11話 牢獄視察6
――デュヴェルコードによる道案内のもと、俺たちは寝室を後にし牢獄へと向かっていた。
「デュヴェルコードよ、歩きながらで構わないから教えてくれ。幽閉中の姫とは、いったいどんな人間なのだ?」
ふたり横並びで通路を進んでいく最中、俺は顔だけをデュヴェルコードに向けて問いかける。
「簡単にご説明すると、姫は人族の女の子です」
「………………簡単すぎないか? それくらいなら、聞かずとも想定していたぞ。
もっとこう、身なりだとか性格だとか状態だとか、対面する前に知りたいような耳寄りな情報をだな」
「気が回らず申し訳ありません! わたくしからすれば……例え姫であろうと、ただの檻に入った人族くらいにしか思っていなかったもので。
聖剣を持とうと、檻に入れようと、所詮は人族に変わりないと申しますか……」
何その、『食べてお腹に入れば全部一緒』みたいな、極端な例え……!
「そ、そうか……。魔王城に囚われているだけでも、私からすれば重要人物な気はするが。ましてや敵軍のお姫様だし。
今後はもう少し、キーマンの認識を高めておいてくれ」
「心得ておきます。他にロース様にお伝えすべき、姫の情報……そうですねぇ……」
俺の横を歩きながらも、片手をアゴに添えて考える様子を見せるデュヴェルコード。
「強いて言うなら、姫は変わり者です! それはもうパカみたいに!」
………………お前が言うか? 俺からしたら、この子も十分変わり者なのだが。
と言うより、この世界でまともなヤツなんて、今までにいたか……?
「えらくアバウトな情報だな……。変わり者にも、様々なタイプがあると思うが。
あとお前も、変わり者だと思うぞ」
「わたくしは至って普通の側近です。ロース様にお仕えし、ちょっと誰よりも魔法が優れているだけの、ただの若いダークエル……あっ、ロース様!
その角を曲がると、チンピラ勇者に破壊された、首の折れたロース様像があります!」
突然デュヴェルコードはハッと表情を変え、通路右の曲がり角を指差した。
そう言うところだろ、無自覚で変わり者なロリエルフ……!
話の途中で、どうでもいい情報をぶっ込んでくるな……!
「全く関係ない話に逸れたが、その像は後日で構わないから直しておいてくれ。
自分の首折れ像なんて、少し気分が悪いからな……」
俺は曲がり角を尻目に、通路を真っ直ぐ進み続けた。
「デュヴェルコードよ、姫の話に戻るが……。私はその姫を未だに幽閉している事に、少し違和感を持っている」
「と、おっしゃいますと?」
「この魔王城は、私が眠っていた間に勇者ンーディオの手によって、完全攻略されたのだろ?」
「おっしゃる通りです」
「ではなぜ、ンーディオは姫を未だに助け出していないのだ?
数多のエリアボスを倒し、この魔王城を完全攻略にまで追い込んだヤツなら、姫の居場所くらい突き止めていてもおかしくないだろ」
「敵さんの思惑は定かではありませんが、あのチンピラ勇者の事です。きっと仕様もない理由だと思われます」
「何か心当たりがあるのか?」
「聞いたのです、牢獄監視役のスケルトンに。敵さんは既に1度、姫を幽閉している牢獄前まで到達したと報告を受けております」
「えっ? そこまで辿り着いて、目の前にいた姫を連れ出さなかったのか!?」
「そのようです。チンピラ勇者は牢獄内の姫をジッと見つめ、姫に言葉をかける事なく、監視役のスケルトンに告げたそうです。『今はまだ、助け出さねぇでいてやる。魔王が爆睡こいてんのに、ここで連れ出したら姑息すぎてダセェだろ。オレは寝取り勇者じゃねぇからな! アンフェア抜きに魔王を真っ向からシバき終わったら、堂々と連れ帰ってやるよ。それまでは、姫をこのまま閉じ込めとけ。じゃあな!』と、告げられたそうです。
そのまま姫を連れ出さず、帰って行ったらしいですよ」
まるで見てきたかのように、勇者ンーディオの言伝を淡々と語ったデュヴェルコード。
今聞いた台詞を、助けを待つ姫の前で堂々と言ったのか? 身勝手すぎるだろ、あの勇者……!
「わ、私が姫の立場なら、そんな発言を目の前で聞いたら青ざめるな……。
助けに来た勇者が、私情を優先して帰っていく姿など、姫も見たくなかっただろうに」
「あのチンピラ勇者からすれば、姫なんてただのハンティングトロフィー程度にしか、思っていないのでしょうね。敵さんではありますが、ちょっと論外です。
わたくしが姫なら……牢獄の中からでも、立ち去ろうとする勇者の背中に、魔法をぶち込んでやるところです」
………………また例えが極端だな。そんな姫も嫌なのだが……!
――様々な懸念を抱きながら、俺たちは牢獄を目指して通路を進み続けた。