ。ウッカリ寝過ごしてしまった。前回も遅刻したから続けて遅れたらヤバい。指輪に高いダイヤをねだられそうだ。

 息を切らせてホテルに着く。ホテルといってもエロいものではなく、普段は入らないような少々格式張った建物だ。金かかりそうだなと思いながら、外国映画のようなホールを横切る。

「あ、待って待って!」

 締まりかけたエレベーターに滑り込む。ふう。

「……っ!」

 ガラス張りのオシャレなエレベーターに乗り込み一息……同乗者に固まった。

 松永が居た。

 なんでこいつがここに? 退院以来会っていなかった彼との再会に、俺は仰天した。もう会うことはないだろうと思っていたのに。

「……」

 向こうも驚いたらしく、俺を見て目を見張っていた。

「……やあ」

「……よお」

 俺たちはぎこちなく挨拶した。なんとなく、互いに目を逸らす。狭い個室には二人きりだ。

「……」

「……」

 エレベーターの個室で、俺たちは黙りこくっていた。

 ……気まずい。

 松永は俺を許してくれたし、禍根は精算されたのだが、やっぱり気まずい。それは松永も同じようで、そわそわしていた。

 あー、早く目的の階に着かないかな。エレベーターはやけにゆっくりと動いていた。

「58階?」

 不意に松永が口を開いたので、俺は少しビクリとなった。

「津村くん、58階で下りるのかい」

「う、うん」

「ここの58階ってたしか、結婚式場だったよね……」

 松永は少し目を細めて、俺を見返した。上から下まで、どことなく粘質な目で見られる。なんだろ。なんだろ。復讐はもう終わったでしょ? 終わったよね? ビビッてしまう。

「そのラフな格好で、知り合いの結婚式に出席というわけじゃないよね。式場の下見か打ち合わせ?」

「う、うん」

「へーえ……美佳さんとそこまで進んでいるの」

 松永は細い眉を少し陰らせた。何か気に障ったのか? なんで? 怒らせるようなことを言った覚えはないが、大雑把な俺は知らない内に彼の逆鱗に触れたかもしれない。

「ま、松永……さんは、どうしてここに?」

 話を逸らそうと、俺はビビりながら話題を変えた。ひ弱そうだが、松永は怒らせたら下手なヤクザの何倍も怖い男だ。

「パーティーがあるんだ。合コンてやつ」

「へえ」

 松永がそういう普通な若者らしい集いに出るとは、ちょっと意外だ。そういえば松永はスーツなんか着込んでビシッとしている。やる気まんまんだ。こいつも人並みに彼女が欲しいのだろうか。さっき松永の表情が陰ったのは、クリスマスの独り身に俺と美佳の進展を聞いて嫉妬したせいかもしれない。でもそんなスーツ姿じゃ、かえって浮くんじゃないのかな。

「ま、居酒屋なんかの合コンなら浮くだろうけど、こういう高級ホテルならそれなりの格好じゃないと。医者、弁護士、議員の息子なんかが集まるパーティーだから」

 松永が、さらっと嫌味なことを言った。

「ほお……じゃあさぞかし、会費も高いんだろうな」

 やっかみ半分に言ってやると、松永はさらに腹立つことを言った。

「会費を払うのは女だけ。男は無料さ。セレブな男を捕まえて玉の輿に乗りたい女の集まりなんだから。優しい恋人が欲しいんだけど、こんな女ばかりでまいっちゃうよね」

 憂鬱そうにため息をつくが、俺には自慢にしか聞こえない。ボクは金持ちでモテるんですって不幸面で言われているような気がする。むかつく。

「……おまえそんなんだから、いぢめられんだよ」

「何か言った?」

「べつに」

「反省したと思ったのに……まだまだ痛みが足りなかったのかな?」

 微笑みながら、怪しい注射針を取り出す。

「嘘! 嘘です! もう十分だから! 分かったから! 痛いの知ってるから!」

「冗談だよ……ウフフ」

「冗談って笑いながら注射針持って近づくなよ!」

 チン。エレベーターが、松永が押した56階に着いた。扉が開くと同時に、松永は手品のように注射器を隠した。そして涼しい顔。コイツやっぱりただ者じゃない。

 やれやれ助かったと胸をなで下ろすと、松永は涼しい顔のまま、俺を突き押した。俺はエレベーターから押し出された。

「え?」

 振り返ると、エレベーターの扉が締まっていく。

「僕の代わりに合コンに出ておいてよ」

 締まりゆくエレベーターから、松永がパーティーチケットを投げて寄越した。松永を乗せてエレベーターは締まり、俺が行くはずだった式場に登っていった……。

「……」

 俺は、しばし唖然と立ちつくしていた。

「……ってオイ、松永!」

 我に返り、俺は閉じたエレベーターの扉を叩いた。あいつ、何のつもりだ。

「松永さんですかぁ?」

 後ろから高い声をかけられた。振り向くと、可愛い娘さんが何人もいて、金持ちチックなパーティーが始まっていた。

「お医者さんなんですよね? 病院の跡取りってすごぉい」

 わらわら、女の子が集まってきた。俺を松永と間違えているらしい。違う、と言おうとしたが、可愛子チャンに囲まれるなんて滅多にない出来事に、俺はちょっぴり浮かれてしまった。会費はタダだし、うまそうな食い物あるし。急いで出たから、まだ飯食ってないんだよな。

 ……。五分だけ。

 美女につられたんじゃない、食い物に心惹かれたんだ。食うだけ食ったら、さっさと出るさ、もちろん。

「はい、あーん♪」

 美女が料理を摘んでくれる。おう、美佳でもここまでしてくれたこと無いぞ。俺は遅刻を五分から七分に延長しようかな、と思った。


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