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少年11

少年11


 前回はみっともなく泣いてしまったので、今回はもう少しビシッとしていこう。格好良く決めて、気前よく奢って、あの女を落とす。女は所詮軽薄なんだってことを、証明してやる。僕はスーツを着て、美佳に逢った。

 金は惜しまない。一流どころを巡る。美佳はキャアキャア言っていた。ほら、女なんてこんなものだ。僕は女のお姫様願望、主人公気分を満たすように、美佳をエスコートした。

 夜景が評判の高級レストラン。僕は景色よりも美佳を見つめた。

「綺麗ですね」

「えっ」

「夜景ですよ」

 夜景には一瞥もくれずに、美佳を見つめて言う。こんな気障な振る舞いも、本気じゃないならいくらでも出来る。食事を終えても、すぐにはスイートルームに行かない。結局やることは一つなのに、女はムードだのロマンだの、もったいぶるのが好きだ。

 ムーディーなミュージックホールに、さりげなく美佳の手を握って案内する。

 色っぽい女性歌手の艶めかしい歌声が響く。僕は、そっと美佳の手に触れた。美佳は少しビクリとなった。構わず、両手で握る。彼女の細い指に、軽くキスをした。我ながら、背中が痒くなる。けれど美佳は、とろけたような顔になって、うっとりしている。落ちたなと、僕は美佳攻略を確信した。ホテルに連れ込めば、自分から足を開くだろう。美佳を軽蔑しながらも獣欲が立ち、僕は彼女の頬に唇を寄せた。

 えっ?

 次の瞬間、僕は思わぬ強い力で、胸を押されていた。美佳が、僕を拒絶するように、しなやかな腕いっぱいに、僕を押し戻したのだ。

「美佳さん?」

 美佳は僕から顔を背けた。さっきまでのとろけそうな表情は、どこにもない。拒む空気が、無言で僕を圧倒する。どうしたんだ。女の気紛れ、もったいぶりとは違う、本気の拒絶。土壇場になって、何が彼女を押し止めたのか。もしかして。まさか。

「……津村さんですか?」

 美佳の肩が震えた。なんと。僕は目を見張った。息を飲む。彼女を引き留めたのは、津村への愛であったのか。表面では僕によろめきながら、心底では津村を愛していたのか。

 落ちる、と確信していただけに、彼女の拒絶には愕然となった。こんなことって。

 ……。

「津村さんをやっぱり、愛してるんですね?」

 美佳は小さく、だがはっきり、頷いた。

 ああ。

 以前見た、純愛映画のヒロインが脳裏に蘇る。あんな女、現実にいるわけがないと思っていたのに。もしいたら――いたら僕は――

「ごめんなさい……」

 美佳が謝る。長い睫毛に、真珠のような涙が滴った。心臓を掴まれたような気がした。抱きしめたい。

 美佳の頭をそっと撫でる。それだけで、指が震えた。違法スレスレの医療プレイまでしたことがあるのに、頭を撫でるだけのことで心臓が縮むなんて。

「病気というものは、大変なものです。病人本人はもちろん、病人を支える家族や友人も」

 震える手で美佳の頭を撫でながら、僕は自分でも驚くほど優しい声を出していた。

「とくに、頭や心を病んだ人は、病を乗り越えるのは至難です。周囲は、疲弊しきってしまう。家族に見捨てられた患者を、僕は大勢見てきました」

 そうだ。別に薄情なのは、女だけじゃない。入院となった途端、妻を離縁する男もいたし、子供の危篤にさえ無関心な親もいたではないか。でも。

「津村さんには家族がいません。あなたしかいません。どうか、彼と一緒に戦ってあげてください。あなたなら出来ます」

 美佳を見つめて言う。君なら出来る。他の誰が見捨てても、君だけは。


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