11話 牢獄視察3
コジルドの唱えた『テレポート』により、棺エリアへ瞬間移動した俺とコジルド。
「ようこそ、我がサンクチュアリへ」
「棺エリア……昨日と変わらず薄暗い空間だな」
「サイレント……! ここでしたら、誰の邪魔も入りませぬぞ。今は我々だけです」
片手を胸下に添え、大袈裟にお辞儀をして見せるコジルド。
そりゃ俺たちだけだろうな。魔王城の嫌われ者であるお前が管理しているエリアなのだから……。
「それで、私に話したい秘密とはなんだ?」
「フハハッ! 聞いて驚かれぬよう、ご注意を!
我はヴァンパイアにして、魔王軍最強かつ最恐のランサー。そして……!」
コジルドは両手でマントを広げると共に、ニヤリと俺に笑いかけ。
「――空中戦の覇者となり得る者!
なんと我は生まれつき、飛行能力を授かりしヴァンパイアだったのです!」
決め台詞のように言ってのけ、コジルドは床から数センチほど、ふわりと浮き上がった。
話したかった秘密って、飛行能力の事かよ。秘密にしていた割に、昨日の戦闘で包み隠さず飛んでいた気がするが……。
て言うか、誰にも言えない秘密の明かし方が、物凄く地味なんだが。そこまで盛り上げたのなら、もっと派手に飛んでみせろよ……!
「あぁ……飛行能力ね」
「なっ! ロース様、驚かれぬのか?」
「お前が驚くなと申したのだろ。昨日も最前線で目の当たりにしていたし、今更驚くも何も」
興味を示さない俺を前に、顔を引き攣らせ始めたコジルド。広げていた両手を力なくプラリと下ろし、棒立ちでその場に浮き続けている。
この様子はまるで、怖がられずに拍子抜けした時の幽霊みたいだ。
「で、でしたら! この見破られる事のない、飛行能力のカラクリを明かす他ないですな!
きっと驚きは疎か、羨ましさで床をのたうち回る事でしょう!」
「正体は翼だろ? お前の性格上、特別な力やオリジナルの能力なんて大好物だろうな。ましてや翼だし」
「………………いったい、どうして翼の事までご存じに……?」
ギョッと目を見開き、肩を落として固まるコジルド。
「デュヴェルコードから聞いたのだよ。お前が勇者ンーディオと対峙していた時に、こっそりとな」
「あのっ……口のだらしない小娘がっ……! 弱みを握られたとは言え、あんな小娘に話すべきではなかった。
しかしながら、ロース様もあの小娘も、羨ましさで床とかをのたうち回らぬのですか? 手に入らぬユニークとか、カッコよくないのですか?」
一緒にするな厨二野郎。俺は翼なんて羨ましくないし、そこまでコジってもいない……!
「魔王が羨ましさで、のたうち回ってたまるか。私は駄々っ子か!」
「まさか、そんな……」
「暴露は終わったか? なら早くデュヴェルコードの元へ戻るぞ」
「お、お待ちを! 本来であればこの禍々しき翼は、何人たりとも目にする事を許されておらぬが……。やむを得ないでありますな。
我にとって唯一親しき御方と呼べるロース様には、特別にお見せ致しましょう。それを持って、誰にも話せぬ秘密の暴露とさせていただきますぞ」
プルプルと肩を震わせ、コジルドは顔を引き攣らせながら床へと着地する。
自分から呼び出しておきながら、既に秘密を知られていた事に引っ込みがつかなくなったのか?
予定にないカードを切った時の表情だな……。
「親しきねぇ……。私は長い眠りから覚める以前の記憶を失くしているため、お前とはほぼ初めましてなのだが。
それでも構わないと申すのなら、その翼とやらを拝見しよう」
「フレンドリー……! 例え記憶を失くされようと、短期間のリトライであろうと……。
我はしかと感じておりますぞ。記憶や懇意を超越せし、確かなる魂の繋がりを!」
コジルドは拳を握り締め、グッと自身の胸に押し当てる。
ひとり盛り上がっているコジルドには申し訳ないが……その繋がりはきっと、偽物だぞ……!
魔王ロースの体に転生した日本出身の高校生と、いったいどんな繋がりを感じているのだろうか? むしろ俺は、確かに何の繋がりも感じていないのだが……!
「魂……私には難しい感覚だが、それでお前の気が済むのなら拝見しよう。
確か魔法の力で、翼を不可視化させているのだったな」
「おっしゃる通りですな。悪き……と言うより、禍々しき翼すぎるゆえに、魔法で隠しております」
「翼なんて、お前ならドヤ顔で見せびらかす代物だと思っていたが。禍々しいなら尚更に」
「それはご覧になれば、お分かりいただけるでしょう。では……」
コジルドはゆっくりと俺に背を向けながら、マントを肩の上へ捲り上げ。
――パチンッ……!
「――許されざる……ショータイム……!」
指を鳴らし、小さく囁いた。
すると、俺に向けられた背中の中央から、少しずつ宝石のような輝きが現れ始めた。