11話 牢獄視察7
――姫を幽閉していると言う牢獄へ向かう道中。
「あのぉ……ロース様。ひとつご提案が」
歩きながらも、デュヴェルコードがモジモジと体を揺らし声をかけてきた。
「どうした、デュヴェルコード」
「これより先は、凄く道のりが険しくなるのです。『テレポート』を使用してもよろしいですか?」
「はぇっ!?」
「いいえっ、その。これより先の道が険しいため、『テレポート』の使用を許してもらえないかと……」
「2度も言わなくていい。聞き返したのではなく、聞こえた上で驚いただけだ」
今更道中で『テレポート』って、いったい今までの徒歩移動はなんだったんだ……!
「険しいって、見るからに平坦な一本道だと思うが」
「通路の状態ではなく、距離の問題です。魔法使いのスタミナと脚力の貧弱さを、ナメないでください」
「体力面の懸念は汲んでやるが、長距離と分かっていながら、なぜ始めから『テレポート』を使わなかったのだ?」
「えっ! あ、歩きながら情報を提供して欲しいと、ご要望がありましたので……。
きっと、道中にしか咲かない花を見たい的な、変わった感覚をお持ちなのかと思いまして」
「そんな奥深いロマンスは持ち合わせていないが……私の要望のせいで苦労をかけたな」
「お気になさらないでください。そんな花なんて、魔王城内に咲いているわけがないと、分かり切っておりましたので」
顔だけを俺に振り向かせ、優しい笑顔を見せてくるデュヴェルコード。
フォローしてくれる気持ちは嬉しいが、割り切り方が嫌味ったらしいな……!
「で、ではデュヴェルコード。気を取り直して、『テレポート』を頼んでもいいか?」
「お任せください! それでは例によって、分厚い胸板に失礼します!」
デュヴェルコードは歩みを止めるなり、俺の懐に飛びつき。
「――『テレポート』!」
間髪入れず、移動魔法を唱えた。
すると俺たちは、一瞬にして見慣れない暗闇へと移動してきた。
それは暗く、寂しい雰囲気の漂う空間。
「暗くて見えずらいな……。デュヴェルコードよ、灯りなどはないのか?」
「ロウソクでしたら、すぐにでも魔法で生成できますが……『グラトニー・フレイム』の方がよろしいですか?
ロウソクより、何倍も大きく明るいですよ」
「………………お前、それは攻撃魔法だろ。私を焼き殺すつもりか? 暗がりでスペースも定かでないのに、そんな物騒な炎は焚かないでくれ。ロウソクで頼む」
「かしこまりました。『クリエイトオブジェクト』」
落ち着きを感じる詠唱と共に、デュヴェルコードの右手に小さな魔法陣とロウソクが出現し。
「続きまして、『ファイア』……」
デュヴェルコードは生成したてのロウソクに、魔法で小さな火をつけた。
ロウソクに着火したフワフワと揺れる小さな火が、俺たちの周りを控えめに照らし始める。
すると目の前に。
「鉄の棒? 牢獄の鉄格子か」
ロウソクの火に照らされる、横並びに配置された鉄芯が見えた。
そして鉄格子の先には……。
「あれは誰だ? 椅子に座って動かないが」
「監視役のスケルトンですね。あのパカスケルトン、何を呑気に寝ているのでしょうか」
鉄格子の向こう側に、ガリガリのスケルトンが静かに座っていた。
骸骨だからガリガリなのは当然だが、このスケルトン……カルシウム不足なのか? 骨が細すぎるんだが……!
理科室にある人体模型の方が、よほど強そうに見えるな……。
だが、そんな事より……!
「デュヴェルコードよ、少し不思議なのだが。あのスケルトンは、鉄格子の向こう側にいるよな?」
「おっしゃる通りです」
「これ……私たちが檻の中に入っていないか?」
俺は質問と同時に、スケルトンからデュヴェルコードへと視線を移してみる。
すると小さな火に照らされた、困った様子で固まるデュヴェルコードの顔が見えた。
「………………閉じ込められましたね、アハッ!」
「アハッじゃない、誤魔化すの下手くそか! 『テレポート』で移動した矢先に牢獄内って、私たちは積極的な囚人希望魔族か!」
俺が声を荒げた途端。
『――そこに、どなたかおられるのですか?』
可愛く幼げな声が、灯りの届かない暗がりから聞こえてきた。
「わっ! だ、誰だ? デュヴェルコードよ、ロウソクを……!」
俺はデュヴェルコードからロウソクを取り上げ、声の主を確認するべく灯りを音源へと近づけてみる。
そこには……。
「あれが敵さんの欲する囚われの姫、シャインです」
目に少しの涙を浮かべ、こちらを敵視するような鋭い視線を飛ばしてくる姫、シャインが座っていた。