11話 牢獄視察5
コジルドによる秘め事の披露も終わり、寝室へと戻ってきた俺たち。
「――遅ーーーいっ!! 遅い遅いです!」
だが戻ってくるなり、デュヴェルコードの怒声が寝室中に響き渡った。
「す、すまない。待たせて悪かったなデュヴェルコード」
「わたくしを置いて、どこでどんなチョメチョメをなさっていたのですか!
すっごく待ちくたびれましたよ! プンでスカ、プンでスカ!」
「落ち着けデュヴェルコード! チョメチョメより、お前の『プンでスカ』の方が引っかかるのだが。
プンスカと怒る時は、丁寧に言わなくていい。むしろ私に怒っているのか質問しているように聞こえるぞ……!」
ご立腹の様子で両腕を組むデュヴェルコードに、俺はゆっくりと手を振り落ち着くよう促してみる。
「しっかり落ち着いていますよ! お帰りが遅かったので、ヘソをひん曲げているだけです!」
「いや、それは落ち着いていないぞ……!」
「どうせおふたりで、わたくしが食べ頃だとか変な妄想に浸って、遅くなられたのでしょ!?
このセクハラ陰口魔族さんたち!」
セクハラ魔族って……! 今日も安定に、トチ狂った洞察力で掻き乱してくれるな……。
「フハハッ! 随分な驕りようであるな。その自信はどこから湧いてくるのだ、小さき者よ。
貴様など、未熟な蕾もいいところであろうに。どこに欲をそそる魅力があるのだ?」
デュヴェルコードに指を翳し、必要以上に煽りを入れるコジルド。
「………………ロース様、本日のご予定を変更してもよろしいですか?
冗談のお上手なこのヴァンパイアを、天日干しにして差し上げたいので」
デュヴェルコードは俺に目もくれず、血走ったオッドアイで真っ直ぐにコジルドを見つめる。
「お前たち……。魔族同士でいがみ合っていないで、もう少し互いに大人になってくれないか」
「そうであるぞ! 心身共にもっと大人にならぬか、側近娘よ!」
まるで他人事のように、無自覚な罵声を放つコジルド。
ここに3人しかいないのに、なぜ『互い』の中に自分が含まれていないと思えたんだ?
むしろお前宛てに言ったつもりなんだが、コジルド……!
「少し黙れコジルド、本当に話が進まないだろ。朝からお前に付き合って、既にお腹一杯なくらいなんだ。
頼むからこれ以上、騒動を起こさないでくれ」
「お腹一杯ですって!? わたくしを置き去りにして、おふたりで何をご堪能されたのですか!
お食事ですか!? それともチョメチョ……」
「お前も黙れ、デュヴェルコード。それ以上は意味深に聞こえるだろ……!」
「も、申し訳ありませんっ。おふたりが賢者タイムの最中なのかと思いまして。
怒りに任せ、危うく良からぬ事を口走るところでした」
俺に遮られ冷静さを取り戻したのか、デュヴェルコードは謝罪をしながらペコリと頭を下げた。
怒りに任せなくても、この子は普段から色々と口走っているが……。
「頭を戻してくれデュヴェルコード。言い合いはこれで終わり、加えて今日の予定変更もなしだ」
「かしこまりました。では気持ちを切り替えて、目的の場所へ向かいましょう」
「おやおや、ロース様。これからどこへ向かわれるのですかな?」
行き先が気になる様子で、コジルドは俺に問いかけてきた。
「お前が来る前に話していたのだが、これからデュヴェルコードとふたりで牢獄に……」
「デートです。ロース様と牢獄に」
先ほどの反省もかえりみず、早速余計な事を口走るロリエルフ。
なぜここで、デートなんて誤解を招くワードを出すんだよ……!
「おやおやおや、プリズンデートと?」
「そうです、今からロース様とふたりっきりで、牢獄に向かいます」
「おいデュヴェルコード、お前は何を言って……!」
「おっと、プライベート……。デートスポットがマニアックですな、ロース様。おふたりで囚人ごっこを?」
俺とデュヴェルコードを交互に見つめ、意味深なニヤつき顔を浮かべるコジルド。
「そんな訳ないだろ……! 牢獄にいると言う姫の様子を見に行くだけだ」
「あのプリンセスをご覧にですか、なるほどなるほど。檻の中に閉じ込めし人族を、朝からご観覧とは誠に風情。
魔王の嗜みと言うやつですな!」
「どんな嗜みだ、魔王にそんな朝活習慣はないぞ。
記憶を失くして以来、姫の存在を認知していなかったので、その確認に行くだけだ」
「シンプル……! では同行しない我の代わりに、プリンセスへお伝えください。『我に服従せずとも、友達になるくらいなら考えてやっても良いぞ……』と」
モジモジと肩を揺らしながらも、得意げな下目遣いで伝言してくるコジルド。
強がってはいるが、お前は単に友達が欲しいだけだろ。もはや敵味方関係なく、誰でもいいのかよ……!
「な、なるべく伝えるよう善処しよう。
ではデュヴェルコードよ、遅くなったが牢獄へ向かうぞ」
「かしこまりました。牢獄へは徒歩で向かいますか?」
「そうだな。伝えられる情報は、歩きながら聞く事とする」
俺とデュヴェルコードは牢獄へ向かうべく、一礼するコジルドに背を向け寝室の外へと歩き出した。