11話 牢獄視察1
『――おーい亮ちん! チャイム鳴ったぞ、昼飯昼飯! 一緒に弁当食べよ!」
これは夢か……? 過去の記憶か……?
また俺の脳裏に、お馴染みの親友である蓮池ヒロシの声が過ってくる。
『ヒロシ……授業中に爆睡するのはヒロシの自由だけど、チャイムが鳴った途端に大声を出さないでくれ。恥ずかしいだろ。
なんで寝起きなのに、そんな元気に叫べるんだよ』
『ハハハッ! ごめんごめんって。だってこんな広い空間で目が覚めたら、つい大声を出したくなってさ!』
『だろうな、だってここグランドだぞ? そもそも、体育の時間に爆睡するなよ」
『いやぁ。眠りについていないと、我の悪き力的なものが暴走しちゃうかもって胸騒ぎがさ!
善良なる市民と戯れて、怪我人を出すわけにはいかないだろ?』
『悪き力って。あの招き猫みたいな投げ方の事か? 単純にヒロシが球技苦手なだけだろ……』
『そんな事ないって。我が本気を出せば、どんな球技でも軽く世界とか狙えるけど……って、それより今は昼飯だ!
亮ちんっ、教室に急ぐぞ。ハリアップ!』
俺はこの会話を覚えている。どうやら日本での記憶を、また夢で見ているようだ。
懐かしいな……。この後ふたりで教室に戻り、いつものように向かい合って弁当を食べたっけ。
あの時のヒロシが食べていた弁当、凄まじかったな……。
『さーてとっ、いただくとするか。腹減ったー!』
『体育後だもんな、ヒロシは寝起きだが。俺もお腹ペコペコだ、いただきます』
『なぁ亮ちん、弁当タイムにごめん。食べながら少しいい?』
『どうした?』
『亮ちんってさ、誰にも話せない秘密ってある?』
『そりゃ……ない事もないけど』
『我にも秘密があってさ、それを亮ちんに話したくなったんだよ』
『いいのか? 誰にも話せない秘密なんだろ?』
『亮ちんは誰にもに入っていないさ、親友って言う特別枠。秘密を提供できる、言わばシークレットサービス!』
『いや……それはアメリカのボディガードだろ』
『ハハハッ! そうだっけ? まぁいいや、我の秘密なんだけど……未だに自分家の住所が覚えられないんだよ』
『はっ? 俺たちもう高校生だぞ?』
『だよな!』
『………………何その力強さ。本気で住所が分からないのか?』
『下界にあるって事は覚えた! けどそれ以上、我のサンクチュアリに関しての情報を覚えるのに難儀してて……。
こんな恥ずかしい事、亮ちんにしか打ち明けられないよ』
『だろうな。ゲームとかの情報は秒で覚えられるくせに、自分の住所が覚えられないって。
て言うか下界って、何様目線だよ』
『目線は市民と同じだって。我も同じ下界に住みし者だからさ!
それより、サンクチュアリの位置情報を覚えるコツとかない? 亮ちんにしか相談できなくて』
『コツも何も……ないよ。普通に覚えろよ……って言う前に、ヒロシさぁ……話を逸らして悪いけど、さっきから気になって集中できないわ。その弁当なに?』
『これっ? 卵かけご飯だけど。あとチューブの生ニンニク』
『学校で生卵を割るヤツ、初めて見たわ。おまけに生ニンニクって……何そのチョイス』
『亮ちんも味変に使う? 薬味チューブなら沢山持ってるからさ!
ワサビに柚子コショウ、ショウガに歯磨き粉、からしと後は……』
『待て待てっ! そこのアブノーマル男子生徒!
ひとつだけジャンル外のチューブが混ざっていたぞ。歯磨き粉? それは薬味扱いしたらダメだろ!』
『これイチゴ味だけど?』
『味は全く関係ない、使い方の問題! そんな頭のネジが外れたような事しているから、住所もろくに覚えられないんじゃ……』
『それこそ関係ないけど、まぁ亮ちんが心配するといけないから、早く引っ越したての新しい住所を覚えるよ! 頑張ってみる!
やっぱり亮ちんは優しいな、さすが親友!』
『――おい待てよ……! ヒロシお前、引っ越したのか……? 俺は何も聞いていないんだが……!』
俺はこの後に起きたヒロシとの喧嘩を、夢で見る事なく。
「んん……朝か……」
寝室のベットで、目を覚ました。
「おはようございます、ロース様!」
「あぁ、おはよう。お前は朝から元気がいいな、デュヴェルコードよ」
目を覚ますなり、俺はベットの隣に佇んでいたデュヴェルコードに挨拶を返す。
「いいえっ、究極に眠たいです! 側近が朝から、ふにゃついた態度では締まりませんから、無理矢理に近いほど元気を装っております!」
「………………あ、朝から素直だな。そこは正直に申さなくていいぞ」
「失礼致しました。ところでロース様、本日はいかがなさいますか?
また散っていったエリアボスたちの蘇生に回りますか?」
「それも重要だが、今日は別件を……」
俺はベットから起き上がり、デュヴェルコードを真っ直ぐ見つめた。
「昨日聞きそびれた、ある件を調べたい」
「ある件……昨日ロース様を死に追いやった、ハピリの事ですか?」
真顔で首を傾げながら、問いかけてくるデュヴェルコード。
昨日俺が死を迎えたのは、お前のせいだろロリエルフ。自然な流れで他人に罪を擦りつけるな……!
「それも多少は気になるが、今は別の確認をしたい。
勇者ンーディオが去り際に語っていた、囚われの姫についてだ」
俺が姫の話題を出した途端、デュヴェルコードはハッと表情を変えた。
「そうでした、すっかり忘れておりました。今でも牢獄に幽閉しておりますよ」
「どうやら本当にいるようだな、その姫とやらは。ンーディオに仄めかされるまで、全然知らなかったぞ」
「お伝えが遅くなり、申し訳ありません。ロース様が昏睡されていた間、ずっとお側にベッタリでしたので、わたくしも姫の存在を忘れておりました」
「忘れていた事は仕方がない、そこまで気に病むな。
詳細は向かいながら話してくれ。まずはその姫を幽閉している牢獄へと……」
俺が行き先を伝えようとした、そんな矢先に。
――コンコンッ……。
寝室のドアから、控えめなノック音が聞こえた。